転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす

9.隠者のもとめる対価とは


サブマスは、青い顔のままギルマスを呼びに行ってくれた。
「ちょ、俺はまだ捜索隊を…うわ、治ったのか?腕ついて…」
「ギルマス、お願いがあります」
私は、自分にかけた隠秘や認識障害を全て解いて口を開く。
「おう、おうよ」
「正確な場所を教えてくれれば、セタンタという人を見つけて来ますから、私にあの侯爵子息をよく調べさせてもらえませんか?」
「「はあ!?」」
2人の大声が部屋に響く。
念のために部屋に遮音結界を貼っておいて良かった。

◇◇◇

「なぜ俺があんな奴らのために…」
侯爵子息は不貞腐れて、ソファの前のテーブルに足を乗せる。すごいマナーだ。親の顔が見たいとは正にこういう所で使う言葉だろう。
「2人は意識がないからな。崩落の正確な場所は、ここで間違いないな?」
「ああ」
「本当だな?」
机の上の地図を睨んでいたギルマスの声音が、重いものに変わる。
「そ、そうだよ。そうだよな?」
ヤクドル侯爵子息は、自分の連れていた体格の良い男たち2人にそう声をかけた。
「はい」
「地形が変わっている可能性はあるかと思いますが、その付近です」
(念のためこの人たちも…鑑定するかな)
鑑定した結果は、アイテムボックスの中のフォルダに保存する。これも先程思いついて作った魔法だ。
(後でゆっくり見よう)
侯爵子息の分の鑑定もフォルダに入れる。
ちなみに、この会話を声紋鑑定もした結果、彼らの話におそらく嘘はない…が、どうやら場所の把握は今ふたつのようだ。おそらく、マッピングを自分たちではやらなかったのだろう。

「わかった。では、捜索隊を組織する。お前達も道案内しろ」
「俺達も怪我をしてるんだぞ!」
(かすり傷でしょ)
どうやら、最初にギルドで見かけた時、彼らは洞窟内で崩落があって、依頼の素材が取れなかった、これは事故だから違約金は払わない、前金は返さないという主旨の話をしていたらしい。
依頼票には彼ら以外の3人の冒険者の名前があり、その彼らをどうしたのかと言う話になり、逸れた、だの置いていかれた、などと彼ら…主に侯爵子息…が主張し始め、埒が開かなくなったところに先程の2人が命からがら駆け込んだ、と言うところだろう。
「戦えとは言わん。道案内しろ。しないならこの街ではもう活動はさせられんな」
「…なっ……」
「わかったら下で待て。いいな」

彼らに階下で捜索隊と共に待つよう威圧をかけつつ指示して、ギルマスは机の衝立の影にいた私を呼んだ。
「リッカ、こんなんでいいのか?」
「はい。充分です」
「本当にセタンタを見つけられるか?」
「近くまで行ければ大丈夫でしょう」
「これが、セタンタのデータですが…」
ギルドのデータから、セタンタという冒険者の簡易紋様を作り出す。それをまたフォルダに保存して、私はアイテムボックスのスクリーンを出して、机の上の地図と見比べる。崩落現場の近くをマークする。これで、ここに転移は出来る筈だ。ガルダに初めてやって来た時もそうやったのだから。
「ここは、いわゆるダンジョンでしたよね?」
「最近活性化しすぎてるダンジョンでな。制限をかけてるんだ」
「勝手に誰か入ることは?」
「ないとは言えないが、街からは離れてるし、まず普通の人間は魔物と会ったら大変なことになるから近づかないはずだ。普段は入り口に監視を立ててるが、さっきの奴らを転送石で転移させるために1人はこっちに一緒に来ちまってる。後1人は、1人になったら離れた所定の場所まで退避することになってるから、近くにはいないだろ」
「わかりました。では、行って来ますのでここに転移点ポートを置かせてください。私以外は使えませんので、安心してください」
「ああ。じゃあ、俺らは普通に捜索隊を出して良いんだな?」
「はい。それでは、私はこれで行って来ますね。説明は後からしますので」
「……気をつけてくれよ」
「はい」
なんとも言えない顔のギルマスとサブマスを残し、私は衝立の裏に転移点ポートを描いて…直ぐに崩落現場であるダンジョンに飛んだ。

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