「TSF病」を発症した男子高校生がウサミミ美少女になる話

夢野つき

4、変態じゃないから!

 ピンポーン

 どうやら迎えが来たようだ。
 ビデオドアホンを覗くと、マンションのホール前に黒いスーツを来た1人の女性が立っていた。胸元の名札に「TSF管理課」と書かれている。

『すいません。京都府警のTSF管理課所属の岩崎と申します。東雲さんはおられますか?』
「あ、俺が東雲です。直ぐそっちに行きますので待っててください」
『わかりました』

 取り敢えず準備をしていた印鑑やボールペン、それと家の鍵をポケットに突っ込んで急ぐ。
 大輔や直樹は、どちらとも自分の世界に入り込んでしまている。それでも一応声はかけておく。

「それじゃあ行ってくる。あんまり散らかすなよ」
「おう、任せとけ!」
「どんな特殊能力だったか後で教えてくださいね!」

 そんな言葉を掛けられ、俺はそそくさと部屋を出る。
 夏休み前の計画では、俺はまだ家の中で寝ている時間なんだがな…。5日間は外に出るつもりは無かったんだが、夏休み1日目で外に出てしまった。
 玄関を潜り抜け外に出ると、先程までエアコンでひんやりとして涼しかった空気が一変する。日本特有のムシムシとした暑さが肌にへばり付くように体を包み込み、生気を根こそぎ奪ってくる。

 室内では何とも思わなかったが、外に出ると風を直に感じるためスカートの中がスースーする。元男だった俺からすると、何だかやっては行けないことをしている気分だ。世間の女の子たちはみんなこんな感覚を味わっているのか…。

 俺はエレベーターに乗って一階のホールで降りる。自動ドア前では岩崎さんが立っていた。

「いや〜、お待たせしました。東雲です」
「へ?あ、はい。岩崎と申します。それでは移動しましょう。あちらの車に乗ってください」

 岩崎さんは俺を見た瞬間に少し固まってしまったが、直ぐに意識を取り戻した。
 指の刺された先にあったのは、マンション前に止められた真っ黒に塗装された高級車だった。一目見ただけで高級車だと感じさせられる車に乗り込むのか…何だかワクワクするな。
 車の前まで行くと岩崎さんが後部座席のドアをかけてくれる。何だかお偉いさんになった気分だ。椅子も革で出来ているし、椅子の手置きの部分には冷蔵庫がついているようで飲み物が冷やしてある。す、すごい。

「それでは、今からTSF病能力開発研究所の大阪支部に向かいます。忘れ物はないですか?」
「はい、印鑑などはポケットに入れて来たので大丈夫です」
「わかりました。それでは移動始めます」

 そう言うと、岩崎さんは車を動かし始めた。

 移動し始めてしばらくすると高速道路に入った。大阪の方に行くらしいが、後どれくらい時間がかかるのだろうか。

「あの…東雲さん、少し気になってたんで質問しても良いですか?」
「はい。良いですけど、何ですか?」
「その頭に生えている兎の耳って本物ですか?」
「本物ですよ。ほら、こんな感じに動かせますし」

 俺が耳を前・横・後ろとパタパタ動かすと、岩崎さんはルームミラーでこちらを見てくる。かなり驚いているようだ。

「へぇ〜。10年TSF管理課で働いてますが、東雲さんみたいな変化の仕方をした人は初めて見ました!職業上の都合で色々なTSF病発症者の方を見て来たんですが、動物みたいな特徴を発症した人は東雲さんだけですね」
「そうなんですか?ネットで調べてもあまり分からなかったんで…」
「あぁ、インターネットで検索するだけじゃあ分からないですよね。一応、プライバシー保護の目的で、TSF病の情報はかなり秘匿されていますから。調べてわかる内容は、危険レベル1~2の比較的安全な特殊能力が開示されているくらいですからね」
「え、特殊能力に危険度なんてあるんですか?」

 そんなの調べても出てこなかったぞ。確かに、かなりしょうもない能力が多いとは思っていたが、あれが全てじゃ無かったんだな。

「はい。この後の検査でも説明されると思いますが、特殊能力の危険レベルは1~5まであります。レベル1だと普通の人間より少し強い程度、レベル2だとナイフなどの武器を持った人間に素手で余裕で勝てる強さ、レベル3だと銃で撃たれたり爆発されたりしても擦り傷で済ませれるくらいの強さ、レベル4だと戦車などを揃えた武装集団に余裕で勝てる強さ、最後に一気に跳ね上がって、レベル5だと核爆弾に1人で対抗できるレベルの強さになりますね」
「…」

 レベル5化物すぎないか!?あまりの衝撃的な情報に口が開きっぱなしだった。でも、こんな情報があるからには、実際にレベル5の人間が居るってことなんだろうな。一体どんなの特殊能力なのだろうか…。

「あ、後一つ質問して良いですか?」
「はい、何でも聞いて良いですよ。俺が話せる範囲なら」
「マンションで会った時に思ったのですが、その女の子の服装はどうやって用意したんですか…?あ、いや、そっち系の趣味の方だとしても私はその趣味を尊重しますよ!ただ、今までの人なら男性が女性になってしまった場合は男物の服を着ていたりするので、女の子の服でくるとは思ってもいなかったんです…。は、恥ずかしいと思うのなら無理に答えなくても良いですけど(ゴニョゴニョ)…」
「へ!?い、いや、決してそんな趣味とかじゃないですよ!?ただ、カクカクシカジカーーー」
「な、なるほど、そう言うことだったんですね。早とちりしてすいません!」

 あ、危なかった。危うく変態認定されるところだった。恥ずかしかったが、自分の両親のせいでよく女装させられていた事を話したら理解してくれた。
 確かに、さっきまで元男の人が女の子の服を着ていたら勘違いするよな。だから、マンション前で会った時に固まってしまったのか。てっきりウサミミを見て固まったと思っていた。いや、おそらくどっちもか。

 それからは、岩崎さんと取り留めのない話が続いた。


〜1時間後〜

「あ、そろそろ着きます」

 岩崎さんにそう言われ、特殊能力について調べていた携帯から目を離す。
 現在、俺の乗っている車は大きな橋を渡っているところだった。道の先にはどうやら検問があるようで、そこまで長くないが渋滞が起きていた。目的地のTSF病能力開発研究所は、どうやらこの先のようだ。

 岩崎さん曰く、世界にTSF病が観測され、日本にも発症者がで始めた頃に海上を埋め立てて急ピッチで建てられた国内有数の研究所らしい。研究所の本部は東京にあるらしいのだが、そこだけでは研究が回らず、発症者の長距離移動のリスクを考えて、一地方に一つ研究所があるようだ。
 ちなみに、リスクと言うのは、TSF病が観測され始めた当時は発症者が海外から命を狙われたりしたようだ。感染者は全員、特殊能力を所有している。それを軍事利用されては手に負えないと他国は思ったようで、それを邪魔するためによく抗戦があったようだ。怖いねぇ〜。

 色々と、研究所の話を聞いていると、自分達の番が回って来た。
 指定された場所に車が止まると、検問の係さんが3人ほど来た。そのタイミングで岩崎さんは窓を開けた。

「所属と名前、用件を教えてください」
「京都府警のTSF管理課所属、岩崎 雅いわさき みやびです。事前に報告をしていた新たな発症者、東雲 悠兎さんの検査を受けに来ました」
「少し待ってくれ」

 そう言うと、窓ガラスから1人が離れ、胸元のトランシーバーで会話し始めた。
 それにしても、仕事時の岩崎さんってかっこいいな。先程の会話の時とは全く違う雰囲気を纏っている。何だかこっちの方がキリッとしている。それに、名前が雅と言うらしい。なるほど、覚えておこう。

「確認が取れた。行って良いぞ」

 係の人がそう言うと、車は前進し始める。

 さて、後少しで研究所だが、一体どんなところなのだろうか。できるだけ痛そうな検査はしたくないな…。

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