最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1177話 圧のある視線

 副総長ミスズによって旅籠町の護衛隊長を解任された『予備群よびぐん』の『シグレ』の今後についてだが、当分の間はスオウが組長を務める二組で『預かり』の立場で行動を共にしてもらうようにミスズは告げた。

 予備群としては既に十分なる力量を有するシグレだが、まだまだ『妖魔退魔師ようまたいまし』としては未熟と言わざるを得ない。最低でも『サカダイ』の治安維持が行える程度の実力が必要であり、今回のような『妖魔召士ようましょうし』達との戦闘になった時に自分一人では勝てずとも、他の仲間の隊士が来るまではその場を持たせられる『妖魔退魔師衆』程の力量を手にしてもらわなければ、スオウを組長とする二組の正規の隊士に任命する事は出来ないからである。

 しかしミスズはシグレが上に上がって来るまでにそこまで時間は掛からないだろうと見ていた。まだ年齢も若く師となる者がしっかり指導を行えば、これまでとは成長速度の度合も比べ物にならないであろう。

 それにこれまでのシグレが務めていた『旅籠町』の護衛隊の中での環境では『コウゾウ』を除けば最年少であったシグレが戦力として上に数えられていたが、二組の環境内であれば実力的に考えて一番下からのスタートとなる事は間違いない。

 周り全員が自分より格上の『妖魔退魔師』である以上、研鑽対象には困らなくなるだろう。やる気がない者であればそんな恵まれた環境でもいまいち伸びない可能性もあるが『ミスズ』や『コウゾウ』が認めた彼女の資質と真面目な性格であれば問題は何一つなく、いやでも強くなるだろう。そこに疑問を挟む余地はないと考えるミスズであった。

 ひとまずはこれで『シグレ』の問題は一旦は落ち着いたとミスズは考える。スオウやサシャに彼女の事を任せた以上、再びあのどす黒い目をしながら自身の作り出した闇の部分に呑み込まれて戻ってこられなくなるという事はなくなった筈である。何かあれば直ぐに言ってくるようにと伝えてもいるし、後は保険として彼女の周囲に出来るだけ今は『妖魔召士』を近づけなければ大丈夫の筈である。

 ミスズはサシャにシグレの事を任せた後、総長の元に戻ると伝えて部屋を後にした。そのまま廊下を出た所で休む事なくミスズは次の思考に入り始めるのだった。

(さて、後はその『妖魔召士』達の処遇を決めなければならないわね。一応は旅籠町の方にヒノエ組長を派遣して何か手掛かりがないかを調べさせる事になるでしょうけど、総長の言っていた通り『ケイノト』を任せてある『キョウカ』の事も気に掛かる……。あの子の事だから問題はないと思うけれど、捕縛した『妖魔召士』達を泳がせて『ケイノト』方面に報告に行くかどうかを探った方が色々と情報を得るには早いかもしれないわね)

 ひとまずはシゲン総長の元に向かい、シグレの事を報告した上で今後の事を相談しようと考えるミスズであった。

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 そしてそのシゲンは最高幹部達に指示を出し終えた後、じっと部屋に居るソフィの方を見ていた。当然その事はソフィも気づいてはいるが、いつも間に入ってくれているスオウ組長も今は出された命令の為に準備をしているようでこの部屋には居らず、ミスズも頭を冷やして来ると告げたまま戻ってきてはいない為に、誰もシゲンとソフィの間を取り持ってくれる親しいと言える者達が居ない状態なのであった。

「おいソフィ……。あの野郎と何か喋って来いよ。ずっとてめぇの事を気になっているようだぞ?」

「うむ……。我も話をしたいとは思うのだが、あやつの事がよく分からぬのでな。少し様子を見て見ようと思っていたのだが、確かに気になって仕方がないな」

「旦那、気を付けて下さい、あの野郎は相当にやりやがりますよ……? 圧が普通の野郎達とは全然違いやがる」

 セルバスも心配はしてくれているようだが、どこかソフィやヌーとは違うベクトルで物事を考えている節があり、たまに何を言っているのだろうかと、天然気味なところがあるソフィを以てしても考えさせられる事があるのであった。

「我に何か言いたい事でもあるのかな、シゲン殿?」

 そして静かにこちらを見つめていたシゲンに向けて、ソフィの方から言葉を掛けるのであった。

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