最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1149話 ソフィを意識する者達

(またあの甲高い音が聞こえた後に彼の目の色が変わった。そしてあれだけ暴れていたシグレをあっさりと無抵抗にさせてしまった……。やはりこのソフィという人間……いや、魔族という存在は危険だ『妖魔召士ようましょうし』達が扱う『魔瞳まどう』と比べても脅威度は同等かそれ以上かもしれない)

 ミスズは顎下に手を当てながら、考える仕草を取ってソフィを監視を続ける。

「お前達。このまま解放してやろうと考えていたが事情が変わった。悪いがこのままもう少しここに居てもらう。構わないな?」

 転がっていた『妖魔召士ようましょうし』達にシゲンが話し掛けると『妖魔召士ようましょうし』の両名は互いの顔を見ていたがやがて頷き合った。そして渋々と言った様子で問いかけてきた総長シゲンに同意を示すのだった。 

「よし。ヒノエよ、彼らを客室の方に案内しろ。縛る必要は無いが、数名のお前の組の隊士を部屋の前へと見張りに出させろ」

「はいっ! 了解しました……! おらっ、足を自由にしてやるから、てめぇら、自分の足で歩きやがれ」

 ヒノエは『妖魔召士ようましょうし』の男たちの足を自由にすると、そのまま男たちの尻を軽く蹴って立たせる。

「わ、分かった、分かったから! そんな風に手荒に扱わないでくれよ……」

「ふんっ!」

 手は縛ったままだが足の自由を取り戻した男たちは、慌てて立ち上がり尻を蹴って来たヒノエに愚痴を零しながらも大人しく従うのだった。 

 そしてヒノエ組長とそのヒノエの組の隊士達は、シゲンの命令通りに客室へと『妖魔召士ようましょうし』二名を連れて部屋を出ていくのだった。

 『妖魔召士ようましょうし』達を一旦この本部で預かる事に決めたシゲンと、今も尚の事じっくりと観察するような目でソフィを見つめるミスズ。 『妖魔退魔師ようまたいまし』組織のトップ達に、監視するような視線に晒されているソフィは、先に目を覚ましてこの部屋で待機していたヌーに声を掛けられるのだった。

「ふっ、俺に気軽に『魔瞳まどう』を使うなといいやがった癖に、てめぇはさっさと使いやがって、まぁ別にそれは構わねぇがよソフィ? お前、また俺が居ない場所であの姿になりやがったな?」

 それは特務の施設でソフィが『第三形態』になった事を言っているのだろう。

「うむ、成り行きでそこに居るミスズ殿とやり合う事になったのでな」

 そう言ってソフィが唐突にミスズの方に視線を向けた為、ソフィを監視するように見ていたミスズとバッチリと視線が合うのだった。

「!」

 そしてそこでミスズはこのように堂々と他者を監視するような、そんな視線をソフィに向け続けている事に自分で違和感を覚えるのだった。

(どうやら自分が思っている以上に今の私は冷静さを保てていない。このような気分になるのは、本当に久しぶりの事だわ)

 ゆっくりと目を閉じながら冷静になろうと息をゆっくりと吐いたミスズは、すっと懐から小さな布を取り出すと、自分の眼鏡のレンズを拭い始めるのだった。

「そうかよ。どうやらあの女も徒者じゃないようだな。俺とやったあのガキも侮れねぇし、あそこにいる野郎が一番ヤベェ……。本当にこの世界は、俺が聞いていた内容とえらい違いだぜ」

 この世界に対してヌーが事前に持っていた情報との乖離が大きすぎた事で、納得が行かないとばかりにソフィに愚痴を告げていたヌーだったが、そこでヌーにノックスの世界の事を教えたセルバスの姿が目に入り、ヌーは大声でセルバスを怒鳴るのだった。

「おい、セルバス! てめぇ、どういうつもりで俺にあんな事言いやがった!」

「あ……? ヌー、一体何の事だよ」

「ちっ! まぁ、適当に生きてるお前に今更言っても仕方ねぇか」

「おいおい。本当にヌーは、わけわかんねぇ野郎だな」

 突然に声を掛けられたかと思えば、勝手に自己完結を果たすヌーに何が何だか分からず、悪態をつくセルバスだった。

 ソフィ達が再びヌー達と話を始めた頃、腕を組んでソフィを見ていたシゲンは、ゆっくりと眼鏡のレンズを拭いているミスズの方へと歩いて行く。

「!」

 自分に近づいてくるシゲンに気づいたミスズは、拭っていた布を仕舞い直すと慌ててシゲンに視線を向け始める。

「ミスズ、お前久しぶりに眼鏡を外して戦ったようだが、ソフィ殿はそれ程までの実力者か?」

 同じ部屋に居るシゲン達とソフィだが、本部にあるこの部屋はとても広く今のミスズとシゲンの行う会話程度の小声ではこれだけ離れていれば、普通の人間が相手では聞き取れない。

 それくらいの距離で話し始めた総長シゲンと副総長ミスズの二人だったが、ソフィ達は自分達の会話を行いながらも全員が彼らの会話が聞こえていた。彼らは人間ではなく魔族であり、聴覚も人間とは比較にもならない。しかし聞こえているという事を表面上ではおくびにも出さず、話を始めたシゲン達の会話の情報を得る為に、ソフィ達は自分達の会話を行い続けるのだった。

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