「TSF病」を発症した男子高校生がウサミミ美少女になる話

夢野つき

2、ウサミミ美少女に変身☆じゃねぇよ!?

 夏の忙しない蟬の鳴き声が睡眠を妨げてくる。

 …うるさい。うるさい。ーーうるさい!
 あぁ!?せっかく気持ちよく寝てたっていうのに、何でこうも虫は空気が読めないんだ!せっかく良い夢の途中だったのに!南国で海を見ながら寝るバカンスの途中を邪魔された。

 一人暮らしの彼の家には「何で夢の中でも寝てんだよ」なんてツッコミをする奴はいない。

 寝起きのぼやけた眼で天井を見つめる。
 レースカーテン越しに差し込む朝日の光が眩しく輝き、脳がゆっくりと覚醒して行く。
 ソファに寝転んだまま机に視線を移すと、昨日飲みかけていたお茶の少し残ったグラスと携帯が置かれているのが確認できる。
 時間を確認するため、机上の携帯を取り…あ、あれ?何か遠いな。いつもなら取れる距離なのだが、何だか今日は遠く感じる。まぁ良いか。
 少し手を伸ばすと指先に当たる。お?後少しで取れそう…取れた!
 携帯を手に取り、画面をつけると「9:30」となっていた。昨日は夕日が沈む前に寝てしまったから約14時間ほど寝ていた計算になる。我ながら流石だな!

 さて、今日から待ちに待った夏休み!宿題は夏休みに入る3日前には全て終わらせてやったぜ!かなりの量あったが、俺の睡眠時間を削れば問題なく出来た。まぁ、その代わりに学校で寝ていたけど。
 とにかく、今日から2ヶ月半ほどは用事は全く無い。短期でバイトもしてみようと思ったが、別にお金に困っていないし、そんな事するよりも携帯でニュース見てる方がお金を儲けられる。
 夏休みの始めにすることは…とりあえずお風呂に入るか。今思い出したら昨日はお風呂に入らずに寝てしまっていたな。

 携帯を机に置き直し、ソファの縁に手を置いて起き上がる。

 あれ?何だか視界が低いような気がする…。うぉ!ズボンがズレ落ちるところだった。
 …俺、小さくなってね?

 急な戸惑いで、彼の思考は停止してしまった。その時間、約3分。低身長がコンプレックスな彼に「小さくなった」という現実は絶大なショックを与えた。

「…っは!お、俺は一体何を」

 さっきまでの記憶が思い出せない。思い出そうとすると身体中に鳥肌がったってしまいそうな程に拒否反応を起こす。

「まぁいっか。それよりお風呂〜♪」

 全くもう、急に制服が大きくなってしまうだなんて大変だなぁ。しかも、声も女の子のように高くなってしまっているようだ。風邪かな?昨日はエアコンをつけて寝てしまったから喉がやられてしまったのかもな。

 彼はずれ落ちそうなズボンを押さえたまま風呂場へと向かう。先程まで、体が小さくなってしまったかもという現実から目を逸らし続けていた彼だが、風呂場に入ったからにはとうとう現実を受け止めなければならない。そう、鏡だ。

「…え?」

 風呂場について鏡を見た途端、見たことのない人が写った。

 切るのが面倒くさくなって少し伸びて来ていた何時もの黒い髪の毛は、真冬の雪のように白く輝く銀髪で、肩に掛かるほどのセミロングになってしまっている。目はカラコンを入れたかのような紅色に染まり、大きなお目々を際立たせる。目鼻立ちは物凄く綺麗に整っており、100人中100人が「美しい」と答えてしまう程の美少女。しかも、頭には2つの白長い物…そう、ウサミミ・・・・が生えていた。

 あまりの戸惑いで、引き揚げていたズボンがパンツと一緒にズレ落ちる。
 そして、隠すものが無くなってしまった下半身が鏡に反射する。ゆっくりと視線を下げると…無くなっている。男だったら付いていないといけないアレが無くなってしまっている。

「お、女の子になってるぅぅぅぅぅぅううぅうぅぅう!!」

 彼…、いや、彼女の叫び声は部屋中に響き渡った。
 壁が全て防音でマンション最上階の一番奥の部屋ということもあって、近所迷惑にはならなかったが、悠兎は放心状態になってしまった。

 ウサミミを見た途端、頭の上に違和感を感じるようになった。ピンッ!と逆立っている2つのウサミミを恐る恐る触ると確かな感覚を感じる事ができる。ほ、本物だ。そうなると、尻尾も…ある!お尻と腰の間あたり白くて丸い物体が生えてる。どちらも感覚がしっかりと存在している。

 悠兎の脳はすでに今の状況の整理に耐えきれずキャパオーバーしてしまっていた。そして一周回って彼(?)は…。

「…お風呂に入るか」

 何だかどうでもよくなった。さっさとお風呂に入ろう。シャワーを浴びるだけで良いや。お湯張るのめんどくさいし。

 上に着ていたカッターシャツを脱ぎ洗濯機に突っ込む。そして風呂場に入る。

 数十分後、銀髪の髪を濡らした状態で風呂場のドアを開けて出てくる。

「なんか随分と可愛らしい容姿になってしまったな…。ウサミミの長さに騙されたが身長もかなり低くなってしまったような気がする」

 これはアレだな。完全にTSF病だな。昨日、大輔や直樹と話していて誰もなるはず無いと思っていたが、完璧にフラグだったようだ。だって発症確率が千万分の一なんて言われてる激レアな病気だぞ?普通なるとは思わないじゃ無いか。
 発症して最初は衝撃的でパニックになったが、何だか落ち着いていられる。なってしまった物は仕方ないと思うしか無い。
 風呂場でも見たが、洗面所の鏡でもう一度素っ裸な自分の体を見つめる。うん、全く欲情しないな。これが自分じゃなかったら赤面してしまうだろうが自分の体だと思うと何にも感じない。ただ、いつも共に居た我が息子が旅立ってしまいなんか悲しくなってしまう。Oh my son...

 体型は身長に見合ったような体になっている。胸は少し膨らみを感じるが確実にAカップだろう。まさにロリ体型だ。銀髪ウサミミ美少女ロリになってしまっている。あ、耳はウサミミだけじゃなくて普通の耳もある。耳が四つ…意味がわからない。

「さて、どうしたものか」

 これからの事を考えながら自らの髪をドライヤーで乾かす。女子はいつもこんなにめんどくさい事をしてるのか。髪の毛が長すぎて全く乾かない。

 十分ほど掛かってからやっとソファのあるリビングに戻ってくる。もちろん全裸だ。

「服はどうしよう…。そういえば、一人暮らし始めにお母さんが女物の服を送って来ていたな。送り返していないしまだ物置にあるかも」

 どうして母親が自分の息子に女物の服を送ったのか疑問に思うだろう。その理由を知るには悠兎が小学生の頃にまで遡る。悠兎は昔から中性的な女の子っぽい顔立ちをしていた。彼の母親はそれを良い事に、彼を女装させて遊んでいたのだ。
 女物の服を無理やり着さされ、お母さんは「きゃ〜!かわいい!次はこれも来てみて頂戴!」と言って悠兎を着せ替え人形のように楽しんでいた。それをみて親父は後ろでゲラゲラと指を刺して笑っていた。あんな大人にはならないとその時初めて誓った。

 とりあえず、女物の服があるかもしれないという希望を少し抱き、物置部屋として使っている一室へと向かう。
 廊下にはドアが4つある。玄関から見て右側面についているドアは風呂場兼洗面所、トイレがある。左側の2つは物置部屋と俺の個室だ。やっぱり一人暮らしにはこの間取りの物件は広すぎると思う。

 物置部屋の扉を開けると真っ先に目に入るのはダンボールの山!通販とかでよく買い物をする為、必然的にダンボールが増えて来てしまっている。マンションの下にあるゴミ捨て場に持っていけば良い話なのだが、こんなに大量の大きなダンボールを運ぶのはめんどくさいからという事で必然的に残ってしまった。

 しかし、こんなかから女性用の服を探さないといけないのか。一瞬、「もう全裸でも構わないのでは?」と思ってしまったが、流石に裸では外出も出来ないと思い諦めて探し出す。

 これも違う、アレも違うと探し続けて10分後。一つのダンボールにそれは入っていた。

「な、何で下着だらけの箱なんて送って来てるんだあの両親!」

 ダンボールの中身は女性用の下着・・・・・・で埋め尽くされていた。どう考えたらこれが必要になると思って実家から送って来てるんだ…。まぁ実際に今必要な状況に陥ってしまっているが。はぁ…、情けない。こんな状況になっている自分が情けない。
 背に腹は変えられないのでとりあえず着ける事にする。大人の雰囲気が半端ない下着が何着もあったが一番無難なスポーツブラと呼ばれる下着と普通の白地のパンツを履く。もう何でこんなのがあるのか考えるのはやめた。
 下着は何故か・・・あったので身に着けた後、すぐに上着探しに入る。

 探した結果、すぐに上着は見つかった。下着のダンボールのすぐそばだった。
 中身はワンピースばっかりだ。これは…ロリータワンピースと呼ばれる奴だな。ゴスロリファッションとまではいかないがかなり派手なものが多いな…。
 とりあえず、着脱が簡単そうで地味な服で良いかと思い急いで着る。これでオッケーだな。

「そしたら次は…何をすれば良いんだ?」

 この後、何をすれば良いのか全くわからない。
 …とりあえずあいつらに相談してみるか。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品