「TSF病」を発症した男子高校生がウサミミ美少女になる話

夢野つき

9、特殊能力を使ってみよう②

「ねぇ翔子さん。雷関連の神器ってどんなのがある?俺、あんまり神話とか知らないから分からないんだよね」

 ギリシャ神話の主神はクロノスだったが、自分の子供のゼウスに倒されてしまい、ゼウスが主神になった程度の知識しか無い。
 他にも、日本神話なら雷神の名前しか知らない。

『そうだね…、やっぱり有名なのはゼウスだろうね。ギリシャ神話における最高神にして全知全能の神と呼ばれるゼウスは『雷霆ケラウノス』と呼ばれる杖を持っていたとされているよ。その一撃は世界を焼き尽くし、宇宙をも破壊する威力らしい』
「危なすぎでしょ…」
『他には、北欧神話に出てくる雷電の神トールが使っていた『ミョルニル』と呼ばれる槌。ケルト神話の光の神ルーの槍『ブリューナク』。ヒンドゥー神話のインドラ神の『ヴァジュラ』や『パランジャ』なんかが有名だね』

 全く分からねぇ。
 しかし、どれか一つは再現できるか試してみないと帰れ無さそうだな。でもなぁ〜どれも危険そうなんだよな〜。雷霆ケラウノスは絶対に危なそうだから却下。ミョルニルは槌、言わばハンマーなんだろう。重くて持て無さそうだから却下。ブリューナクは槍だからまだ行けそう。翔子さん曰く、ヴァジュラは棍棒でパランジャは剣らしいが、どれも危険そうだ。

『私的にはブリューナクが良いと思うよ。槍とは言っても神話では投槍のように表現されていたからそっちの方が安全そうだよ』
「ならそうします」

 武器が決まったのならさっさと始めよう。さっきの『念動力』のせいでお腹が空いているし、朝早起きしたせいで眠い。つまり、俺は早く家に帰りたいと言う事だ!!

 翔子さんに始める合図を出し、意識を集中させる。
 とにかく頭の中で投槍をイメージしまくる。持ち手は長く、槍先の刃は…どんなのだろう?あ、翔子さんに聞くのを忘れていた。今から聞くのもなぁ…また笑って来そうだし止めよう。
 えぇっと、ものすごく尖っているのか?それとも三叉のトライデント?あれ、トライデントってポセイドンの槍だよな。雷関係ねぇじゃん。あぁ、なんかもう疲れて来た。早く帰りたい。

 煩悩だらけの思考に耽っていると、次第に何も考えたく無くなってくる。
 そんな時間が数分続いた時、悠兎の目の前の空間が帯電し始める。

『岩崎博士!!対特殊能力専用ルーム何の空気が帯電して来ています!!』
『今どれくらい帯電している?』
『普通の人間なら触れただけで即死するほどです!!』
『何!?悠兎くんは大丈夫なのか!?』
『彼女のバイタルには異常ありません!』

 何だか翔子さんの声が聞こえるな…。

 目を開けると、目の前には一本の槍が地面に突き刺さっていた。
 どこまでも黒く長い持ち手に、黄金に輝く穂先。穂先は5本に分かれており、雷による帯電によって火花がバチバチッと散っていた。

「これが…ブリューナク?」
『悠兎くん!大丈夫か!?体に異常はないかい!?』
「へ?いや特に、問題はないよ。ただ、物凄くお腹が空いているし、気怠い感じがしますけど」
『それだけ?』
「はい。え、なんかおかしな所ありましたか?」
『いやね、君のいる空間なんだけど、今ものすごく帯電しているんだよ。一般人が触れたら即死してしまうほどにね』
「ブーーッ!!」

 いきなりの発言に吹き出してしまった。
 俺、完全に人外と化してしまってるな。

『それがブリューナクかい?』
「多分だけどそうだよ」
『それを抜いて持つ事はできるかい?』
「やってみるよ」

 俺はブリューナクを両手で掴み地面から引き抜く。お、重い。
 持ち手側の端についている石突から穂の先端までの長さはおよそ3m弱。重さは俺が持てる20kgよりも少し軽いくらいで、槍投げと言うにはあまりにも重過ぎた。
 そうだ、『念動力』で持ち上げれば良いんだ。今もお腹は空いているが、こんな重い物を持っている方が辛い。

『ほう、『念動力』を使って持ち上げているのか。なら次は、真ん中にある的に向かって投げ飛ばしてくれないか?』
「了解」

 『念動力』でブリューナクを引き、的に狙いを定める。
 的を意識し出した瞬間、ブリューナクが急激に光り出した。バチッバチッと雷と纏い始めたのだ。次第にその勢いは強くなり始め、大気を震わし、空気を焦がす。そして、常人には直視できないほどに雷が膨れ上がる。
 …これ、投げて本当に大丈夫か?絶対にこの施設が崩壊する気がする。と言うか耳が痛い。ウサミミが特に痛い。雷の音が煩すぎるのだ。
 仕方ない、投げてあの的に当てれば終わりだろう。覚悟を決めてやるしかないか。

 的に狙いを再度定める。ほんの少し軽く押し出して当てれば良いだけだ。
 そう思い、少しだけ押し出した瞬間、槍が目にも止まらぬ速さで飛んで行った。

「…へ?」

 瞬きをして、次に目を開けた時には的を貫いていた。しかも、威力は投げ始めの時と全く変わらない様子。
 このままだと的と同じ様に壁まで貫通してしまう。と、瞬時に悟った俺は『念動力』を再度使い、槍の勢いを止めに入る。すると、急激に速度が落ちていき、壁に当たるギリギリで停止した。
 しかし、当たる寸前だった壁はブリューナクの熱量に耐えられなかった様で、ドロドロに溶けて向こう側が見えてしまっていた。

『博士!対特殊能力専用ルームの南側の壁が崩壊しました!ついでに、南側にあった計測設備との接続も切れました!』
『なにぃぃ!?デーティル鉱石製の壁が貫通されたって言うのか!?』
『いえ、彼女が放ったブリューナクは壁に接触する前に停止した様です。壁がブリューナクの熱量に耐え切れず、溶岩の様に溶けてしまった様です』
『相変わらず危険レベル5の特殊能力はぶっ壊れているな!それよりも、悠兎くん!君は大丈夫かい?』
「もう無理…お腹空いた…(ドサッ)」

 俺はあまりの空腹感に膝から崩れ落ちてしまった。
 無理、動けない。元から少し空腹感は感じていたが、ブリューナクの勢いを止める時に限界が来てしまった。
 急激な空腹感を感じ、冷や汗と体の震えが止まらない。
 荒々しい息を吐きながら横を見ると、ブリューナクが自分の側に戻って来ていた。邪魔だなと思い、消す事は出来るのか試してみると、微弱な静電気の様な電気を放ちながら消えていった。

 数分後、空腹で動けず床で大の字になっていると、研究所の職員が担架を持ってやって来た。どうやら俺を回収しに来た様だ。
 そのまま担架に乗せられ、運ばれていく。ちょ、もうちょっと揺れを抑えてくれ!空腹でお腹が痛いんだ!

 運び込まれた先は元いた研究室だった。新しくベットも運び込まれており、俺はそこに寝かされた。
 そして、職員が入れ替わる様に食事が持って来られた。殆どがお粥やスープといった胃に優しい物だった。
 食べようと思い、体を動かそうとしたが、全く力が入らない。食べ物はすぐそこにあるのに…!!
 俺が嘆いていると、急に扉が開いた。ロリコン3人組が入って来たのだ。少々不服だが、あいつらに食べさせてもらおう。俺がお願いした事はなんでもやってくれそうだしな。

「すまんが、食べさせてくれないか?」
「「「ブフォッ!!」」」

 あぁ!俺を見た瞬間、3人とも鼻血を出して倒れやがった!畜生!一体どうやって食事をしろと言うんだ!

「食べられないのであれば手伝いますが、必要ですか?」
「雅さん!お願いします!」

 やった!雅さんが来た!女神様がやって来た!
 雅さんは美人である。仕事のためか、黒髪を後ろで括って黒縁のメガネを掛けてキリッとしているが、善人と美人のオーラがダダ漏れの人だ。こんな人にご飯を食べさせてもらえるなんて、ただのお粥が100倍美味しく感じてしまうじゃないか。

「うまい、うまいよぉ…」
「そんなにですか?」

 空腹のお腹に優しいお粥が染みわたる。もう涙が出そうだ。いや、もう出てる。
 食のありがたさを感じながら、雅さんに食べさせてもらっている。雅さん、お嫁さんに来てくれないかな?高校卒業して結婚するなら雅さんの様な人が良い!
 馬鹿な事を考えていると、全部食べ尽くしてしまった様だ。まだ食べれるんだが、空腹感はだいぶマシになったから良いか。

 しばらく雅さんと雑談をしていると、翔子さんが入って来た。あ、ロリコン三人衆を足で部屋の片隅に片付けた。

「やぁ、気分はどうだい?記録の集計をしてたら来るのが遅れてしまったよ」
「滅茶苦茶お腹が空いたけど、今はそんなに大丈夫だよ。それよりも、あの施設の壁を壊してしまったけど、大丈夫だった?」
「あぁ、そこは問題ないさ。修理費は結構かかるだろうが、国の税金から払われる。君は心配しなくても良いよ」

 よかった。一番心配していた事を言ってくれた。
 正直、修理費請求されていたら払えなかったと思う。お金は通帳に結構入っているが、壁以外にも設備も壊してしまった様だし、絶対に修理費に1億円は行っていると思う。もし請求されていたら体で払うしかなかった。まあ、この体型に女としての価値はなかったと思うが。

 この後、計測結果を事細かに聞かされた。が、全く理解できなかった。そんなに専門用語を使わないでおくれ。
 結果から言うと、『《擬似神装シークレットレプリカ・雷》』の神器再現の機能は封印すると言う事だけはわかった。ただ、雷魔法は問題無いようだ。『《天上天下唯我独尊》』についても特にお咎めなく、私生活でも特に影響はないらしい。
 特殊能力は私生活で使っても良いらしいが、犯罪行為に使った場合は国から重めの刑罰を食らうらしい。気をつけないとね。

「ねぇ、翔子さん」
「どうしたんだい?」
「雷魔法と『《天上天下唯我独尊》』は使っても良いって聞いたど、普通に生活していたら使う時とか無いよね?」
「あぁ、全く無いね。TSF病発症者同士の争いとかは日本では無いから『《天上天下唯我独尊》』とか特に・・使い道はないね。ただ、海外だとそうは行かないよ。日本は特殊能力者同士の争いにかなり厳しい規制があるから安全だが、国によってはそうではない所もある。いきなり喧嘩を売られるかもしれないから注意は必要なんだよ」

 なるほど、怖いから日本に引き篭もっておこう。

「他に聞きたい事はあるかい?」
「いや特に無いな。早く家に帰りたいくらいだ」
「そうかい。今日の検査はさっきので終わりだから、もう帰っても大丈夫だよ。また呼ぶ時があるかもしれないから、その時は頼んだよ。あ、一応この封筒渡しておくね。身体検査の結果と能力測定の結果、その他色々入ってるよ。無くさない様にね」

 俺は手渡された封筒の中を見る。身体検査や能力測定以外にも、印鑑を押した書類や「特殊能力の規制」と書かれた冊子などが入っていた。

 俺が規制の冊子を読んでいると、翔子さんは部屋を出て行ってしまっていた様だ。
 もう帰っても良い様だし、帰らせてもらおうかな。

「雅さん、もう帰っても大丈夫なんですよね?」
「はい、大丈夫ですよ」
「なら送迎お願いします」

 ベットから降りた瞬間、一瞬フラッとしてしまったが、なんとか自分の足で歩く。
 やっと家に帰れる!

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