転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす

14.隠者は聖地を探す

ランプに鈍い銀色の光が灯る。私は、その光を紋様術による鑑定術で鑑定する。この魔法に使われている魔力が何処に行っているかを調べる為に、少しの間ファイとファーナには、魔法をかけ続けてもらうことにした。以前精霊達にきいた 「精霊王に届け」と無意識に願う魔法の中で、おそらくは魔力の消費が1番少ない魔法なので彼らにお願いしたのだが、出来れば彼らを無駄に疲労させたくは無い。とりあえず数分の魔力の流れを測定して、紋様をいくつか保存した。
「ありがとう。測定終わったから、もう大丈夫よ」
2人にお礼を言って精霊草を手渡そうとしたのだが、これくらいはなんとも無いからと断られてしまった。むしろ私に食べるように勧めてくれるので、一旦アイテムボックスにしまっておく。
「主様、この魔法が精霊王様の居場所に繋がってるの?」
「わかりそうですか?」
保存した紋様のうち、魔法をかけ始めてすぐのものと、少し時間が経った時のものを取り出して並べて鑑定する。精霊達は私の背後から紋様を眺めている。
「うん、やっぱり魔法をそのものには変化は無いね。もともと、精霊魔法そのものに…」
私は紋様の枠になる部分を示しながら言葉を続ける。
「ほら、この部分に魔力を特定の部分に送るような仕組みがあるのよ。多分」
これは、おそらく精霊達の使う魔法に見られる特徴だ。少なくとも我が家にいる精霊達の魔法を紋様にして鑑定すると、紋様の外側の部分は縁飾りのようになっていて、その部分は皆同じなのだ。『精霊王に届け』と念じてしまう魔法も、その他の魔法も一見同じだが、前者の方が紋様そのものの線が二重になっているのに気付く。
(うん、やっぱり)
紋様を鑑定する。いわゆる「魔法」と呼ばれているものは、紋様にすると複雑なかたちに見えるのだが、仕組みはとてもシンプルなものが多い気がする。
(氷を作らないといけない時に、外気に任せて作るのが精霊達の使うような魔法、冷凍庫を使うのが詠唱のある魔法とか…ちょっと違うけど、イメージは近いかな…)
脇道に逸れそうな思考を軌道修正して、魔力が何処に送られているのかを探っていく。正直に言えば、こういう時は無駄に華美で優美な紋様が面倒だな、なんて思ってしまう。
(本当に見ているだけならとっても綺麗な紋様なのよね)
そんな思考に思わず苦笑してしまって精霊達に怪訝な顔をされてしまった。カルラに「お疲れのようなので明日にしましょう!」と止められそうになって慌てて正直に言い訳してしまった。精霊達は美しい紋様だと言われて気を良くしたらしく、機嫌が良くなった。
「ああ…これだわ」
二重線で縁取られているかのような、一見レースの模様にも見える部分に、魔力をーーこの場合はマナというべきか、それを送るための道筋示す部分を見つけた。
(詳細鑑定……)
詳細鑑定で出てくる場所を、アイテムボックスのディスプレイにある地図に当てはめる。
「これは…」
予想はしていた。精霊達が、レイヴァーンの何処かではあるけれど、地図にない場所であるという言い方をしたからだ。
「空中……認識阻害の結界の中なのね」
ディスプレイの地図を2本の指で操作して小さくして角度を変えると、解り易くなった。
「異次元とかそういうのでは無さそうだけど…」
場所が分かれば転移が可能だ。おそらくは大丈夫だろう。
「行こうか」
焚き火やらをアイテムボックスに一括収納すると、精霊達がわらわらと私にくっ付く。フードに潜る者、ポケットに入る者、いつも様々だ。
「みんなくっつきました!」
「なんとなくですが、風の精霊王様、多分待っていると思いますの」
ハルが私の肩のところでつぶやいた。
「僕もそんな気がするの」
イシュが頷いている。
(うん。私もそんな気がする)
ここ数日、何度も感じるマナの音。聖地へと送られる魔力の割に、開きそうで開かない聖地への道。精霊達が無意識のうちに奏でた音楽とダンス。意味がないとは思えなかった。
地図に示された地点への転移の為の紋を描く。思いの外あっさりと魔力が流れていく感覚があった。
「転移するよ」
その瞬間、いつもの浮遊感と言うよりも転移先から引っ張られるような、不思議な感覚を覚えた。

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