「TSF病」を発症した男子高校生がウサミミ美少女になる話

夢野つき

10、帰宅からの飛び蹴り

 マンションの前に着いたのは、太陽が沈んで少し経ってからだ。
 4時間ぐらいで終わると言う話だったが、そんな事は全くなかった。あいつらまだ待ってんのかな?

「東雲さん、着きましたよ」
「ありがとうございます。わざわざ途中、コンビニを何件も寄ってもらって」
「いえ、これも仕事ですので大丈夫です」

 帰りの途中、コンビニに寄った理由は食べ物を買い溜めしておくためだ。
 俺の特殊能力『念動力』は強力な能力だが、かなり燃費が悪い。30分使い続けるとカロリーを消費するため、空腹でかなりキツくなる。なら使わなければ良い話なのだが、こんな便利な力を使わずにするのは勿体無い!と言う事で、カロリーを即摂取出来る様な食べ物を対象に爆買いして来た。
 買って来た物はカロリーメ○トやプロテインバー、飴玉、最後にマヨネーズ。
 もちろん、マヨネーズは飲む用だ。俺は生粋のマヨラーだ。飲む事なんてなんとも無い…多分。
 それらを合計3万円分ほど買って来た。支払いの時、店員に若干引かれていたが問題ない。

「これらの荷物、運ぶの手伝いましょうか?」
「いや、大丈夫ですよ。『念動力』で運ぶんで」

 俺は『念動力』で車のトランクからどんどん荷物を下ろしていく。
 ダンボールが4個に食料入りのエコバックが3袋。計7個の荷物を浮かべる。
 ちなみにだが、俺が買ったのは食料3袋だけだ。残りのダンボール4個は服や下着が入っている。ロリコン三人衆に買いに行かせた奴だ。
 別に、家にあったあの服たちでも良いのだが、あれは世間一般的に言うとコスプレようの物がほとんどだ。しっかりした衣装が欲しいと思ってしまったのだ。箱の中には、外出用の可愛らしい物から室内用のラフな衣装まで色々あった。言っていた物もしっかりと買って来ていたので、やっぱりあいつらは良い奴らだ。ロリコンだったけど。

「早速、特殊能力を使いこなしていますね…」
「まぁ燃費は悪いですけど、便利なんで。私生活でも使って良いんですよね?」
「はい、特に問題はないです。ですが、他者に迷惑がかかる様な事はしないでくださいね?私が担当した人が刑務所に行くなんて嫌ですから」
「実際にTSF病で捕まった人っているんですか?」
「世界的に見ても殆どいません。特に日本では全くいませんね。TSF病の発症者は何故か内気な性格の人が多いですからね、殆どの方は大人しく生活を送っておられる様です」
「はぇ〜、そうなんですね」

 確かに、俺もよく「内気な性格だ」と言われる事は良くあった。みんなでワイワイ騒ぐのも楽しとは思うが、家で本読んでいたりする方も楽しいと感じる。学校でも休み時間は太輔や直樹と話しているだけの時が多いからな。

「それでは、私は署に戻りますね。あ、これを渡すのを忘れる所でした」

 雅さんが車に戻ろうとした時、何かを思い出した様で、胸ポケットから一枚の紙を取り出して渡された。

「TSF病発症者の方には一人ひとり専属のTSF管理課職員が一人付きます。東雲さんの場合は私になりますので、何かあった場合は私に電話やメールを送ってください。この紙に書いてありますので保管をしておいてください」

 やった!雅さんのメアドと電話番号だ!自分のお母さん以外で初めての女性の連絡先だ。
 俺が喜んでいると、「事務用のですが」と付け加えられた。畜生…、こんなに喜んでいた俺が馬鹿みたいじゃないか。
 個人的な連絡先を聞くのはまたの機会にしよう。もっと仲良くなってからだ。

 少しだけ会話を交わすと、雅さんは帰って行った。

 俺は荷物を浮かべながら、マンションの中へ入っていく。
 指紋認証が反応するか心配だったが、大丈夫だった。指紋の形は変わっていなかった様だ。
 マンション内では誰ともすれ違わず、すぐに自分の部屋に着く。結構、あいつらを待たせてしまったな。

「ただいま〜」

 玄関を開けて声を掛けたが、誰の返事もない。おい、家の主が帰って来たんだから返事くらいしろよ。
 俺がリビングに行くと、大輔と直樹は2人でテレビゲームをしていた。髭を生やした赤いおっさんがテーマのレーシングゲームだ。

「ここですッ!」
「あー!ゴール前で抜かされちまった!」
「ふふ、気を抜くからですよ」
「もう一回戦だ!次は勝ってやる!」
「えぇ、望む所です!」

 こいつら…。完全に俺を忘れて楽しんでいやがる。リビングの扉が開いたのに気づかない。
 …よし、ドロップキックだ。

「帰って来たのに気付けぇぇえ!!」
「グボァッ!!」
「グヘェッ!!」

 よし、ダブルキル達成だ。
 大輔のガラ空きだった脇腹に叩き込んでやった。

「は、悠兎さん、お帰りなさいです」
「お、おかえり…」

 直樹は軽症で済んだ様だが、大輔は重症だった。言葉も辿々しくなってしまっている。
 まぁ、こいつらが悪いから仕方がない。少し申し訳ないとは思うが反省はしない。

「いてて…気付かなかったのは悪いが、別に蹴る必要はねぇだろ。死んだらどうすんだ」
「大丈夫、お前はこれ位では死なん」
「ひでぇ!お前は俺をなんだと思ってるんだ!」
「熟女大好きな筋肉ダルマ」
「もっとヒデェわ!」
「それよりも悠兎さん、行く時と服が変わってますね」

 俺は今、パーカーを着てジーンズを履いていた。コンビニとか寄る時に耳を見られるのはなんだか嫌だったから、フードで隠していたのだ。

「買い物もして来たんだが、その時にウサミミが邪魔だったからな。パーカーに着替えて来たんだ」
「そうなんですね。だからこんな時間になったんですか?」
「いや、まぁ…そう言うことにしといてくれ」
「?」

 本当は、俺の特殊能力の能力測定で時間が掛かってしまったのだが、言えないよな。「めっちゃ危険な特殊能力ゲットした」なんて言えない。説明したら怖がらせてしまいそうだ。
 国から使用を禁止される様な特殊能力なのだ。とてもじゃないが俺も怖くて使いたくない。

「そう言えば、どんな特殊能力だったんですか?僕、気になります!」

 何処ぞの少女みたいな事を言いながら、興味津々な目で直樹は見てくる。大輔も気になっている様だ。
 研究所の話では、特殊能力は親しい人以外には言う物では無いらしい。何処かから情報が漏れて危険な目に遭わないためにも、極力情報は言わない方が良いようだ。
 流石に【高位能力ハイクラス・アビリティ】について言う訳にはいかないよな。だったら雷魔法が使えることと『兎人化』、『念動力』について言っておくか。『不老』と『再生』は危険な部類に入るらしいから、まだ言わないでおこう。

とりあえず・・・・・、3つあったぞ。1つ目は『兎人化』だ。このウサミミは、その特殊能力のせいで生えたと思われるらしい。どう言う能力かと言うと、兎の特徴が体に反映されるらしい。だから、脚力と聴力が滅茶苦茶すごい事になってるぞ」

 そう言うと、俺は実際にジャンプをする。軽く跳ねただけだが簡単に天井に手が付いた。
 それを見た直樹と大輔は「おー」と言いながら拍手する。

「2つ目は『念動力』だな。ほら、こんな感じに物を浮かべられる」

 ソファにあったクッションを1つだけ浮かべる。
 これを見た直樹と大輔は、先程よりも鼻息を荒くして興奮していた。相当驚いた様だ。

「すげぇな!本当に物が浮いてるぞ!」
「これどうなっているんですか!?」
「いや知らん。特殊能力としか言いようがない」

 しばらく、こいつらの前でクッションを浮かべて遊んだ。良い反応をしてくれるから結構面白い。
 すると突然、大輔がクッションを掴んだ。面白そうだからクッションを上へと浮かせたら大輔の体も浮いた。それには俺も流石に驚いた。人も浮かべるの!?
 そうだ、良いこと思いついた。また今度実践してみよう。

「最後は魔法だな。そうだな…『雷魔法』が使える様になったよ」

 本当は魔法だけの能力ではないけれど『雷魔法』と言っておけば良いかと思い、そう言っておく。

「「魔法!!」」
「そうだ、見とけよぉ〜」

 俺は、能力測定の時にやったのと同じ様に、両手の掌を向かい合わせて雷を発生させる。
 大輔と直樹の目はこれでもかと言わんばかりに見開いていて、キラキラしていた。

「すげぇ…」
「すごい…」
「まぁ、魔法が使えるからなんだって話なんだけどな。使う時なんて知らない人に襲われたらスタンガン替わりにするくらいだしな。出力間違えたら人を感電死させてしまうかもしれないし使う時は全くない」
「そうなんですね。でも魔法が使えるだけでも凄いですよ!」
「あぁ、そうだぜ!」

 こうも率直に「凄い」と言われるとなんだか照れてくるな。
 一応、デメリットがある事も伝えておいた。『雷魔法』に関して言えば、全くデメリットはないのだが、1つだけ無いのもおかしな話なので、適当に「眠たくなってくる」と言った。

 しばらく大輔達と話していると、直樹が帰らなければいけない時間になった様だ。
 「また遊びに来る」と言い残して彼は自宅に帰って行った。

「俺もそろそろ帰るわ。あ、この漫画借りて行って良いか?」
「おう、良いぞ」
「あんがとよ。よし、じゃあまたな!」
「まぁ同じマンションだけどな」

 大輔は、漫画を返しに来た時に使った袋に新しい漫画を入れて帰って行った。

 アイツらが居なくなった後の部屋は静かな物で、少し寂しさを感じてしまうとともに、やっとゆっくり休めると思ってしまう。
 テレビを付け、ニュースを観ながら株式アプリを開ける。日課はしっかりと済ませておかないとな。

「あ、暴落してる…」

 30万円ほど失っていた。
 久しぶりに読が外れ、ため息をつく。しかし、これくらいの事で諦めてはいけないと思い、株の売り買いをして整理していく。

 気がついたら、時間は20時を超えていた。
 俺はさっさとお風呂に入り、自分の部屋で寝る事にした。

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