転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす

2.ことの顛末と報償と…


「先週本部から最終の書類が届いた。あいつらの処分が執行されたらしい」
ギルマスは、私に書類を手渡した。
「私が読んでもいいんですか?」
「もちろん。読んでくれ」
手渡された書類を読んでいく。
(侯爵子息は…貴族籍を剥奪されて犯罪奴隷。従者も同じ…ヤクドル侯爵家は取り潰し?)
「侯爵家の取り潰しというのは…」
罪状の主なものは、ギルマスへの殺人未遂と、冒険者への暴行と殺人未遂となっている。…こう言ってはなんだが、ギルマスは一代男爵、冒険者達は平民だ。身分制度が根強いこの国では、身分の高いものが下のものを殺しても、責任を問われないこともあるのではなかっただろうか。
「まあ、表向きの罪状はコレなんだが…他にも色々やらかしてたんだよ。侯爵も横領とか脱税とか…後は、この国では禁止されてる奴隷売買とか。それがバレたのが1番大きいだろうな」
ギルマスはそう言って、もう一枚の書類を出した。
(トリル男爵領での奴隷売買…)
「男爵が自分から名乗り出たらしい。子供の取り替えも含めてな。他にも、自分が従者をしてた時にやったことを洗いざらい吐いたらしい」
名乗り出た日付を見ると…
(3日後…)
私が感覚共有を使った3日後だった。
「しばらく侯爵領は王家の直轄地になるらしい。そのうち第三王子あたりが公爵家を興してその辺を治めるだろって噂だな。あと、そうそう、お前さんによろしくってさ」
「はい?」
「こちらを」
サブマスが封筒をお盆に載せて持ってきた。
「これは…」
「国王陛下と王妃陛下からの親書です」
(………)
いらない。ちょっとだけそう思った。
「あくまで非公式な個人的なものだそうですよ」
「…ありがとうございます。ここで見ても?」
サブマスが頷いてくれたので、封蝋をおっかなびっくりで剥がして、中身を読む。先日の空間収納の石へのお礼と、とても気に入ったから石をアクセサリーに加工していつも身につけているということ、重ねてお礼が書き綴られていて…今回のことでは心労をかけていないだろうかという言葉と、これからの活躍を…云々。
「すみません…あの…読んでいただいても…」
「拝見します」
サブマスが苦笑しながら受け取ってくれた。
「裏の意味とか疑い出したら止まらないからな、そういうの」
ギルマスが心当たりでもあるのか、自分の顎を撫でている。
「特に気にするところはないと思いますが、敢えて…」
サブマスはテーブルに手紙を置くと、今回のことで…のところに指を置いて、
「これは事後承諾で申し訳ないのですが…この騒動の証拠集めと怪我人の治療に、リッカさんの助力をいただいたと報告したのでそれを指すかと」
「なるほど」
「そして、これからのことに言及していると言うことは…今後とも変わらない関係をよろしく、ということですね」
「やはり、そういう意味にとっていいんですね?」
「それ以上の意味はないと思います」
私はホッと息を吐き出した。
「良かったです。ありがとうございました」
これで国王黙認で今の生活が出来るということだ。
「…これだけはお伝えしておきますが…国王陛下と王妃陛下の連名で、贈り物の使用に関して具体的に記されているのは前代未聞です」
「……お気に召していただけたようで嬉しいです…」
「…ま、気にすんな。お前さんに根掘り葉掘りしようとする輩への牽制半分、てとこだな」
「かえって興味を惹くのも半分ですが…陛下自ら各ギルド支部へ通達は出していますからね」
「えっ?」
「ああ、言ってなかったか。隠者様にはみんな煩くすんなよ?って通達がだされてるぜ」
「………なるほど。だからお手紙なんですね」
「多分な」
思った以上に水面下で大ごとになって表向き沈静化したという事実に、内心大きくため息をついた。
「まあ、正直『リッカ』という名の冒険者を探しているっていう問い合わせが多くはなってるけどよ」
(ええ…)
あからさまに眉を寄せた私に、アーバンさんが笑いながらお菓子を勧めてくれた。
「リッカ、って名前もありふれてるし、男か女かもわかってない奴が多いし、冒険者のリッカじゃ探しようがないんだよ。それに理由が『隠者を探しにきた』とか言えば、それはダメだって通達があったわけだから、ギルド経由じゃ探せないわけだ。商人ギルドも技術ギルドも同じだな」
「それでも、念のために身の回りには引き続き気をつけてくださいね」
(私たちが付いてますからね!)
カルラ達がお菓子をこっそり食べながら胸をポンと叩いた。
「あ、そんで今回の報酬なんだけどよ」
ギルマスがそう言うと、サブマスが私の顔くらいありそうな袋をテーブルに置いた。
「ダン達『炎の短剣フレイムダガー』の救出と治療代、証拠集めの報酬、あと彼等の捕縛と尋問がとてもうまくいったとのことで、追加報酬も出ています。後今回の納品代も入っています。そして…」
更にサブマスが大きな包みを取り出してテーブルに置いた。
「そして、これは我々ギルドの皆からです」
「受付嬢たちも、みんな少しずつ出してくれたぜ。あとは、ダン達は結構出してくれたな」
「ミリィもな」
ポカンとして包みを手に取る。ずっしり重い。
「開けてみてくれよ」
うなずいて、包装紙を開ける。
「あ……本!」
立派な装丁の本だった。
「世界魔法全集…?」
「一昨年出版された、今世界に伝わる魔法を集めた本です。現在魔導国に在籍している隠者の称号をお持ちの方も、寄稿文を寄せていらっしゃいますよ」
「………あ、ありがとうございます」
3人の顔を見る。3人ともニコニコしている。
「大切にしますね…!」
思わず抱えるように持って、お礼を言った。
ミリィさん、ダンさん達、そしてみんなに、お礼を言おう。

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