「TSF病」を発症した男子高校生がウサミミ美少女になる話

夢野つき

15、オタ活アニメ店巡り①

 気がつけば木曜日になっていた。そう、大輔と直樹と一緒に遊びに行く日だ。

 学校行ってからの2日間を振り返ってみれば、ろくな事をしていなかった。
 水曜日には朝にランニングをしてみたが、それ以外はずっとテレビを眺めながら食って寝ての生活をしていた。
 普通の一人暮らしの高校生は、生活費を稼ぐ為にアルバイトをしたり、大学受験のために勉強したり、友達と遊びに行ったりするのだが、彼の2日間にそんな青春のような華やかしいものは存在しなかった。まあ、夏休みが始まって6日目でようやく青春を謳歌する高校生のような用事が出来たあたり、まだマシな方なのだろう。

 目が覚め、時計を見ると目覚まし時計が鳴る1分前に起きたようだ。
 最近、意識はしていないのだが早寝早起きをするようになっていた。もしかしたら『兎人化』の影響かと思い兎の睡眠について調べてみたが、兎の生活パターンは薄明薄暮性と呼ばれるらしい。これは明け方(薄明)と夕方(薄暮)に活動をし、朝と夜には寝ると言う事だ。人間のような昼行性でも無く、小動物のような夜行性でもなかった。
 なら何故俺は苦手な早起きを続けられているのかと疑問に思ったが、面倒臭いので考えるのをやめた。

 俺は朝風呂に入る為、ベットの横に置いていたニンジンクッションに移り変わるように転がってのし掛かる。
 女の子になってから6日目、俺は何故か朝風呂の魅力に囚われていた。
 1日の朝と夜にお風呂に入るのが気持ちよく、日課になってしまった。
 髪が長すぎて面倒と常に思っているが、必要経費として諦めている。切って仕舞えば良いじゃないかと言う話なのだが、実はもう既に一回試しているのだ。

 一昨日、髪の毛が邪魔だから切ってしまおうと思い、洗面所でハサミを持ってロングヘアの毛先をバッサリと切った事がある。あまり見た目などは気にしていなかったから、それはもう思いっきりバッサリと切ってやった。
 これで楽になるなと思ったのも束の間、何と切った毛先からニョキニョキと新しい髪が生えて来たのだ。
 おかしいぞと思い何度も切ったが、直ぐに同じ長さに戻ってしまうのだ。おそらく、いや絶対に『再生』の特殊能力のせいだろう。
 そう気づいた俺は早々に髪を切る事を諦めた。

 いつも通りニンジンクッションで宙に舞いながら風呂場へ移動し、服を洗濯機に投げ捨てて風呂に入る。

「今日は久しぶりにあいつらと出掛けるからな。朝風呂でしっかりと目を覚ましてから遅行しないようにしないとな」

 しっかりと体を洗い、湯船に浸かる。

「ふぃ゛ぃ゛〜、極楽極楽〜♪」

 自分でもジジイっぽい声が出たと思った、この朝風呂の気持ち良さを知ってしまえば仕方がない事だと思い、直す事をやめた。

 7分程湯船に使った後にお風呂から出た。
 体をしっかりと拭き、ドライヤーで髪を念入りに乾かす。生乾きは少し気持ち悪くて嫌だからな。

 服は普通(子供用)のジーパンに花柄の刺繍がついた白いTシャツ、その上にベージュ色のカーディガンを着る事にした。少し大人っぽい雰囲気があるファッションだが、ロリコン三人衆は俺がこんなのを着ると思って買っていたのか?まぁ実際に着ているが。

「ふむ、結構可愛く行けたんじゃないか?ファッションには疎いが良い感じだろう」

 身長は明らかに子供だが、ファッションは大人。少し違和感を感じるが良いか。俺のファッション基準は鏡を見て自分が可愛いと思えるかどうかだからな。これで十分だろう。

 気がつくと起きてから1時間半も経っていた。集合時間も知らない為、携帯の通話アプリを開けて確認する。

直樹:『場所は駅前の噴水で集合時間は9時にしましょう』
大輔:『わかったぜ』
直樹:『そこから電車に乗っていけば1時間ほどで大阪のアニメストリートに行けるはずです』

 9時集合なら…あと1時間半は余裕あるな。
 朝食を食べて、少しゆっくりしたらタクシーを呼んでそれで行こう。

悠兎:『俺は歩くのめんどくさいからタクシーで集合場所に向かうね』
大輔:『本当か!?なら俺も乗せてってくれ!』

 なんか癪に障るので、「ならタクシー代を割り勘しろよ」と言ったら自分の足で行くと言った。まあ普通に考えたら割り勘するもんだが、大輔の事だから少し金持ちの俺に払わせるつもりだったのだろう。

 朝食は冷蔵庫に保存していたパスタを全て食べた。『念動力』で空腹だったのだ。
 6日間も空腹感を味わっていると流石に慣れてくる。だけど我慢できるわけじゃないので日頃の食費が上がった。
 食費は上がってしまったが、悪いことばかりではない。『念動力』のデメリットの関係上、いくら食べても太らないのだ。つまり、沢山美味しい物や甘いデザートを食べまくってもダイエットしなくて良いのだ!素晴らしい!

 予め携帯でタクシーをマンション前に来るように予約をしておく。

〜数十分後〜

 マンション前にタクシーが来たと携帯に連絡があったので向かう事にした。

 因みにだが、今日はウサミミを隠すものは一切所持していない。
 服にフードは付いていないし、帽子も用意していない。つまり、俺のウサミミが世間一般に晒される事になるのだ。
 あまりジロジロ見られるのは嫌だが、何だか自分が必死になって隠しているのもバカバカしく感じてきたからだ。俺が合わせるのでは無くて周りが合わせろという精神で行こう。ジャイアニズムに近い。

「最寄りの駅までお願いします」
「わかりました」

 運転手さんも俺のウサミミを見て驚きはしたが、触れてくる事は無かった。気遣いの出来る良い運転手さんだ。ネット口コミで星5の評価を付けておこう。

 15分程で駅に着くことは出来た。
 平日なだけあってか、人は多いが土日程ではない。これぐらいなら見られても仕方ないか。

「運転手さんありがとう。お金はこれで」

 一枚のクレジットカードを運転手さんに渡すと、機械で読み込んで直ぐに返された。

 タクシーから降りるとやはり目立った。沢山の人の目がこちらに向けられ少し居心地が悪いが仕方ないと割り切り、集合場所に向かう事にした。

 集合場所の噴水に行ってみると既に二人は着いて待っていた。向こうもこちらに気がついたようで手を振っている。

「おいーす、お待たせ」
「いえ、時間ぴったりですよ」
「それにしても悠兎、お前すげー女子っぽいファッションだな。その耳が無かったらわからなかったぞ」
「いやな?体が女の子だから女子みたいなファッションするのに全く抵抗がないんだよ。流石に男の時に女装するのは恥ずかしかったがな。あと、俺って無駄に美少女になったでしょ?なんか男装するのはもったいない気がするんだよね」
「「そういう問題なのか(ですか)?」」
「まあ、あんまり気にすんな」

 とりあえず集合できたと言う事で目的地に向かう事になった。

「そういえば、悠兎さんはその耳隠さなくても良いんですか?」

 駅のホームで次の電車を待っている時、直樹が俺のウサミミを見ながら聞いてきた。

「別に良いんじゃないか?やましいものでも無いしな。俺が周りに合わせるんじゃ無くて、周りが俺に合わせろ」
「お前、すげぇ暴論言ってるぞ?」

 雑談を交わしていると電車がやってきた。
 駅内もそうだったが、平日なだからなのか電車内もそこまで混み合っていなかった。
 電車に乗り込んだ時に大輔と直樹が空いている席を譲ってくれた。体力が減って立ち続けるのは辛かった為、ありがたく座らしてもらった。

「そういえばさ、最近の夏アニメ観たか?」
「おう!もちろん観てるぜ!」
「僕も観ていますよ」

 どんなアニメを見ているか聞いてみると、全員同じ物を観ていた。

「やっぱり俺はあのヒロインのライバル、幼馴染みちゃんが一番可愛いと思うんだよな」
「悠兎が好きになるキャラってだいたい負けヒロインだよな…。俺は近所の奥さんが一番好きなキャラだな!」
「いや、そのキャラそもそもヒロインですら無いだろ。やっぱり大輔の熟女好きの感性はよくわかんねぇな。直樹はどのキャラが好みなんだ?」
「僕は…主人公が通っている学園の生徒会長さんですかね。普段は生徒会長としてしっかりとしている性格だけど、私生活はかなりダメ人間というギャップがたまりませんね!あと主人公にはいつも押していってるのに、逆に押されるのは弱い所とか超絶可愛いと思います!しかもーーー」

 直樹のマシンガントークが炸裂し始めた。

 俺たちはアニメの話をしながら移動した。時には電車の乗り換えをしたりもしたが、特に問題はなかった。俺に周りの目が集まって少し居心地が悪かったくらいだ。

〜1時間後〜

 直樹のマシンガントークはまだ終わっていなかった。
 話題を変えようとロボットアニメの話をしたが、それがいけなかった。直樹は超絶的なロボットアニメオタクだからだ。
 あのロボはカッコ良かったと言った瞬間、直樹のマシンガンが再発火し始めたのだ。

「ーーー特にあのシーンは最高でした!他にもまだあるのですが」
「あぁ直樹、そろそろ着くから準備しろよ。悠兎もな」
「おや?もう着いてしまうのですか」

 ナイス大輔!
 大輔の一言によって直樹のマシンガントークは鎮火した。
 話の内容に共感出来るところは多々あるのだが、直樹の喋る速度が早すぎて全て理解しようと思ったら頭の情報処理能力がキャパオーバーしてしまう。なので適当に相槌を返しながら聞き流していた。

 着いた場所は大阪にあるアニメストリート。
 商店街のように左右に店が並んでおり、その8割がアニメ・ゲーム関連の店なのだ。残り2割も書店や飲食店になっており、まさにアニメオタク・ゲームオタクにとっては天国の様な場所だ。
 以前に何度かコイツら(大輔・直樹)と来たことがあるが、最高な場所だ。ここでなら何時間でも過ごすことが出来る。

「まだお昼まで時間はありますし…適当に見て回りますか?コラボカフェで昼食を取りたいと思っているので」
「なら色々見て回ろうぜ!」

 そうして俺たちはアニメストリートへと踏み入れた。

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