最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第1143話 豹変する、人質となった少女
ヒュウガに命令されてこのサカダイの町に『妖魔召士』側の間諜として潜伏していたリュウジだったが、要らぬ欲を掻いた所為でその間諜としての彼の正体を露見させてしまった。それもその相手が何を隠そう『妖魔退魔師』の総長なのだから目も当てられない。
ここで捕まってヒュウガの指示でここに来ていた事だけは、何があろうともバレるわけにはいかない為に、リュウジは必死の形相を浮かべながら『妖魔退魔師』から逃亡を続ける。
だが、追って来ているのが『妖魔退魔師』側の幹部にして『一組』のヒノエ組長が相手ではこのまま逃げ続けたところで、結局はいつかは捕まる事となり逃げ切る事は適わないだろう。
悔やんでも悔やみきれないままリュウジは、それでもサカダイから出る為に『一の門』の方向へ向けて決死の逃亡劇を繰り広げていく。しかし遂に背後から追って来ていたヒノエの声が、リュウジの耳に入ってくる。その声の近さからどうやらヒノエは、リュウジの直ぐ傍まで接近しているという事だろう。
(まずい……、まずいっ!)
もうこうなれば戦いにならないと分かっていても抵抗する為に『式』を放つしかないとリュウジはその覚悟を決める。そして走りながら手を懐に入れて、忍ばせている『式札』に手をやったその時であった。
リュウジは目の前から歩いてきている女性を見て、契約している『式』を呼び出すのに必要な『契約紙帳』の式札からゆっくりとその手を離したかと思うと、にやりと笑みを浮かべるのだった。
リュウジは一度だけ振り返って、追って来ているヒノエ達との距離を確認すると、今考えた咄嗟の行動を実際に試すしかないと判断するのだった。
そして前から歩いてくる髪がボサボサでどこか頼り無さそうに歩いている女性と、すれちがい様にリュウジはその女性の肩に手をやった後、そのまま反対側の手を女性の首元に回して、ヘッドロックをするように引き寄せる。
「と、止まれ! それ以上近寄れば、この女がどうなっても知らんぞ!」
何とリュウジは『妖魔退魔師』の追手から逃れる為に、目の前を歩いていた女性を人質にするという暴挙に出るのであった。それは人間を守る為に存在している筈の『妖魔召士』とは、とても思えぬ愚かな行動であった。
「!」
女性は突然の事で一瞬驚いた表情を浮かべたが、直ぐに状況を察したらしく大声を出したりはせずに黙って俯いていた。
「ちっ、卑怯者が! テメェッ、それでも『妖魔召士』かよ!?」
「へっ! うるせぇよ……。いいか? お前はそこから一歩も動くなよ?」
人質に取った女性の首の頸動脈を左手で押さえながら、右手でヒノエに動くなとばかりに指を差す。
当然ヒノエはリュウジの言葉に素直に従うつもりはなかったが、形だけでも言う通りにしなければ、人質となった女性の命が危ないと判断し、ヒノエ達はリュウジの言葉通りにその場で足を止めるのだった。
「よし……! 後の奴らは今すぐに戻って俺の仲間を追わないように他の連中に伝えてこい。既に捕らえられていたら、解放して俺の元へ向かわせるようにしろ」
人質をとっているリュウジという男は腐っても『妖魔召士』である為、如何にヒノエ達であろうとも、強引に手を出すわけにはいかなかった。何故なら男に『捉術』や『魔瞳』といった術式を人質に使われてしまえば、男を取り押さえる事は出来たとしても人質となった者の命を守れる保証がないからである。
『妖魔召士』と名乗れる者達は『妖魔退魔師』にほとんど備わっていない魔力を持っている。その魔力を活かした『捉術』や『魔瞳』を用いて、高ランクの鬼人級の妖魔すら倒し得る力を持つ者が多く居るのである。
そんな高ランクの妖魔を倒せる力を人質にされているような一般人に使われてしまえば、あっさりとその命を奪えてしまう事だろう。
「貴方は『妖魔召士』なのですか?」
「何?」
ヒノエ達はここはひとまず男に従うフリをしようと考えていたが、行動をとる前に捕まって人質になっていた女性が突然男に口を開いたかと思うと、何と質問を投げかけ始めるのだった。
「あ、ああ、その通りだ。貴様ら一般人の命を守ってやっている『妖魔召士』様だ!」
へへっと笑いながらリュウジは、俯いていた女性の顔を見ようと左手で掴んでいる女性の首を持ち上げて小柄な女性の顔を覗き込むが、どうやら強引に顔を晒させられた女性は成人をまだ迎えているようには見えない少女であった。
「まだ若いな。しかし残念だがお前には、俺がこの町から無事に逃げ切るまでは付き合ってもらうぜ?」
そう言ってリュウジは手を首元から女性の口元の方へ持っていき、そのまま自分の指を少女の唇をなぞるように這わせ始めるのだった。
「てっ、テメェ……! いい加減にしやがれっ!」
ヒノエは男のやっている事が気に入らなかったようで、青筋を浮かべながら苛立ち交じりに声を荒げる。
「おっと! 動くんじゃねぇ、この女がどうなっても知らねぇ……、ぜ?」
リュウジが勝ち誇ったように口を開いて、ヒノエの顔を見ようとした瞬間だった。どこに隠し持っていたのか、いつの間にか少女は小太刀を右手に持っており、そのまま思いきり男の下腹部に刀の刃を逆手に持ったまま突き刺していた。
「うっ……! ぐううっ、き、貴様!」
リュウジは激痛を堪えながら必死に言葉を紡いだかと思うと、突き刺された刃物を取り除こうと、人質にとった女性の手を掴もうとする。
「『妖魔召士』は……。全員殺す、全員殺す、殺す、殺す!」
しかしリュウジが女から刃物を奪おうと手を伸ばすが、その前に少女はぐりぐりと突き刺した刃物を男の腹部に押し込みながら怨嗟の言葉を吐き続ける。
「うげっ……、かっはっ……!」
小太刀を奥まで押し込まれた後に強引に引き戻されたかと思えば、再び何度も何度もその凶器を男に突き入れていく。しかしリュウジもそこで諦めずに何とか薄れていく意識を押し留めて、少女の刃物を必死に握って臓器の損傷を行い続ける刃物の進行を止めた。
――からんっ、からんっと音を立てながら小太刀が地面に音を立てて落ちた。
刃物を払い落したリュウジは、脂汗を大量に流しながらもようやく助かったとばかりに笑みを浮かべ始めて、そのまま少女の顔を見ようとするが、そこでその少女の憎悪に満ちた恐ろしい形相を見てしまい、リュウジは怯んでしまうのだった。
それはまるで親の仇を見るような憎悪を孕んだ色のない目――。
「……死ねよ『妖魔召士』」
そしてその少女は腹を抱えて蹲ろうとしていた男の傷口を思いきり蹴った後に、そのまま落ちていた小太刀を拾い直して、男の首を目掛けて躊躇無しに小太刀を突き入れるのだった。
「!?」
声を出すことも出来ないままリュウジは、そのまま首を刺されて絶命する。
しかし少女はブツブツと何かを言いながら突き刺した小太刀を抜き直した後も、その刃物を出し入れしやすいように自らの足を男の肩口に置いた後に再び、何度も何度も男の首に刺突を繰り返し続けるのだった。
「お、おい! も、もうやめろ!」
『妖魔退魔師衆』や『ヒノエ』組長でさえもその凄惨な光景に見入っていたが、我に返った『ヒノエ』は慌てて少女から血がべったりとついている刃物を取り上げる。
「邪魔をしやがって……」
「うっ……! お、お前……!」
少女はヒノエに小太刀を取り上げられて少しだけ残念そうな顔をヒノエに見せた後に、静かに小声で呟いた。やがて自分が殺害したリュウジを見直して満足そうに、そして本当に嬉しそうな笑みを浮かべ始めるのだった。
……
……
……
ここで捕まってヒュウガの指示でここに来ていた事だけは、何があろうともバレるわけにはいかない為に、リュウジは必死の形相を浮かべながら『妖魔退魔師』から逃亡を続ける。
だが、追って来ているのが『妖魔退魔師』側の幹部にして『一組』のヒノエ組長が相手ではこのまま逃げ続けたところで、結局はいつかは捕まる事となり逃げ切る事は適わないだろう。
悔やんでも悔やみきれないままリュウジは、それでもサカダイから出る為に『一の門』の方向へ向けて決死の逃亡劇を繰り広げていく。しかし遂に背後から追って来ていたヒノエの声が、リュウジの耳に入ってくる。その声の近さからどうやらヒノエは、リュウジの直ぐ傍まで接近しているという事だろう。
(まずい……、まずいっ!)
もうこうなれば戦いにならないと分かっていても抵抗する為に『式』を放つしかないとリュウジはその覚悟を決める。そして走りながら手を懐に入れて、忍ばせている『式札』に手をやったその時であった。
リュウジは目の前から歩いてきている女性を見て、契約している『式』を呼び出すのに必要な『契約紙帳』の式札からゆっくりとその手を離したかと思うと、にやりと笑みを浮かべるのだった。
リュウジは一度だけ振り返って、追って来ているヒノエ達との距離を確認すると、今考えた咄嗟の行動を実際に試すしかないと判断するのだった。
そして前から歩いてくる髪がボサボサでどこか頼り無さそうに歩いている女性と、すれちがい様にリュウジはその女性の肩に手をやった後、そのまま反対側の手を女性の首元に回して、ヘッドロックをするように引き寄せる。
「と、止まれ! それ以上近寄れば、この女がどうなっても知らんぞ!」
何とリュウジは『妖魔退魔師』の追手から逃れる為に、目の前を歩いていた女性を人質にするという暴挙に出るのであった。それは人間を守る為に存在している筈の『妖魔召士』とは、とても思えぬ愚かな行動であった。
「!」
女性は突然の事で一瞬驚いた表情を浮かべたが、直ぐに状況を察したらしく大声を出したりはせずに黙って俯いていた。
「ちっ、卑怯者が! テメェッ、それでも『妖魔召士』かよ!?」
「へっ! うるせぇよ……。いいか? お前はそこから一歩も動くなよ?」
人質に取った女性の首の頸動脈を左手で押さえながら、右手でヒノエに動くなとばかりに指を差す。
当然ヒノエはリュウジの言葉に素直に従うつもりはなかったが、形だけでも言う通りにしなければ、人質となった女性の命が危ないと判断し、ヒノエ達はリュウジの言葉通りにその場で足を止めるのだった。
「よし……! 後の奴らは今すぐに戻って俺の仲間を追わないように他の連中に伝えてこい。既に捕らえられていたら、解放して俺の元へ向かわせるようにしろ」
人質をとっているリュウジという男は腐っても『妖魔召士』である為、如何にヒノエ達であろうとも、強引に手を出すわけにはいかなかった。何故なら男に『捉術』や『魔瞳』といった術式を人質に使われてしまえば、男を取り押さえる事は出来たとしても人質となった者の命を守れる保証がないからである。
『妖魔召士』と名乗れる者達は『妖魔退魔師』にほとんど備わっていない魔力を持っている。その魔力を活かした『捉術』や『魔瞳』を用いて、高ランクの鬼人級の妖魔すら倒し得る力を持つ者が多く居るのである。
そんな高ランクの妖魔を倒せる力を人質にされているような一般人に使われてしまえば、あっさりとその命を奪えてしまう事だろう。
「貴方は『妖魔召士』なのですか?」
「何?」
ヒノエ達はここはひとまず男に従うフリをしようと考えていたが、行動をとる前に捕まって人質になっていた女性が突然男に口を開いたかと思うと、何と質問を投げかけ始めるのだった。
「あ、ああ、その通りだ。貴様ら一般人の命を守ってやっている『妖魔召士』様だ!」
へへっと笑いながらリュウジは、俯いていた女性の顔を見ようと左手で掴んでいる女性の首を持ち上げて小柄な女性の顔を覗き込むが、どうやら強引に顔を晒させられた女性は成人をまだ迎えているようには見えない少女であった。
「まだ若いな。しかし残念だがお前には、俺がこの町から無事に逃げ切るまでは付き合ってもらうぜ?」
そう言ってリュウジは手を首元から女性の口元の方へ持っていき、そのまま自分の指を少女の唇をなぞるように這わせ始めるのだった。
「てっ、テメェ……! いい加減にしやがれっ!」
ヒノエは男のやっている事が気に入らなかったようで、青筋を浮かべながら苛立ち交じりに声を荒げる。
「おっと! 動くんじゃねぇ、この女がどうなっても知らねぇ……、ぜ?」
リュウジが勝ち誇ったように口を開いて、ヒノエの顔を見ようとした瞬間だった。どこに隠し持っていたのか、いつの間にか少女は小太刀を右手に持っており、そのまま思いきり男の下腹部に刀の刃を逆手に持ったまま突き刺していた。
「うっ……! ぐううっ、き、貴様!」
リュウジは激痛を堪えながら必死に言葉を紡いだかと思うと、突き刺された刃物を取り除こうと、人質にとった女性の手を掴もうとする。
「『妖魔召士』は……。全員殺す、全員殺す、殺す、殺す!」
しかしリュウジが女から刃物を奪おうと手を伸ばすが、その前に少女はぐりぐりと突き刺した刃物を男の腹部に押し込みながら怨嗟の言葉を吐き続ける。
「うげっ……、かっはっ……!」
小太刀を奥まで押し込まれた後に強引に引き戻されたかと思えば、再び何度も何度もその凶器を男に突き入れていく。しかしリュウジもそこで諦めずに何とか薄れていく意識を押し留めて、少女の刃物を必死に握って臓器の損傷を行い続ける刃物の進行を止めた。
――からんっ、からんっと音を立てながら小太刀が地面に音を立てて落ちた。
刃物を払い落したリュウジは、脂汗を大量に流しながらもようやく助かったとばかりに笑みを浮かべ始めて、そのまま少女の顔を見ようとするが、そこでその少女の憎悪に満ちた恐ろしい形相を見てしまい、リュウジは怯んでしまうのだった。
それはまるで親の仇を見るような憎悪を孕んだ色のない目――。
「……死ねよ『妖魔召士』」
そしてその少女は腹を抱えて蹲ろうとしていた男の傷口を思いきり蹴った後に、そのまま落ちていた小太刀を拾い直して、男の首を目掛けて躊躇無しに小太刀を突き入れるのだった。
「!?」
声を出すことも出来ないままリュウジは、そのまま首を刺されて絶命する。
しかし少女はブツブツと何かを言いながら突き刺した小太刀を抜き直した後も、その刃物を出し入れしやすいように自らの足を男の肩口に置いた後に再び、何度も何度も男の首に刺突を繰り返し続けるのだった。
「お、おい! も、もうやめろ!」
『妖魔退魔師衆』や『ヒノエ』組長でさえもその凄惨な光景に見入っていたが、我に返った『ヒノエ』は慌てて少女から血がべったりとついている刃物を取り上げる。
「邪魔をしやがって……」
「うっ……! お、お前……!」
少女はヒノエに小太刀を取り上げられて少しだけ残念そうな顔をヒノエに見せた後に、静かに小声で呟いた。やがて自分が殺害したリュウジを見直して満足そうに、そして本当に嬉しそうな笑みを浮かべ始めるのだった。
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