最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1197話 ヒュウガのとある策略

 キクゾウの『式』である『浮梟うふく』と共にこの場所に戻って来た、自分の『式』に労いの言葉を掛けたヒュウガは『契約紙帳けいやくしちょう』の式札に戻した後に浮梟の方へと視線を向けた。

「ご苦労だったな浮梟。それでそっちは何も問題はないか?」

「キクゾウ殿は既にヒュウガ殿の配下の者達と共に『ケイノト』近辺の洞穴に潜伏している。しかし今すぐにこちらへ来る事は待って頂きたい状況でもある」

 まだ大きなトラブル等は生じてはいない様子ではあるが『浮梟』の言葉では、何か懸念を抱くに値する事情があるようであった。

「それは『退魔組』の問題ではなく『妖魔退魔師』側の問題か?」

 ある程度予測がついていたのかヒュウガがそう口にすると、神妙に浮梟は頷いて見せる。

「既にヒュウガ殿がそちらに居る両名を救い出すために『旅籠町』を襲った事は伝わっているようで『ケイノト』の町の周辺を『妖魔退魔師』がうろついている。どうやら狙いも理解しているようだ。今こちらから大人数で『退魔組』の連中の元に向かえば直ぐに捕捉されて追われる事になるだろう」

「その周囲の警戒を行っている連中は退で間違いないのだな?」

「奴らの中心に居た人間は私も見覚えがある。隻眼の小柄な女性で、その背丈に見合っていない野太刀を帯刀していた。あれは『妖魔団の乱』以前から妖魔退魔師と名乗っていた人間だった筈だ」

「小柄で隻眼、それに大刀の野太刀……。間違いなくそれは『妖魔退魔師』の組長格で間違いないでしょうね」

 ヒュウガがそう言うと『ジンゼン』や『キネツグ』が相槌を打つように口を開いた。

「そりゃ面倒な事この上ないですね」

「今ならまだ護衛隊程度の予備群しか居ないと思っていましたが、前時代よりも妖魔退魔師側の組織も諜報の質が上がっているようです」

 浮梟の話すその妖魔退魔師の特徴を聞いたヒュウガ達は、皆一様に誰かを察する事が出来た様子であった。

「どうなされるヒュウガ殿。言っておくが今はまだ見つかってはいないが、ずっと同じ洞穴で息を潜めることは出来ない。既にその『ケイノト』周辺に気になる男が近づいてきているという報告も入ってきているとの事だ。もしかするとその男も妖魔退魔師の組織の偵察かもしれない。それに旅籠町の事を知られている以上は『妖魔退魔師』は今後本腰を入れてくる事は間違いない。急がなければ二度と『退魔組』には近づけなくなると思われるぞ」

 契約を結んでいるとは言っても本来は与えられた役割以上に動く事はなく、ここまで自分の事のように親身になる事は珍しい。しかしどうやら『浮梟』は相当に『キクゾウ』という妖魔召士に肩入れをしているのだろう。そのキクゾウが信頼を置いて行動を共にする『ヒュウガ』に対して、このままでは作戦は上手く行かないぞばかりに告げる妖魔の『浮梟』であった。

「そうですねぇ。あの『キョウカ』とかいう妖魔退魔師が居る以上は、強引に押し入るというのは得策ではないでしょうし、かといってこれ以上に時間をかけるとなると、妖魔退魔師の厄介な連中がどんどん押し寄せてくるという貴方の意見も間違ってはいないでしょうね」

 八方塞がりだとばかりに告げる『ヒュウガ』だったが、悲壮感などは全く感じさせない程の落ち着きぶりであった為に『浮梟』は不審そうに眉を寄せるのだった。

「やはり思った通り一筋縄ではいかなそうですね。ここに正解だったようです」

 そう言ってヒュウガは背後に居る『キネツグ』を一瞥すると、直ぐにキネツグは笑みを浮かべながら旅籠町の屯所で、自分達の捕縛されていた部屋の更に奥に収監されていた、二名の男をこの場に連れてくるのであった。

 その男たちは目隠しをされながら、猿轡を嵌められているが手足が縛られているというわけではない。しかし彼らは自分達の意思でこの場に居る様子であり、逃げようとは考えてはいないようであった。

「外しますか?」

 キネツグはヒュウガに口を開きながら、連れてきた男の頭に手を置いた後に、こんこんと顔の拘束具を軽く叩いた。

「そうですね、外しなさい。もし逃げようとしたなら容赦なく『魔瞳まどう』を使いなさい」

 ヒュウガがキネツグにそう命令すると、キネツグはにやりと笑みを浮かべながら頷いて、旅籠町に捕縛されていた『煌鴟梟こうしきょう』の男二人の目隠しを解くのであった。

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