最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1355話 一難去って

 サシャは襲ってきた『妖魔召士』とその『式』が全て片付いたのを見計らって、見事に空の上から攻撃をしようとしていた『妖魔召士』の居場所を探り当てた『特務』の若い隊士の元へと向かっていった。

「よくやってくれたわ。貴方のおかげで我々は全員が無傷でいられた。ありがとう」

 サシャは若い隊士に微笑みを向けながらそう褒めるのだった。

「い、いえ! サシャ様のお言葉を思い出して、身体が勝手に動いたので……。それに本来ならば虚を突いたあの一撃で仕留めきるものですし、まだまだです」

 結局は仕留めきれずに『サシャ』に助けられた事を若い隊士には不甲斐なく感じたのだろう。肩を落としながら呟くように言葉を漏らすのだった。

「あれだけ動ければ何も問題はないわよ。それに我々スオウ組長の『組』でもないのに、あれだけ『木』を器用に駆け上れる事が出来るのならば、貴方なら数年も経たずに我々『二組』の幹部と遜色なく肩を並べられるようになるわ。それは私が保証してあげる」

「あ、ありがとうございます!」

 素直に褒められて喜びを露わにする若い特務所属の隊士だった。

「そう言えば貴方の名前は何と言ったかしら?」

「はっ! 『特務』所属の『タツミ』です!」

「タツミか。改めてよろしくね」

「はい!」

 サシャから差し出された手を笑顔で握るタツミだった。

 そして無事に洞穴の周囲を取り囲んでいた者達を片付けたサシャ達だが、そこで隊士の一人がサシャに声を掛けてくるのだった。

「サシャ副組長! どうやら前方の部隊と連携が取れない程に離されてしまったようです。どうなされますか? こちらも速度を上げて追いますか?」

 どうやらその報告通りならば、サシャ達がここで妖魔召士に襲撃されている間に、前を捜索していた『カヤ』達のグループは先へと進んでいってしまったようだ。

 サシャ達も歩みを早めれば更に背後に居る『ミスズ』の部隊とも連携がとれなくなってしまう。
 それを踏まえてどうしようかとサシャは、少しだけ悩み始めるのだった。

「こちらも『ヒュウガ一派』の貴重であろう『妖魔召士』を一人片付けたところだし、ここは更に背後に居る『ミスズ』副総長と一度合流してから、カヤ達の元へ向かいましょうか」

「分かりました」

 サシャに報告を行った隊士はその言葉に素直に頷いたが、サシャの横で報告を一緒に聞いていた『特務』の若い女性隊士の『タツミ』は何かを思案するように口元に手をやっていた。

「タツミ? どうかしたのかしら?」

 先程の子犬のような目をしてサシャに褒められて喜んでいたタツミの姿はそこには無く、眼光鋭く思案を続ける『タツミ』に何かを感じてサシャは問いかけるのだった。

「ああ。いえ、申し訳ありません。ただちょっと思うところがありまして……」

「さっきも言ったけど、私は自分が貴方よりも上の立場だからといって、意見を何も聞かない上官になるつもりはないわ。気になる事があるなら、構わないから貴方の意見を述べてみなさい」

 サシャはそう話すタツミの仕草から、どこか副総長ミスズに姿が重なり、彼女は『特務』に選ばれたミスズ副総長の秘蔵っ子なのだという事を思い出して、このまま話の先を促すのだった。

「は、はい! これは同じ『特務』に居る私だからこそ思えた事なんですが、あの『カヤ』様が何の理由もなしに与えられた命令に背いて先へと向かうかなと思いまして……」

 確かにタツミの言う通り『カヤ』という特務の隊士は自直に言われた事をこなす有能な隊士だと『スオウ』組長からも常々聞かされていた。

 スオウが『カヤ』はいつかとんでもない妖魔退魔師になるだろうと褒め称えていた程であった。

 そんな『カヤ』がミスズの命令を無視してまで捜索を優先するのは、確かにおかしいと『タツミ』の話を聞いた『サシャ』も同じ考えに至るのであった。

「命令より優先すべき事態が生じた……? まさか、私達と同じく『サシャ』も妖魔召士達に襲撃されて、身の安全を考えて速度を早めたのかもしれない」

「私も同意見です。サシャ様!」

「え、ええ……。このまま悠長にミスズ様の部隊を待って合流している間にも危険が迫っているのかもしれないわね。皆! これから私の一存でこの隊も前隊と足並みを揃えるために行動を開始するわよ。ミスズ副総長との連携も重要な事だけど、カヤ達との部隊の連携を取れるようにすることも同じくらいに重要な事の筈よ。命令違反を問われるならば、私が全ての責任を取るから、此処は先を急ぎましょう!」

「「分かりました! サシャ副組長!」」

「タツミ! 急いでカヤ達の元へいくわよ!」

「はい!」

 こうしてサシャ達のグループもまた、カヤ達のグループの方へと向かい始めるのだった。

 そこに彼女達が想像だにもしない程の『妖魔』が待ち受けているとも知らずに――。

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