転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす

6.魔法の成り立ちと人間

昔、人間はレイヴァーンにおいて数は多いが力はない種であるとされていた。理由は2つ。腕力で獣人に勝てず、魔法は使うことはできても威力の強い魔法が使えなかった事。
魔法に関して言えたのは、とにかく魔力量の少なさであったと言う。平均でエルフや魔人達の10分の1程度の魔力しかなかった。魔力量を増やすトレーニングなどを積んだり、魔力の操作を研究したりして、地道に魔力を増やしてきたと言われている。
「そこで生み出されたのが、現在の呪文を使った魔法です。もともと呪文はありましたが、エルフ達や魔人は独自の言葉を持ち、その時代の人間は呪文はそのままその言葉を用いていました。しかし、ある魔法使いがその意味を知り、人間の言葉に訳して唱えたところ、非常に高い威力を持たせる事に成功したのです」
(……より明確にイメージを持てた、ということ?)
「それ以降、人間の世界の魔法は飛躍的に進化しました。結果的に人間は数を増やし、今ではレイヴァーンにおいて1番数が多いとされています。その一方でエルフやドワーフ、獣人との混血も進み、種族の差は曖昧になって来ているとも言われます。一時は全人口の半分であった人類は、数を増やした事で今では全人口の80%程度となりました。あと15%はいわゆる混血と言われる人々、5%はエルフ、ドワーフなどの古来種と言われる人々です」
「先生!質問してもよろしいですか?」
「はい、メリーベルさん」
「魔人と呼ばれた方々はどちらへ行かれたのですか?」
私も同じことを考えていた。先生はニコリと笑って答える。
「よく話を聞いていましたね。良い質問ですよ。魔人たちと人間は、800年ほど前に魔の森手前の国境線で小競り合いになり、人間側が魔の森を半分手に入れることになりました。しかし、魔の森の開発を反対した魔人達は、己の存在意義までをかけて人類全体へ戦争を仕掛けたのです」
800年前には人口の対比は現在のようになっていて、魔人達は人類へ戦争を仕掛けた…私はメモにサラサラと歴史の表のような物を書いていく。エリーナさんがそれを横目でチラリと見ているのがわかった。見られても構わないものしか書いていないので大丈夫だ。どうしようもない時は日本語で書く…。
(…あっ……)
そこまで考えて、私は今更なことをひとつ気づいた。この世界の言葉は、日本語とは違う。いつの間にか話せるし、書けているので気にもしなかった。いわゆる日本語のアイウエオのような状態から習ったかのようにわかる。これがセカイさんのお陰なのかどうかわからないが…6年近くたって気づくとは、私もどうかしている。
そして同時に気づいた。
(もしかしたら、他の言葉も解るかもしれない)
その、エルフや魔人の呪文を原文のまま知りたい。
「魔人は数を減らしてこそいましたが、その力は強大です。人類との戦争は長く続いたそうですが、ある時人類の中に非常に稀な力を持つものが2人現れ、彼等指揮の元、魔人の王と側近を倒したと言われています。その時点で数を減らしていた魔人は人の居ない場所へ移り住んだり、人間と距離の近かったものはそのまま人間と共存したりしたそうです」
彼等はいわゆる勇者と聖女みたいなものだろうか。いよいよファンタジーだなとぼんやり思った。
「そして、魔法はより使い勝手の良いように変わっていきました。いわゆる生活魔法と呼ばれるものは、最初は煮炊きの火種を起こしたり、蝋燭程度の手元を照らす光であったり、最低限手を洗う程度の水を出せるくらいのものであったそうですが…」
(生活の変化によって、形が変わっていった…)
手足を清潔に保つと感染症にかかりにくいという事実が広まり、いわゆる洗浄魔法というのが生まれた。ちなみに全身を洗うことも出来なくはないようだ。今使われている魔法は、手を洗うように全身を洗うため、服を脱がないと出来ないようだが…。
(主様の洗浄は、お洋服のままでも大丈夫ですよね)
カルラの念話が飛んできた。カルラ真面目に授業を受けているようだ。
(ちょっとだけね、弄ったのよ。カルラでも簡単だと思うわ)
(教えてもらえるんですか⁉︎)
カルラがビックリしたように言った。
(勿論。貴方達なら問題ないと思うわ。別に秘密にしているわけじゃないもの)
そうだ。セカイさんは『他の人に話してはいけない』とは言わなかった。それに…カルラたちは人ではない。それに、先日サブマスに鑑定を教えた時も、そのあと神殿に行った時も、何やらペナルティーのような物は無かったと思う。
(まあ、後からあったとしたら…)
それは、私のせいだ。ただそれだけなのだ。それで他の人に被害が出ないならそれで良いような気がする。ぼんやりとそう思い、先生の話に意識を戻した。

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