最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1139話 ファースト・インプレッション

 スオウに連れられて特務の施設に来た時のように、今度は元来た道を通ってヌー達の待つ本部へと戻って行くソフィ達。ここに来た時と違う事は『妖魔退魔師ようまたいまし』の総長と副総長が居る事だろう。

 ソフィがこの世界に来て会ってみたいと考えていた、総長シゲンと副総長ミスズの両名と実際に会ってみて抱いた感想だが、まず副総長のミスズはスオウに聞かされていたよりもずっとだと感じた。

 ここに来る前にスオウから聞かされた副総長ミスズの人物像は、一歩退いて周囲を見渡しながら冷静に周りを判断する人物だと聞いていた。しかし実際にソフィと会ってからは、大事な部下を庇う為に身を乗り出してきて、よく分からない存在である筈のソフィと戦って見せた。

 口上では手を合わせて試すだけだと言ったが、戦いの中でソフィが感じ取ったミスズの印象だが、あの時好機があればソフィを殺めようと考えていた筈である。

 実際に手を合わせた時にソフィは要所要所でその一打、一撃に殺意が感じられていた。ソフィにとってそのミスズの行為は、願ってもない理想の行動であったが、どう見ても腕試しの一戦という様子ではなかった。

 だが、部下が大怪我をしそうになったのを見た後に、その怪我をさせようとしていた相手と戦うのだからミスズのとった行動は至極まともであり、ソフィも理解に及ぶに至っていた。

 ソフィにとってはこの『妖魔退魔師ようまたいまし』組織の副総長ミスズは、で間違いがなかった。

 そして総長シゲンの方だが、詳しい事は何も分からないがその立ち振る舞いから見るに『アレルバレル』の世界で近しいと感じられたのは『九大魔王』の『イリーガル』であった。

 普段は寡黙でやるべき事が決まれば、やり遂げるまでやり通す。そこに一切の妥協は認めないと考えていそうな男である。

 まだソフィにとっては出会ったばかりで、単なる『第一印象ファースト・インプレッション』に過ぎないが、長年他者を見て来たソフィの経験上、そこまで間違ってはいないだろうと判断が出来る様子であった。

 スオウやミスズが口添えをしてくれた事でエヴィを見つけ出す為に、協力をしてくれると約束してくれたシゲンだったが、もしあの時に万が一にも『妖魔山』に同行する事は認められないと口に出されていれば、その言葉を撤回させる為には相当に苦労をさせられていたかもしれないと、それ程までにソフィから見ても厳格で頑固そうだと印象を持ったようである。

 先頭を歩くシゲンの横に居たミスズは少しだけ歩を緩めながら、その背後を歩くスオウの元へ近寄ると小声で彼に話し掛けるのだった。

「スオウ組長。貴方は相当にソフィ殿に肩入れをしている様子だけど、一体この町に彼が来てから何があったのですか?」

 前を向いたままで小声で話すミスズの様子に最初は独り言を言っているのかと、不思議に思ったスオウだが、わざわざ後ろを歩く自分の元に近寄って来た事を踏まえて、これはソフィ殿に聞かせたくないというそう言った内緒話を自分に持ちかけられているのだと理解する。

「別に特別何かあったわけじゃないですよ。ソフィ殿が仲間を想ってここまできた苦労話を聞いて手助けしたいと考えただけです」

「ほう? ヒノエ組長の言葉ではないですが、自分と自分の組以外の人間に興味がない、

「ぐむっ……!」

 ミスズの責めるような言葉を受けたスオウは、奇妙な声をあげながら副総長の顔を見上げる。見上げた視線のその先にある、ミスズの顔は彼を見て笑っていた。

「はいはい、白状しますよっと。ソフィ殿に色々と褒めて貰えるような言葉を貰って、だけです」

(ああ、やっぱりそう言う事ね)

 少し話をしにくそうにそう口にするスオウに、ミスズは直ぐに納得したような顔をする。スオウ組長は自己顕示欲が人一倍強い部下である。しかし元からそうだったわけではなく、彼が『一組』の組長であった頃は特別そういう感情を表に出していたわけではない。

 だがヒノエ組長が組織に多大なる貢献を果たして、十数年ぶりに『一組』の組長が入れ替わり、彼が『二組』の組長へとなった後くらいから今のように他者から褒めて貰えると人一倍喜ぶようになった。

 スオウが表立って口にした事はないが、どうやら彼はヒノエに抜かれた事で、大きく自信を失ってしまったのだろうとミスズは推測をしている。

 根っからのエリート気質であった彼は、あまり挫折を経験した事はなかったのだろう。しかし後から来た者に追い抜かれるという経験をした事で彼の自尊心を大きく傷つけてしまうに至ってしまった。どうしていいか分からずに、しかし大きな矜持が邪魔をして人に相談が出来ない彼は、それでも自分の中で何かしらの決着をつけたのだろうが、その結果として彼は人に褒められると必要以上に喜び、人に貶されると信じられない程に激昂するようになった。

 特に今のヒノエ組長との関係性を見れば分かる事だが、彼は冗談抜きで

 傍目から見ればヒノエに煽るような言葉を吐かれたスオウが、ヒノエに言い返したりして軽妙な寸劇を繰り広げているように見えるが、彼は心の底では本当に嫌がっているのだとミスズは理解している。

 しかしそこでスオウを庇うような言葉を口にすれば、逆にそのスオウの自尊心が傷つくだろうと理解するミスズは、喧嘩両成敗という形を取って常にスオウとヒノエの両名を怒るようにしているのだった。

 ミスズはスオウを『妖魔退魔師ようまたいまし』の立派な隊士だと認めてはいるが、少しばかり精神的に脆い面があるという事をも理解している。

 他者に褒められて喜ぶスオウを悪く言うつもりはないが、組織の人間以外の者に祭り上げられたスオウがその褒める相手に必要以上に肩入れをして利用されないかを懸念している程であった。

 当初こそ本当にナギリを庇う為に行われている戦闘に割って入ったミスズだが、途中からスオウがソフィを庇おうとする素振りを見た事でそれ以上にミスズは踏み込んだ。

 ソフィとの戦いを行う前、途中から冷静さを取り戻した後もミスズは彼に試したい事があると言って試合を継続させた理由の中の一つが、このスオウを体よく利用しようとしていないか、それを見極める為にミスズが行った大事な組織の仲間のスオウの為の観察の意味が含まれただったのである。

 途中からのミスズはその気持ち以上に『ソフィ』という存在が侮れない強者だと判断して、私情が大きくなってしまったがスオウの事を考える気持ちは忘れてはいなかった。

 結果としてソフィ殿はスオウを利用して『妖魔退魔師ようまたいまし』に、取り入ろうとする輩ではないとミスズは認めた為に彼女は、ソフィを確かめるような行動を行った個人的な罪滅ぼしを行うつもりで、彼の仲間を見つける協力をしてはどうだろうかとシゲンに打診したのであった。

 ミスズはどんな相手であろうとも、警戒心を持って接する事を忘れない。たとえ相手がのような相手であろうとも。しかしそんな彼女が本気で探った相手をと認めた後はその疑ってかかった行為以上に、相手を信用する人間であった。

 大穴を開けた事に対して謝罪を行うソフィに、その気持ちが本心からの言葉だとミスズは感じ取った為に』、ソフィを認めたようであった。

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