プロレスラー、異世界で最強無敵の剣闘士に転生する!

井上みつる

王の判決

 兵士達が慌ててクレイドルを取り押さえていく中、王が両手を広げて俺の方へ来た。



「素晴らしい! まさか、あのような闘いがあるとは! 君がトルベジーノが言っていた『暴君』かね? いや、本当に面白い闘いだった!」



 そう言って俺の前に立つ王に、俺は片膝をついて礼をとろうとした。



 しかし、王は笑いながら俺の肩を叩く。



「はっはっは! そんな作法なんぞ気にするな! いや、私は本当に君が気に入ったのだ! 君になら娘を一人やっても良い! もう一人も残っていないがな? はっはっは!」



 王はそんなことを言って一人で笑っている。どうやらフランク過ぎるくらいフランクな王らしい。



 と、そこへ兵士の一人が近付いてきて跪いた。



「陛下、この男の処遇は如何致しましょう」



 兵士がそう尋ねると、王は笑いながら頷く。



「うむ。もちろん極刑だ。首を切って王城前に飾れ」



 いや、恐ろしい王だった。気軽に鬼のようなことを言ってやがる。だが、兵士もあっさり頷いている。



「……陛下、一つ頼みたいことがあります」



 意を決して、俺はそう口にした。



 すると、王は朗らかに笑いながら頷く。



「おぉ。なんだ? 私の命を救った男だ。なんでも言ってみるが良い」



 上機嫌な王にそう言われ、俺は口を開いた。



「クレイドルの命を、俺にください」



 俺がそう言うと王は一瞬目を丸くして俺の顔を凝視した。そして、困ったように眉をハの字にする。



「ふむ……しかしだな、暴君よ。王の命を狙った者を死罪にせねば示しがつかん。それに、あの男の失った物はもう元には戻らない類のモノだ。レッスル王国の王族はしっかりと根絶やしにしたし、その領土も十の上級貴族と息子に分割してくれてやった。後は私に復讐をするくらいしか望みはあるまい?」



 王にそう言われ、俺は深く頭を下げる。



「もちろん、ただ無罪にしろとは言いません。クレイドルを奴隷に落とし、奴隷の剣闘士として働かせます」



 俺がそう言うと、王は面白そうに眉を上げた。



「ほう? 王の殺害を目論んだ罪だ。一生奴隷から解放はされんだろう。しかし、剣闘士として働かせる為に奴隷に落とすのならば、とりあえず身体は五体満足でないといかんか。生涯奴隷とはいえ、ほぼ不問に近い判決だな」



 王はそう言って、俺を試すような目付きで眺める。俺はその目を真正面から見返して、口を開いた。



「……実は、やってみたいことがありまして」



 俺がそう切り出すと、王は首を捻る。



「ほほう。やってみたいこと? なんだ?」



 王は何故か前のめりになって俺に話の先を促した。なんで興味津々になっているのかは知らないが、前向きに聞いてくれるのなら有難い話だ。



 俺はそう判断すると、王を見据えて顎を引いた。



「自分の、剣闘士団を作りたいと思っています。見ての通り、俺は少々変わった戦い方をします。ですので、俺の戦い方を覚えることが出来る人材は貴重なのです」



 俺がそう言うと、王は面白そうに笑みを浮かべた。



「暴君の剣闘士団か! それは面白そうだな!」



 王はそう言って笑った。



「はい。必ず、どの剣闘士団よりも面白い試合をお見せしましょう。それは約束出来ます」



 俺がそう答えると、王は声を出して笑い、俺の肩を叩いた。



「わっはっはっは! 面白い男だ! どの剣闘士団よりも強いでは無く、面白い剣闘士団か! よし、赦す! そこの男をしっかりと面白い剣闘士に育てるが良い!」



 王はそう言って笑い、勢いでクレイドルの刑罰を見逃してくれた。



 俺はホッと胸を撫で下ろし、息を吐く。



 良かった。なかなか話せる御仁のようで本当に良かった。









「……ありがとよ」



 次の日、クレイドルはそう俺に言った。



 腰に毛皮を巻き付けただけの貧相な格好で俺の泊まっていた宿へと来たクレイドルは、開口一番にそう言って視線を外している。



 背中と胸にはわざと目立つように奴隷の印が施されており、それがかなり濃厚なギャング感を出している。



 それを見て、俺は頷いた。



「うん。クレイドルはヒール側だな」



「あん? なんだよ、ヒール側って」



 俺の呟きにクレイドルが眉根を寄せてそう返事をして、二人で笑い出してしまった。



「さぁ、酒を飲もう。貰った高級な酒がある」



「おい、待て。それはお前一人で呑めよ。俺は遠慮するぞ」



「何を言う。お前がくれた酒だろうが。お前から呑んでくれ」



「嫌がらせか、コラ! いや、分かったよ、分かりました! 勘弁してくれよ、団長!」



 俺とクレイドルが笑いながら部屋に戻ると、エメラが満面の笑顔で飛びついて来た。



 この日、俺の剣闘士団が正式に誕生した。



 所属する剣闘士は三人だけだが。









【後日、スプレクス剣闘士団にて】



 トルベジーノ王子の計らいにより、俺は奴隷の身分から解放された。そして、様々な面倒ごとを免除してもらい、気が付けば俺はいきなり剣闘士団の団長となっていた。



 そして、スプレクスが目玉が飛び出るくらい目を見開いて文句を言って来た。



「こんの野郎! 恩を忘れるばかりかクレイドルとエメラまで引っこ抜きやがって! なんだこの野郎!?」



 興奮するスプレクスを宥めながら、俺は笑顔で口を開いた。



「ところで、ハッチとアンクルも引き抜きたいんだが」



「まだ引き抜くってか!? なんて図々しい奴だ、こいつ!」



「その代わり、定期的に開催しろと言われている王都での興行にスプレクス剣闘士団を優先して呼ぶぞ?」



「よし、ハッチとアンクルはやろう! 他に必要なやつはいるか?」



 こうして、俺の剣闘士団は五人になった。



 意外と簡単に剣闘士を増やせるものである。

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