最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1201話 新たな門出の前に

 ゲンロクの里に居るソフィ達は、今回のコウゾウ達の襲撃犯がヒュウガ達であるという確認をしっかりと取った後に、彼らが何処に向かうかという話をゲンロクやエイジ達を交えて話し合い、そしてその中でゲンロクとエイジの間にあった確執も綺麗に取り除かれて、今後についての話も擦り合わせる事が出来た。

 今回ソフィ達がここに訪れた事でエイジ達妖魔召士組織にとっては大きくプラスへと働いた事になったが、その対立している組織である『妖魔退魔師』にとっては、エイジという存在を『妖魔召士』組織へと戻すような展開へと進めてしまった事になる。

 だが、本来であればそれを良しとは考えない筈の妖魔退魔師の副総長であるミスズは、むしろこの展開こそを望んでいたような節がソフィには、あの場で感じ取る事が出来たのであった。

(やはりこのミスズという者は考え方が我に似ている。結果を重視するという点では少しばかり我とは違うが、その結論に至るまでの過程の持っていき方に関しては、我も共感出来ることが今回の場においても多くあった)

 ミスズがソフィを観察していたように、ソフィもまたミスズに自身と共感を得ている部分を省みて、今回観察を行っていた。そしてその出した結論はやはり、ミスズの考えは自分に近しいと確信を得たのであった。

 そしてソフィがそんな事を考えている横でミスズは、伝え忘れていた事である『妖魔山』の調査にソフィ達を伴ってもいいかという質問がなされていて、当然エイジもゲンロクもソフィの事情を理解している為に、これに賛成の意を示すのであった。

「それでは今回のヒュウガ殿の一件が済み次第、前回の会合の通りにお願いします」

「ああ、分かったミスズ殿。先程お主はヒュウガの一件に手を出さないでくれと申していたが、こちらはいつでも手を貸す準備は出来ている。気が変わったらいつでも申してくれ」

 どうやら今回の話合いで吹っ切れた様子のエイジがそう言うと、ミスズが少しの間手を顎に当てながら逡巡していたが、にこりと笑って頷くのであった。

 ミスズがそう判断した理由の一つには、今のエイジはここに来た当初の時とは違うと理解した為だろう。

「それではソフィ殿」

「うむ……。だが、本当にお主の息子に会いに戻らなくてもよいのか? 我は『ケイノト』に一度立ち寄っている。お主がその気であれば共に連れて行ってやれるのだが」

「本当ならソフィ殿の言葉に頷きたいところではあるのだが、小生は先程のミスズ殿の言葉で目が覚めたのでな。この横に居るゲンロクにこれまでの借りを返すまでは、妖魔召士達の為に寄り添うと心を決めたのだ。それに『ゲイン』の事は『シュウ』に任せてあるしな」

 我慢をしているようでもなく本当に心の底から妖魔召士組織の為に、エイジが真剣に考えている様子だと判断したソフィは静かに頷いた。

「そうか。お主がそう決めたのであれば、もうこれ以上は何も言うまい」

「ヒュウガとやらを捕縛したら必ずお主達にも連絡をする。その時までしばし待っておいてくれ」

 ソフィはそう言って立ち上がると、他の者達も同じように立ち上がるのだった。

「ああ、分かった。色々と気にかけてもらって感謝するぞソフィ殿」

 ソフィがエイジに笑みを向けて頷く。

「それとミスズ殿。お主の言葉は小生の胸に響いた。もう今後は『妖魔召士』の組織を侮らせはせぬから、楽しみにしておいて欲しい」

 そう言ってエイジはミスズの前に立つと、ゆっくりと自分の右手を差し出した。

「……ふふっ、ゲンロク殿だけではうちとしても張り合いがなさ過ぎましたから」

 そう言ってミスズはちらりとゲンロクの方を一瞥すると、ゲンロクは苦笑いを浮かべながらも怒るような真似はせずに顔を逸らしながら小さく息を吐いていた。

「えっ」

 ミスズがゲンロクの態度を見て薄く笑っていると、いつの間にか握手を求めてきていたエイジがミスズの手を掴んで強引に握手をするのだった。

「小生はお主ら妖魔退魔師を少しばかり誤解していたようだ。お主のような者が組織の上の立場に居る事に妖魔退魔師組織を羨ましく思う。だが、小生が妖魔召士に戻らせた以上は、これまでのようにお主の好きにはさせぬ! これからは互いを高め合えるような、そんな相手になってくれミスズ殿」

 やる気に満ち溢れているエイジに手を強く握られたミスズは、目を瞑りながら何かを考えている様子だった。やがてその目が見開かれたかと思うと、不敵に笑い始める。

「望むところですよエイジ殿、それにゲンロク殿。これ以上は私に失望させないで下さいね? 前時代の恐れられていた妖魔召士組織に戻って頂ける事を期待していますよ」

 そう言ってエイジに握られていた手を今度は、ミスズの方から強く握り返すのであった。

 ――そして三者三様に、視線を交わしながら頷き合うのであった。

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