転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす

プロローグ 2

それからきちんと「転生」に関する取り決めをはじめた。これは、いわゆる担当者の管理する世界で無理のない範囲で決めるらしい。逆に、今の世界で『救済』されるまで待つ、というのも出来ますよと言われたけれど、魂というのは待ち続ける間に疲弊すると言われているので、お勧めしないとか言われてしまった。
ちなみに、私が記憶を大半無くしているのは、いわゆる死後から転生する時の仕様なのだそうだが、私の場合はちょっと無くし過ぎてもいるらしい。それが、魂の疲弊と無関係ではないと教えられた。じゃあ、もっと早く話しかけてよ?と思ったのだが、実はちゃんと話しかけていたのだそう。
「精神の疲労が酷かったみたいですね。話しかけても聞こえてなかったみたいで。心が復活するまで時間が必要だったんですよ」
あのよくわからない空間で、ぼーっと食っちゃ寝している時間で、やっと話できるところまで回復したのだろう。
「人生を決める決断ができそうなところまで待ってた
んですよ。魂の疲弊とのバランスを見ながらですけど。じゃ、ゆっくりでいいんで、決めちゃいましょうか?」

性別は男にしますか?女にしますか?両性具有とか、逆に無性とかもできるらしい。
記憶をそのまま持ったままにしますか?とか。

「あ、一応ですね、一撃で世界滅亡とか大量虐殺とか出来るチートな能力も出来なくはないですけど…その分の反動はありますからね。なんか、仲間の話だと異世界転生でチートで無双とかいう人がチラホラいるみたいですけど…そんな能力を持ったら、ウチだと他のところで調整しないといけなくなるんで…」

例えば、異様な虚弱体質になるとか、とっても運が悪くなるとか…そんな感じなんだろうか?

「うーん…」
「ゆっくり決めてくださいね」

ニコニコマークの…ああ、『特徴のない人』って長くてめんどくさいから…この世界の管理人…セカイさんでいいや。セカイさんがのんびり言うのに任せて、転生の条件を決めてみた。

「性別は…とりあえず後で」
「はい」
「私、今のこの生活がしたいんですよね」
「へ?」
「このアイテムボックスみたいなのを、今のように使えるままにして欲しいんですよ」
「今のまま、ですか…」
「他人に話す気もないですし、これでひと財産とかも思いません。と言うよりは、私、必要以上に他人と関わりたくないんですよね」
「…貴女は、もともとは、だいぶ人とたくさん関わる人生を…いや、すいません」
「……いえ。なんとなく分かります」
きっと私は、明るくて元気で話好き…そんな感じで生きてきたのだろう。
「でも、多分疲れてしまったんですよ。誰かの世話を焼くとか、たくさんの人と関わって色々と悩んだりする…そんなのに」
多分、頑張ればなんとかなる、笑顔で行こう!みたいな感じだったはずだ。でも、たぶんそれは本当の自分ではなかったと思う。誰かが喜ぶから…毎日そういう皮をかぶっていて、それを私だと思い込んでいたと言うか…まあ、そう言うキャラを求められていたのを演じていただけなのかもしれない。
そして、それで頑張ってなんとかなっていた。なってしまっていた。きっと、歯車が壊れるまでは。
壊れてからは……?

「これから生きて死ぬまで、もしかしたら気が変わるかもしれませんが…それでも、必要以上に他人と関わるよりは、私はゆっくりと思索にふける時間が欲しいんです」

苦しかったから、逃れたくて、楽になりたくて、笑顔で頑張れば幸せになれるはずと走り続けた…そんな感覚が私の基本的なところにある。きっと、色々なものを見逃して、捨ててきたはず。

「これからは、そう言うものを見ながら、感じながら生きたいんです。スローライフとは少し違うけど…私はゆっくり息をしたい。自分のペースで生きてみたい。」

セカイさんは、私の顔をじーっとみて…いや、もしかしたら見てないかもしれなかったけど…また、少しだけキュッと唇をひき結んだ。

◇◇◇

セカイさんの世界は、レイヴァーンという名がついている。
多分よくある剣と魔法のファンタジー世界。ガスも電気も電話も無い、いわゆる中世くらいの生活レベルだけれど、魔法の類のおかげで、そこまで劣悪かと言われればそうでも無い。飲み水、トイレ、ゴミ処理などはある程度魔法でなんとかできるらしく、街に行ってもそこまで臭いこともない。厳格な身分制度が存在している国が9割で、それこそ貧富の差はかなりのものだ。電話にあたる通信魔法などに関しては、上の身分の者しか使えないことになっているようだ。
暮らしている者の種類としては、人間が4割、エルフだとかドワーフだとかという人たちが2割、獣人やら竜人とかの、人間のように二足歩行するけれど動物よりな人たちが2割、他に所謂妖精とか妖怪とか、ともすると神様に近いと思われている人たちが1割、くらいの感じで構成されているようだ。

そんな世界のとある場所。かなり辺鄙な場所にある小さなログハウスが、今の私の家だ。辺鄙過ぎてどこの国にも属しているようで属していない。誰もこない、静かな場所だ。
今の私の性別は中性よりの女性。多分だが、子孫を残すことはないだろう。ヒョロリとした、「特に特徴の無い感じ」の外見だ。
そう、セカイさんに似てると思う。

このほぼ無限な図書館(電子書籍みたいなやつね)付きのアイテムボックスのようなものをもって転生するのに関してはちょっと揉めた。セカイさん的には、前世をほぼ忘れ、かと言って前世の生活習慣や文化レベルをそこまで忘れていない、『ちょうど良い状態』の私に、どうやらごく普通の文化的かつ人間的な生活をして欲しかったようだ。ついでに色々技術レベル向上ができればいいな、という感じに。そんな、仕組みも何もわからない物を「実現しないかなー」という風に呟いてみて、できる人が形にすれば自然だから、と。それでいいのかしら。
一生困らない程度の才能や容姿、転生先の身分なんかを優遇するから、からの状態ならともかく、この中身満載のアイテムボックスは諦めて欲しいと何度も言われたけれど、断った。
そんなキラキラした人生、なんか面倒だと思ってしまったから。

そして、私が勝ち取ったのは、今の生活。ご飯を作ろうと思えば作れるし、作らなくても「持ってる」。そして、魔法は手持ちの電子書籍な魔導書を読めば、多分たいてい使える。アイテムボックスを使用できるのも視認できるのも私だけ、他人に譲渡するものに関してはある程度の制限付き。この世界のものなら、出し入れも自由で入れている間は時間が停止する。つまり腐らない。
生活には全く困らない。おかげで、毎日読書三昧出来て、このセカイの知識も一般常識も、一応頭に入った。

そして、アイテムボックスを使える代わりに私自身が負ったものと言えば月一回、セカイさんにこの世界のことを報告すること。それだけ。1番近い町に行って、祈りを捧げる。そうすることで、世界の魔力だからマナだとかの流れがリアルにわかるから助かるのだそうで…。

月に一回、森の奥深くから出る…面倒かもしれないと最初は思ったけれど、アイテムボックスの中を使う代償なのだと言われてピンときた。この面倒臭さをなんとかする方法があるのでは?と。結果はビンゴで、中に転移術の書と言うのがあったので、地図を見ながら転移術を使って移動している。

他にも治療魔法の書とか結界魔術の書、剣術の書や探索の書なんていう技能の解説書みたいなものがあって、なかなかに面白いので暇があれば読んでいる。索敵の書とか、気配隠秘の書とか、まるで忍者の巻き物みたいなイメージで面白い。

街に転移する時に、街道外れの誰もいない場所を索敵で探して転移魔術で移動、気配隠秘技能をゆるく使ってあんまり人の印象に残らないように街に入って、神殿に入って小銭をお布施してセカイさんに祈る。特にセカイさんからお告げがあるわけじゃ無いけど、何となく「お疲れ様でーす」な雰囲気を感じて、帰る。

ここ…セカイさんの世界、レイヴァーンに来て5年近く。ありがたく、こういう生活を続けている。

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