「TSF病」を発症した男子高校生がウサミミ美少女になる話

夢野つき

14、学校へ報告しに行く

 13時を少し過ぎた所で学校の正門前に着くことが出来た。

 3分前くらいには着けるだろうと思って、マンションを出て軽く走って来たが、全然そんなことは無かった。
 朝のランニングでは直ぐにバテてしまったから、もっとゆっくり走る事にした。今思えば殆ど歩きと同じ速さだったと思う。
 これぐらいのスピードならバテないと思い、ランニング気分で来たのだが思った以上に鞄が大きく、重かったのだ。そのせいで、家を出て10分ほどの場所で限界が来てしまった。持っていた水分を補給し、口に飴を突っ込んでから歩いて行く事にしたのだ。
 『念動力』で軽く鞄を浮かせ、持っている風に担ぎながら来た。

「…正門ってこんなにデカかったか?」

 顔を上げると、いつもよりも高く門が建っているような気がした。
 悠兎の身長はTSF病によってかなり低くなったため、目線の関係上どうしてもあらゆる物が大きく見えてしまう。どれ位の身長かと言うと、今の身長130cmは8~9歳の女の子程度の高さだ。悠兎の年齢は17歳で、その年齢の女性の平均身長は160cmである。とてもじゃ無いが年齢に不釣り合いな体である。

「流石にこの姿を学校の者に見られるのは恥ずかしいな…。こっそり行こう」

 何処ぞの怪盗や泥棒のごとく誰にも会わないように建物の影を進んでいく。まさにその姿は陰の住人。
 俺の陰キャ歴舐めるなよ?これくらい余裕だぜ!

 悠兎はこの時気付いていなかったが、かなり目立っていた。何しろ、彼の服の色は蛍光ピンクなのだ。目立たないわけがない。
 学校にいきなりピンクの服を着た人が入って来たら誰だって気付くし、気になってしまう。

『なぁ、あれ見ろよ』
『あ?今部活中だぞ』
『いや、なんかすんげーピンクの服を着た小学生くらいの女の子が居るんだよ』
『はぁ?…居ないじゃねぇか』
『あ、あれ?さっきまでそこに居たんだけど…』

 別の所では。

『ねぇねぇ、あの子迷子なのかな?』
『あ、本当だね。小学生の子が来るような場所じゃないしね』
『それにしても、あの子めっちゃ可愛くない?銀髪で目が赤かったし外国人なのかな?』
『日本語通じるかな?とりあえず声を掛けに…あれ?居なくなってる』

 ふぅ、何とかバレずに潜伏出来たぜ。
 一応、学校の生徒玄関には着くことが出来たから靴だけは上履きに履き替えておこう。
 自分の下駄箱から上履きを取り出し、履いていた靴を入れる。そして履こうとした時に気がついてしまった。で、デカい…。こんなの履いたら靴擦れで怪我してしまいそうだ。まぁ怪我しても直ぐ『再生』で直ってしまうけど。それでも痛いのは嫌だな。
 仕方なく、ぶかぶかの靴を履いて職員室に向かう事にした。

 ここで油断をしてはいけない。そんなことをするのは二流の陰キャがする事だ。
 夏休みの校舎内には部活動で来ている人がかなりいる。油断をしているとばったりと出会ってしてしまう。
 なんとか人と合わないように、ある時には隠れ、またある時には遠回りをして職員室を目指す。途中からスパイごっこをしているような気分になり楽しくなって来た。

 それから職員室に着いたのは30分後のことだった。校舎が大きい癖に無駄に人が多かったせいでかなり時間が掛かってしまった。まぁ30分遅れた程度、あの担任は気にしないだろう。
 ドアをノックしてから中に入る。

「2年A組の東雲 悠兎です。新島先生はおられますか?」
「おぉ!やっと来たか!待ってたぞ!」

 職員室に入った瞬間、新島先生以外の先生もいる訳で、色々な視線が突き刺さる。うへぇ…目立つのってやっぱり嫌だな。陰の者にはキツすぎる。

「東雲、随分とちっさくなったな!前から背は低かったが、今はもっと小さいな。小学生かと思ったぞ!」
「うるせぇ!早く用件を済ませろよ!」
「まぁそんな怒るなって。…ふむ、それにしても随分と可愛くなったな!研究所?からの連絡が先になかったら東雲か疑ってしまうほどだ。将来は別嬪さんになれるぞ!」
「それセクハラですよ?そんなこと言ってるから女性に振られるんですよ」
「なんでその事を知っている!?」

 先日、たまたま街のカフェで本を読んでいたら新島先生が女の人と居る所を目撃した。面白そうだから後をつけてみたら、振られてビンタされている瞬間を見てしまった。一応、弱みに使えると思いその瞬間の動画はしっかりと保存している。

「その時の動画ありますよ。ほらこれ」
「おいぃぃ!?それを職員室内で大音量で流すな!とりあえずその動画を消せ!」
「ん?よく聞こえないなぁ?」
「お願いします!消してください!何でもしますから!」
「言質取りましたからね」

 俺は仕方なく動画を止めて消した。

「フハハ!その動画が無くなってしまえばもう怖いものは無いぞ!」
「家のパソコンにバックアップはちゃんとしてますよ?」
「まじで許してください…」

 大の大人が見た目小学生の女の子に土下座をかますシーンは職員室の全員の先生に見られていた。それによって、新島先生への目線はどんどんと冷たくなって行く。
 面白かったので、土下座の写真を取った後に新島先生を立たせる。

「こんな所で戯れてないで早く用件を済ませたいのですが」
「わ、わかったから、その動画は誰にも漏らさないでくれよ!?」
「これからの先生の行動によりますね(ニッコリ)」

 最後の笑顔が効いたのか、新島先生は急いで必要な書類を取りに行った。いつもあれくらいテキパキと教師の仕事をしてくれれば良いんなだけどな。
 先生が書類を持って来た後、保健室で色々と相談をする事になった為、保健室に向かう。一応、新島先生と二人で行かせるのは心配と言う事で、俺のクラスの副担任である高橋先生が一緒についてくる事になった。
 高橋先生は女性の先生で、去年に初めて教師になったようで、かなり若い先生だ。赤縁メガネを掛けていて、いつもキリッとしているがかなりポンコツな先生だ。
 さっきの土下座で新島先生は高橋先生からの信用がかなり下がったようだ。ご愁傷様です。

「東雲くん?は何でフードを被っているの?」

 一緒に廊下を歩いていると、高橋先生が急にフードについて聞いて来た。

「研究所からの連絡で俺については聞きませんでしたか?」
「えぇ、TSF病を発症したって事しか知らないのよ」
「ふむ、なら仕方ないか…。実は…」

 俺は被っていたフードを脱ぎ、ウサミミを見せる。さっきまでフードの中で無理やり寝かせて押さえていたから、少しウサミミが痛い。

「う、兎の耳…ですか?」
「何だそれ、コスプレか?(ギュ)」
「ふぎゃぁぁぁあ!!」

 咄嗟の出来事で、思わず『雷魔法』が発動してしまった。

「うお!?いってぇ!」
「おいこら新島ぁ!?てめぇなんて事してくれてんだ、ア゛ァ゛!?」
「お、落ち着いてください東雲くん!キャラがブレまくってます!」

 高橋先生に腕をホールドされて何とか怒りを沈める。
 それにしても、いきなり耳を鷲掴みする奴がいるか普通?いや、絶対にいない。咄嗟に『雷魔法』を使ってしまったが、俺は悪くねぇ。新島先生が悪い。
 『雷魔法』の威力はかなり弱かったようで、静電気よりも少し痛いくらいだったらしい。チッ、後少し出力を上げていれば。

「す、すまんかった」
「今度からは気をつけてください。さっきみたいにいきなり電気が出てしまうかもしれないので」
「電気…と言うのは東雲くんの特殊能力って言うやつですか?」
「まぁ、その事については保健室でも話しますよ」

 廊下では他の生徒とすれ違う事無く、保健室につくことが出来た。
 保健室内には誰もおらず、保健の先生も外出中のようだ。

 それからは、必要な書類の確認や校則について、生徒手帳や学校側からの対応、その他色々と話し合った。ちゃんと俺の特殊能力についても話した。まぁ、【高位能力ハイクラス・アビリティ】と『不老』『再生』については言わなかったが。
 制服の為にサイズ合わせをするのかと思っていたが、どうやら研究所から体のサイズや身体能力についての情報は来ていたようだ。だから制服合わせはしなくて済んだ。

「実は、TSF病を発症した学生さんのほとんどは、急激な体の変化によって普通の人と一緒の制服が着れない子が多いようです。理由は様々ですが、特に男の子から女の子に変わった子は『恥ずかしい』と言った理由でスカートが履けなかったりするようです。その為、TSF病発症者が学生だった場合、元の制服のデザインを崩さない程度にカスタマイズできるそうですが、東雲くんはどうしますか?」

 何だと!?そんな事が出来るのか!

「なら制服にフードをつけてください!出来るだけ大きめのサイズでお願いします」
「その耳を隠す為ですか?」
「はい!」
「わかりました。そしたら、制服を頼んでいる業者にはそう頼んでおきます。色の指定とかはありますか?あまり目立つ色はできませんが」
「なら白でお願いします」

 制服は淡い紺色な為、白いフードはデザイン的にもまだマシだろう。俺の白い髪の毛にも合うしな。
 スカートへの抵抗はないのかと聞かれたが、もうすでにスカートを着て生活している為、何とも思わないと伝えたら苦笑いされた。

 そのあとも、色々と説明を聞かされた。ほとんど覚えていないが。
 ただ、特殊能力の使用に制限はつけないが、節度は守って学校生活を送ってくれと言われた。確かに、さっきの『雷魔法』なんかは危なすぎるからな。暇な時に制御できるように練習なんかしていたが、かなり難しいし故意には使わないようにしよう。新島先生みたいに耳を掴まれて咄嗟に出たら仕方ないが。
 他にも、生徒手帳の更新や学校での単位について話し合った。

 話し合いが終わったのは夕方頃になった。
 制服は後日に家に届くようだ。せっかく鞄を用意したが意味がなかったらしい。

「話は以上ですが、何か質問や要望はありますか?」
「いや、特にないですね。ただ言う事があるとすれば、新島先生の再教育をお願いします」
「お、おい、さっきはすまんかったから。そんなに怒るなよ…」
「あはは…」

 ジト目で新島先生を睨むと、本当に申し訳なさそうにしていた為、仕方なく許す事にした。もちろん、次やったら動画をばら撒くと保険をかけておいた。それを聞いた新島先生は顔を青くして震え上がっていた。

「もう帰って大丈夫ですかね?」
「はい、何か気になる事があったりしたら学校に電話してくださいね」
「わかりました。では、失礼します」

 そう言って、俺は保健室から出て行った。
 やっと帰れるぞ!

 もちろん、誰にもバレないようにこっそりと学校を出た。つもりだが、結構な人に見られていた、それを悠兎は全く気がつかなかった。

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