最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1157話 ミスズの謎掛けと、ソフィの存在

 直ぐに言葉を返して来るだろうと予想していたミスズは『魔瞳まどう』の対抗策を考え込んだまま悩む素振りを見せるソフィに胸中で一つの結論に至るのであった。

(どうやらソフィ殿は先に考えて戦闘を行うタイプではなく、ひらめきや直感で道を作り、戦いながらその道を増やしていくタイプのようね。そうだというのに戦いに於いてあれだけ自信満々に動いていたのだから、彼はこれまであまり挫折という挫折を経験した事がなかったのかもしれないわ)

 ミスズは眼鏡をくいっとあげながら、じっくりとソフィを観察していく。

「相手の『魔瞳まどう』に真っ向からぶつかって魔力で屈服させるのではないのなら、それこそ相手の魔力を強引に奪うという事か? しかし瞬時に相手の魔力を枯渇させたとしても生命力を注ぎ込まれてしまえば『魔瞳まどう』の発動自体を止める事は難しい。確かに相手を最初から殺すつもりであれば、容易に相手の魔力を奪えるだろうが、それならば最初から相手を殺してしまうのが一番手っ取り早いだろうな……。だが我は『魔瞳まどう』を止める事が目的で毎回相手を殺したいとは思えぬし、そういう答えをお主は求めているとは思えぬ……」

 独り言つように考えた事を口にしていくソフィは、最終的にはミスズに返答を行ったが明確な結論には至らなかった様子であった。

 だが、そのミスズに対して行った返答の一部分を聞いた彼女は先程までの観察をしていた時の表情とは違い、唖然とした顔を浮かべてしまうのであった。

(このソフィ殿の思い描く戦闘論はどこか歪だ。少しばかり意地の悪い質問であった事は認めるところだけど、彼の発言を聞いていると、どこか真実味が感じられない。 『魔瞳まどう』一つを取ってみても不可能な選択肢を選んで強引に押し切ろうとする。いや彼にとってはそれが不可能な選択肢ではないという事だろうか? 我々から見れば最初から勝てる筈のない潤沢な魔力を有する『妖魔召士ようましょうし』だが、もし彼の有する魔力の限界点がその『妖魔召士ようましょうし』よりも上なのだとしたら我々の『魔瞳まどう』に対する対抗策よりもソフィ殿の言う対抗策が最善だろう)

 ちらりとミスズはソフィに視線を送るが、どうやら彼は真剣に考えて悩んでいる様子が窺えた。

(最善の選択を選んでいる以上、次点の選択肢を示したところで魅力に欠ける。劣る代替案をいかに勧めたところで、我々より最善を手にしている相手には無意味。つまりはそう言う事なのだろうか? い、いや……、まずい、これは考えすぎだ。如何にソフィ殿の魔力が優れていたとしても、例えそれが我々の理解より上だとしても、それでも『最上位の妖魔召士ようましょうし』達より魔力が上は有り得る筈がない)

 ミスズは最初にソフィが告げた『コウゾウの魔力では魔瞳に抵抗が出来ない』と言葉に出した事で、その回答に対してソフィ殿の弱点は視野の狭さかもしれないとそう思いついた為に、そこを確かめようと観察をする目的で煽る言葉を吐いた。しかし確かめようとした事で、余計にソフィの事が分からなくなってしまった。戦闘に於いての視野狭窄があるかもしれないと考えたミスズだが決してそんな事はなく、もしかするとソフィと言う魔族はと、彼女は考えさせられるに至ってしまった。

 これ以上悩むと支障をきたす危険が孕むとばかりにミスズは強引に思考を停止させたが、どうやら既に遅かったらしく、彼女の定めているあらゆる思考の限界点。その志向の意識興性を数センチ分がはみ出てしまった所為でソフィという存在を必要以上に意識してしまっていると自覚するのだった。

 こうなったミスズが自分の『働く余計な思考』を頭から追い出そうと考えても、彼女という人間の精神の特質上、完全にシャットアウトする事は難しい。

(くっ、最初からこちらの持つ『魔瞳まどう』の解を告げておけばよかった。ソフィ殿がどういう存在なのか、どれ程の強さを持っているのかを調べたい。この欲求を満たしたいという邪念が今の私の中に生まれてしまっている)

 ソフィの戦闘に対しての視野狭窄を確かめる為に突こうと考えた所為で、余計にソフィという存在が分からなくなってしまい、今も『魔瞳まどう』について悩んでいるソフィを前にしてまた違うベクトルで同じように悩んでしまうミスズであった。

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