最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1351話 キクゾウの不安と焦燥

「主よ。あの人間が居ないのであれば、此処は退いた方がいいかもしれんぞ」

「そんな真似が出来ると思うか? そもそも今も仲間達が襲われかけている切迫した状況下で、お前を呼び出しているのだぞ? 馬鹿も休み休み言えよ」

 『退魔組』の退魔士に何の期待もしていないキクゾウにとって、あのイツキとかいう人間と合流出来なかったからと言って、ヒュウガの命令を背いてまで退いた方が良いという『黄雀こうじゃく』の言葉に耳を貸す事は出来なかった。

「俺はお主の事を想って口にしているだけだがな。まぁ出来ないというのであれば仕方があるまい。それで俺を呼び出したという事は、相当に危うい状況なのであろう? サッサと用件を告げるが良いぞ」

 『黄雀こうじゃく』はキクゾウだけでもこの場から逃してやりたいと、真っ先に頭を過って提案したのだが、どうやらそれは叶わないと知ってやって欲しい事をさっさと言えとキクゾウに告げるのであった。

「ああ。この森に妖魔退魔師達が数多く入り込んできている。ケイノトの門前に居た奴らは『隻眼』だけの部隊であったが、此処に居る者達は『妖魔退魔師』の副総長と組長格にその幹部連中の率いる部隊達が集結して、ヒュウガ様の居場所を探り当てようとしているのだ。今はまだ『結界』を用いておることで、ヒュウガ様の居場所までは割れてはいないが、このまま人海戦術で森の中を動き回られてしまえばいずれはやられてしまう。そこでお前には手っ取り早く数人の妖魔退魔師を無力化させて欲しいのだ」

 『黄雀こうじゃく』は何度か頷きながら、キクゾウの話を素直に聞いていた。

「つまり俺の役目は、奴らの動きを鈍らせろという事だな? だが当代の『妖魔退魔師』の副総長と組長格を同時に相手にするのならば、流石に俺だけでは厳しいところがある。それに奴らの探す速度を鈍らせたとて、その先に何か手立ては考えているのか? ただ単に足止めをするだけならば何の意味もないと考えるが……」

 ――それはキクゾウも悩み考えていた事であった。

 ヒュウガから直接指示を出された内容は、ジンゼンに王連を使って奴らの足止めをする事。

 奴らの動きを鈍らせて探す時間を奪わせるをひとまずは考えているようではあるが、その先の計画は何か用意しているのかはキクゾウにも分からなかった。

 普段通りの冷静さを見せてはいたが、キクゾウはやはりどこかヒュウガに焦燥感が感じられていたのであった。

(まさかとは思うが、この期に及んで『退魔組』のイツキとかいう退魔士と合流をすれば、何とかなるとヒュウガ様は考えているのだろうか? 流石に他にも計画は考えているとは思うが、いやしかし……)

 これまでは全幅の信頼をヒュウガにおいていたキクゾウであったが、今回のような自身が納得が出来ない状態というのは初めての事であり、キクゾウも不安感が拭いきれなかった。

「とりあえず分からない事を考えている時間はない。今は他の仲間の妖魔召士達が奴らの足止めをしている。ひとまずお前は、副総長や組長格ではなく、その仲間達と戦っている妖魔退魔師達を倒してくれ。そうすれば騒ぎを聞きつけた他の妖魔退魔師達も一箇所に集まって来るだろう」

「承知した。だが主よ、先程俺が言った事は忘れんでくれ。このまま意味のない時間稼ぎであれば、主に未来はないぞ? 俺は契約主となったお前だけは助けてやりたいと考えている。その気になったならば、いつでも俺を呼び戻せ。主だけは何とかして助けてやろう。それでは、行ってくるぞ」

 キクゾウからの返事を待たずに、彼の『式』である『黄雀こうじゃく』は『カヤ』達の居る『特務』と『二組』の妖魔退魔師の混合編成部隊の元へと飛び去って行くのであった。

「一体どうすればいいのだ……」

 キクゾウは『黄雀』の離れて行く姿を目で追いかけながら、険しい顔で悩み続けるのだった。

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