転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす

閑話 冒険者ギルド 辺境都市バルガ支部 1階受付にて


「あら、この時期に魔道国家から来たんですか? 珍しいですね」
中央の読み取り装置で冒険者達のプレートを確認したスージーは、プレートを返却しながら笑顔を向けた。
「一昨日の晩にこっちに着いたばかりなんだよ。こっちはなんか魔物がたくさん出てるって聞いたから、仕事が沢山ありそうだなって」
「今年は街道沿いまで出てくるみたいで…皆さんみたいなベテランさんが来てくださると安心です!でも…」
スージーはきょとんと首をかしげて、彼らの顔を見回す。
「今は、魔導国家のギルドが沢山求人を出してますよね。報酬も高いって聞いてますけど…」
「それがさあ、俺達は魔の森の奥で討伐を受けてたんだけど…ベラが体調崩すようになって来てさ。そしたら、俺たちもなんだか顔とか肘の内側とかに妙な痣ができたりしてさ。気味が悪かったから更新するのは止めたんだよ」
「怖いですね〜。もう、良くなったんですか?」
スージーに心配されて満更でもなかったのだろう。男はヘラヘラと笑うと手を振った。
「念のために街まで出て休養したら、2日で嘘みたいに治ったんだよ。医者にもかかったし神殿の治癒も受けてるから大丈夫だ」
「良かった。お身体が資本ですからね。皆さんも大事にしてくださいね。ちなみに、治癒はどちらの神殿で?魔導国家の神殿は大きいんですよね?」
スージーは差し出された商隊の護衛依頼の完了証明と報酬を用意し、周辺の討伐依頼の依頼票の受付も同時に済ませた。

(まったく、スージーはだいぶ手早くなったけど、相変わらず喋るなぁ…)
アーバンは軽く肩をすくめる。それでも、このスージーという娘は無意識とはいえ相手から情報を聞き出すのが上手いので、雑談から情報を得るのには最適だ。
「そうそう、道すがら1匹倒したから持ってきてるんだよ。買取頼めるか?」
「はい!あちらに直接持っていって下さい」
すると、パーティの中のローブ姿の女が1人、アーバンの所にやって来た。空間収納持ちなのかもしれない。
「ご苦労さん。こっちの台に出せるか」
「ええ」
ベラと呼ばれていた女は、厳しい顔をして台の上に巨大角鹿と、何かの角…おそらく曲がり角兎の角を数本出してきた。
「鹿と、これも買い取ってもらえないかしら。戻しは無しで、このまま買い取って欲しいの」
アーバンはどこか気だるそうなベラを見て、髪をかきあげる彼女の手首の内側の方に痣が浮き出ているのに気づいた。
「怪我したのかい?」
ベラはなんのことかわからないという顔をしたので、アーバンは自分の手首の内側あたりを示して見せた。
「あ!また…⁉︎」
「それ魔力班じゃねえか?」
ベラはハッとしたようで目を瞠ったが、すこし声を潜めて口を開く。
「私だけならそれも考えられるけど…実は、私以外の魔力がほとんど使えない仲間にも同じようなのが出たのよ。それってありえる?」
魔力斑は、普段魔力をたくさん使う者には時折見られる症状で、疲労時などに魔力の流れが悪い箇所を中心に、痣のような斑点が現れる。大抵は治癒をかけてもらうか、ゆっくり休めば良くなる。しかし、ベラの言うように普段魔法を使うことのない人間に現れることはかなり稀だ。
「でもよ、念のために魔力詰まりの検査受けた方が良いかもしれないぜ?それだけならそんなに時間もかからねぇし、バルガの神殿は魔導国家ほど高くないはずだ」
「あら、そうなの?」
「ああ。魔導国家は物価すごいよなぁ」
アーバンが笑ってみせると、ベラもふっと息をついて笑った。
「報酬が良くても、あの環境はちょっとね。ウチだけじゃなくてみんなギスギスしてたし。ここは明るくて良いところよね。しばらくお世話になります。あ、買取料はパーティのみんなに均等で振り込みでお願いね」
「おうよ。依頼は多いから、無理のない範囲でよろしくな!」
アーバンとベラはお互い手を振って別れた。
(魔道国家か……リッカさん、前来た時になにやら言ってたよなぁ。関係……あるのかな?)
用事ができたので次に来るのはひと月後くらい、と言って出かけた隠者のことを思い出す。
(あるかもなぁ……)
とりあえず、2ギルマスの部屋への階段を登って行くアーバンだった。

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