転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす

11.地に足をつけ


自分の居場所を確認したとは言え、私の日常はあまり変わらない。朝起きて、軽く家の周りを歩いて、ついてくる精霊たちとおしゃべりをしてから帰宅して、アイテムボックスの中の材料や、庭のハーブなどを使った朝食を摂って、気が向くまま読書をしたり、気づいたことをノートにまとめたり、魔法の実験をしたり。
以前と変わったことといえば、魔法の研究と併せて世界樹の研究を始めたので、たまに聖地に行ったり、以前世界樹と呼ばれていた木があったという場所を探す時間を取るようになったことくらいだろうか。とは言え、移動は転移術で行けるので時間をかけることも無い。相変わらず特筆することも無い、のんびりした暮らしが続いている。
(いや、レイヴァーンでの見識は広がったかな?)
何となく魔導国家には行かないままだが、研究がてら本当に通り過ぎるくらいではあるが、帝国や近隣の国には少しずつ行っている。
常に常春と言ってもいい地域の無人島に置いてある小屋などは、寒いのがあまり好きではないらしいうちの精霊達のお気に入りだったりもする……そう、このあたりはもう冬だ。数メートルの積雪がこの辺りを覆い尽くしている。空にはたまにオーロラが揺らめき、反対側の一等星がさらにそれを彩っている。
「綺麗ね」
フードの中に潜っていた水闇ペアは、頬を寄せ合うようにして空を眺めている。以前このような夜には、空に還る魂がよく見えると話していたので、もしかしたらそれを見ているのかもしれない。2人の黒曜石のように煌めく瞳をそっと盗み見て、私も夜空を眺めた。
(セカイさん、とっても綺麗だね)
いつしか少し砕けてしまった口調で、セカイさんに話しかける。
冷え切った空気は、どこまでも空気を透明にするようだ。夜空はどこまでも美しい。少しだけ結界を緩めて冷たい空気をゆっくりと肺に入れると、じんと淡い痛みが走った。ふふ、と笑い声が出てしまう。
「主様?」
「何でもないよ。あなた達は寒くない?」
「あったかいよー」
ファーナの気遣いに応えて撫でていると、それにファイが頭をぐりぐりと押し付けてきて、つい笑ってしまった。
「ねえ、魂はどこに行くのかな。創造神様のところ?」
「違うよー」
ファイが即答した。
「魂は、この世界を巡るのですよ、主様」
「それって、あなた達も人間になることがある、ということ?」
「そういうことも、あるはずです」
「そうなのね。教えてくれてありがとう」
「はい!」
ファーナが得意げに胸を張り、2人が頬を擦り寄せているのがわかった。この2人は、特に仲良しだ。本人たち曰く、お互いが魂の半身なのだそうだ。
(そうか……魂になっても、セカイさんには会えないのかな……)
突如胸に沸いた寂しさに、私が一番戸惑っていた。

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