「TSF病」を発症した男子高校生がウサミミ美少女になる話

夢野つき

13、引きこもりのランニング

 俺が階段で座りながら携帯をいじっていると、大輔はすぐに戻って来た。

「本当に待ってたんだな!」
「お前が待てって言うからだろ」
「いや、だってお前…幼稚園の時、隠れんぼしてたら俺置いて帰った事あっただろ?」
「…」

 あぁ〜、そんな事もあったような?気がするな?親友なのにあんまり信用されていない事はわかった。

「…それで、なんで俺は待たされたんだ?」
「あ、露骨に話変えやがった」
「…よし、走りにいくか」
「ま、待てよ!俺も一緒に走りたいから待たせたんだよ!ちょっと待ってろ!」
「また待たせられるのか」

 そういえば、大輔は毎朝運動してると言ってた事あったな。どんなコースを走ってたりするのか少し気になるから待っておいてやろう。
 前に研究所でどれだけ走れるか試したが、体力は物凄く低下していた。
 短距離走は早く走れるが、長距離はすぐにバテてしまう。このままでは、女子高生の平均にも届かないほどに体力が低下しているのだ。流石に、元男としてのプライドが許せない。だから、なんとかして筋力と体力を身につけたい!
 それなら、毎日すれば良いじゃないかと言う話なのだが、それは嫌だ。それでは俺の自堕落生活が汚されてしまう!だから、ランニングとかは週2くらいのペースでいいと思っている。

 どうすれば筋力と体力が鍛えられるだろうかと考えていると、大輔が高校の体操服姿で荷物を持ってやって来た。

「このまま学校に行くのか?」
「おう!悠兎も学校まで走って行こうぜ!」
「いや、俺は学校に用事は全くないんだが」
「別に良いじゃねぇか。徒歩で20分も掛からねぇ道だからよ、走ったら13分程で行けるだろ?ランニングに丁度良いし、悠兎もついて来いよ!」
「ヘイヘイ、わかりましたよ」

 まぁどこの道を走るのか決めていなかったし、大輔の指定した道を走るのも別に良いか。

 そうして、俺たちは走り始めた。
 しかし、マンションから出発して6、7分の場所で俺がバテてしまった。お、おかしい。以前の俺から見てもかなりゆっくりなペースだった筈なんだが、なんでこんなにバテてしまってるんだ?前にも思ったが、俺の体力低くなり過ぎだろ!?

「おいおい、もうバテてちまったのか?」
「ゼェ…ゼェ…も、もう無理…」
「はぁ、普段から動かねぇから体力はないと思っていたが、ここまで無いとは思わなんだ。飲み物はあるか?」
「ない…」
「はぁ、ったくしょうがねぇな。ちょっと待てな」

 大輔はそう言うと、荷物を置いて走っていった。
 俺が息を整え終わった頃に大輔は戻って来て、ペットボトルを渡して来た。

「ほら、水だ」
「ありがとう。助かった」

 やった!恵の水だ!
 渡された水を一気に飲み干し、前屈みになっていた上半身を起こす。
 何だか頭の中がスッキリした感じがする。何時もより景色が鮮明に見える。

「それで、なんで急に体を動かそうと思ったんだ?悠兎らしくないぞ」
「…以前の体の時も体力は無かったんだけどな、この体になってからもっと体力が落ちたんだよ。流石に少しは鍛えないといけないかなと思って」
「なるほどな。まぁそんなに焦んなよ」
「焦ってるように見えたか?」
「まぁな。でも大丈夫だ!ゆっくりでも良いから少しづつ鍛えれば良い!筋肉は嘘をつかねぇ!!」
「え、いや、別に筋肉を付けたいわけじゃ…」

 大輔はボディービルダーのようなポーズを決めながら、自分の筋肉を愛おしそうに見つめていた。体操服のジャージの上からでも分かるほどの筋肉は、高校生とは思えないほどに鍛え上げられていた。
 俺、体力を付けたいだけで筋肉が欲しいわけじゃないんだけどな。

「俺はここからランニングで帰ることにするわ」
「そうか!なら気をつけて帰れよ!俺は部活に行ってくるぜ!」

 俺たちは軽く会話をした後、道の真ん中で別れた。
 もちろん、お俺は軽く走りながら帰った。マンション前で死にかけていたが。

 家に着いた途端、俺は玄関に置いていたニンジンクッションに倒れ込む。汗で少し濡れていたが、そんな事はどうでも良いと言った感じで抱きつく。
 『念動力』で移動しながらリビングまで移動する。一応、汗を拭くために風呂場からタオルを取って来てからだ。

 ソファを後ろに退けて、その場所にニンジンクッションと一緒に居座る。そして、カ○リーメイトを貪りながらテレビをつける。あぁ、この時間が一番の至福だ!動いて汗をかいた後にダラけるのは最高だな!
 昼飯の時間までにはまだ時間があるため、だらだらして居たら、携帯が鳴った。

「…へッ!?み、雅さんからだ!!」

 ど、どうしよう!?お母さん以外で初めて女性から電話がかかって来た!めっちゃ緊張するぞ!とりあえず、もしもしで良いのか?

「も、もしもし、東雲です」
『TSF管理課の岩崎 雅です。検査から1日経ちましたが、体の方は大丈夫ですか?』
「はい!元気です!」

 ヤベェ、面接のような受け答えしてしまった。

『それは良かったです。今日の今朝方に東雲さん宛に封筒を送ったのですが、中身は確認されましたか?』
「はい、国からの生活援助についてとTSF病発症者の証明カードですよね。中身の書類には目を通しておきました」
『そうですか。一応規則ですので、中身の書類の説明を一緒に確認しておきたいのですが、今手元に用意できますか?』
「はい、ちょっと待ってください」

 えぇっと、確か玄関の下駄箱の上に…あった、しっかりと置いてあった。

 それから、雅さんと一緒に書類の内容を確認していった。まぁ書いてあった内容とほとんど変わりは無かったから問題は無かった。

『それでは以上となるのですが、あれから通っている学校やご両親に連絡はとられましたか?』
「あぁ…、まだして無いですね」
『あまり人様のご家庭についてどうのこうのは言いませんが、学校には連絡を入れた方が良いですよ。新しい女性用の制服を用意してもらったりして頂かないといけないので。一応、研究所から連絡は行っていると思いますので、早めの連絡をお願いしますね』
「わ、わかりました」
『説明等の話は以上になりますが、何か質問等はありますか?』
「特に無いです」
『わかりました。では、何か気になる事等がありましたら連絡してください』

 雅さんとの電話は終了した。
 言われるまで気づかなかったが、あいつら(大輔と直樹)以外にTSF病を発症した事言ってなかったな。両親に連絡は…やめておこう。お母さんには着せ替え人形にされそうだし、親父にはまた笑われそうだ。
 せめて学校には連絡しておくか。そういえば、夏休み入る前のHRホームルームで新島先生も学校には連絡しろって言ってたな。…連絡したら連絡したであの先生も笑って来そうだ。

 仕方なく・・・・!学校に連絡する事にした。新しい制服の件もそうだが、雅さんに連絡してと言われたからだ。雅さんにそう言われなかったら連絡なんてしてない。
 家の固定電話から連絡する事にした。
 学校の連絡先を入力し、電話をかけると1コール置く前につながった。

『もしもし、私立青夏高校の新島です』
「(げッ!よりによってコイツかよ…)…もしもし、2年A組の東雲 悠兎です」
『お!?東雲か!一昨日、TSF病の研究所から連絡があったぞ。お前、TSF病を発症したんだってな!声も女の子っぽくなってるし本当だったんだな!』

 電話の向こうで新島先生の笑い声が物凄く響いて聞こえてくる。コイツ…(イラッ)。

「校則なんで一応連絡を入れとおきました。では」
『待て待て!勝手に切ろうとするんじゃ無い』

 え〜…。

『政府から連絡が来ててな、新しい制服等の支給をしねぇといけねぇんだ。そのために学校に来てもらう必要があるんだが、いつなら来れる?出来れば早い方がいいんだが』
「いつでも行けますけど、行けません。めんどくさいです」
『よし、なら今日の13時に来い!私服で大丈夫だからしっかり来いよ!』

 そうなるんだったら、大輔とランニングしている時に行けば良かった。
 時計を見ると針は11時半を指していた。1時間もあるし、着替えてから行くか。汗かいた服のままだし少し汗臭いかもしれない。あ、お風呂に浸かって体を癒してから行こう。
 お風呂で体を洗ったりするのは面倒くさいと思うが、湯船に浸かってゆっくりするのは好きだ。特に、女の子の体になってから余計にそう思うようになって来た。

「お風呂〜お風呂〜♪」

 自分の着替えをしっかりと持ち、風呂場へ向かう。もちろんニンジンクッションでだ。
 いつも通り、着ていた服をパパッと洗濯機に投げ捨てお風呂に入る。

 十分程でお風呂から出て、体を拭いて髪の毛を乾かす。

「やっぱりお風呂は最高だなぁ〜!熱々の湯船に浸かるのが一番良い!」

 着る服はさっきと変わらないスポーツウェアだ。ただ色が白からピンクになっただけで、本当に変わらない。なぜか同じような服が3着ずつ色違いであるのだが、絶対にロリコン三人衆の趣味でだろう。

 軽い軽食を取り、学校鞄の準備をしていく。
 鞄の中は夏休み前日にあった授業の教材がそのまま入っていた。おそらく、今日は新しい制服とか貰うはずだから鞄のスペースを空けておかなければ。ついでにプロテインバーを5本ほど忍ばせておこう。
 準備が終わり、時間を確認すると12時40分になっていた。今から家を出て走っていけば丁度いい時間に着けるだろう。
 さて、今度は水分もしっかりと持ったし、もう一度ランニングをして行くか。

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