転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす

閑話 冒険者ギルド辺境都市バルガ支部 納品倉庫にて


ギルド職員アーバンは、持ち込まれた納品物を眺めて、ぼりぼりと頭を掻いた。
「質が良いんだよ。ホントになぁ…」
目の前には、リッカの持ち込んだキノコセットと薬草セットが並べられている。
ギルドの奥の倉庫スペースには、同じようにギルドへ持ち込まれた物がたくさん、でも整然と並んでいる。とは言っても、ここにあるのは比較的安価な物ばかりで、それこそ金貨100枚を超えるような高額商品は、ギルドマスターの管理する巨大倉庫の中で保管する決まりになっている。
目の前のキノコや薬草は、確かにものすごく高価なものというわけではない。だが、周辺にある同種のものと並べてしまうと、その差は明らかだった。
「大きさはだいたい1.5倍以上、傷も無いし、何より新鮮すぎる」
キノコや薬草は、確かに少し森に分け入れば採れるものだ。しかし、採り易い場所に生えている物は、繰り返し採取され続けることで、どうしても1個1個の大きさはそれほど大きくはならない。育ち切る前に誰かに採られたり、獣に食べられたりもするだろう。リッカの持ち込んだものは、本当に大きい。これほどの大きさに育つ採取場所は、きっと普段人の入らない場所に違いない。リッカの住む場所は、山の近くだということだったので、おそらくそこでとったのだろう…しかし。
「ほんともう、新鮮すぎるんだよな…」
山の近くにはいくつか小さな村があるということだが、その村からバルガまでは、徒歩だと1週間、馬でも3日程度はかかるはずだ。そのわりに、このキノコや薬草は、まるでつい先程採ってきたような瑞々しさだ。最近では、これを目当てに買い取りにくる出入りの業者もいるくらいだ。キノコの味も、薬草をポーションにしたときの品質も、本当に良いらしいのだ。しばしば、もっと採れないのかとか尋ねられるのだが、1度それとなくリッカに尋ねたところ遠回しに断られたので、それ以上は止めておいた。商人達にも「少ないからいいんだろ?」などと言ってノラリクラリとはぐらかしている状態だ。いつもなら、ある程度親しくなればフレンドリーに儲け話を持ちかけて、若い冒険者が少しでも楽な暮らしが出来るようにもっていくアーバンなのだが、どうしてもリッカにはいつもの調子が出ないままだ。
(なんでだろうなぁ)
アーバンは元冒険者だ。眼の良さと剣の腕で、それなりに名前の知られた冒険者だった。所属していたクランの2軍の総指揮を任され、気のおけない仲間も可愛い部下もたくさんいたが、10年前に負った怪我が元で引退した。その後は1年程度のリハビリを経て、今の仕事に就いている。実は解体専門とは表向きの顔で、ギルドに集まる若い冒険者たちのお目付役というか、相談役の仕事を任されている。これを知っているのは、アーバン本人の他にはギルドマスターと副マスターだけだ。
だからこそ、もう一点、悩んでいることがある。

「隠者……着いちまってるじゃねぇか…俺も直に見たの初めてだよ…」

職業欄に隠者と刻まれるのは、大変珍しいと言われている。と言うのも、隠者と刻まれる条件が、大変にシビアなためだ。これもあくまで推測であり、他のメジャーな職業と違い、もとより絶対数が少ないために検証も難しい。だからこそ、そう言うレアなケースはギルドマスター案件としてうっかりそれを見たものはギルマスへ報告し、その冒険者をギルドとして保護し、経過を見守るとされている。いるのだが…
「ありゃあ、ギルマス案件になったら絶対逃げ出すタイプだよな……」

元冒険者にして、ギルド職員アーバンの眼力は健在だったようだ。

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