最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1137話 懐かしいやり取り

「スオウ殿が説明を行ってくれた通り、我らは大事な仲間を探しにきたのだ。その我の仲間はどうやら今は『妖魔召士ようましょうし』である『イダラマ』とかいう男と行動しておるらしくてな。出来ればそのイダラマとかいう者の所へ向かいたいのだが、何やらイダラマが向かった先の『妖魔山』とやらは、お主らや『妖魔召士ようましょうし』達の許可が居るとそうスオウ殿に聞いたものでな。それでお主らが来るまでここで待たせてもらっていたのだ」

(このソフィ殿は、本当に堂々としている。強さも申し分ない事は戦っていて分かったけどそれ以上にこの『妖魔退魔師ようまたいまし』の本部でシゲン総長に私……は、まぁ置いといて、最高幹部に囲まれているこの状態で、聞かれた以上の事を正確に伝えてくる。これまでどんな環境に居たのかとても気になるわね)

 シゲンに聞かれた質問や、それ以上の正確な現状を伝えるソフィに腕を組みながらシゲンは頷きを見せて、そしてミスズもじっくりとソフィを観察するような視線を送り続けてながら心の中でそう呟いていた。

殿か。最近は何かと彼の話題が色々な場所で出てくるものだな」

 偶然なのかもしれないが、イダラマという男の名がこのように頻繁に、それも重要な局面で出る辺りに今後何かあるかもしれないとシゲンは考え耽る。

「ゲンロク殿やエイジ殿がどう仰られるか分かりませんが、彼らも『妖魔山』への同行を許可してみるというのはどうでしょうか?」

「ほう?」

 突然の副総長ミスズの提案に、シゲンは少し感心したような声を漏らした。

「ソフィ殿以外のお連れの方の事は詳しくは存じ上げませんが、ソフィ殿なら間違いなく、我々と『妖魔山』に入っても問題はないかと思われます」

「ふむ」

 どうやらもう先程ソフィと戦っていた時のミスズではなく、今は普段通りの眼鏡を掛けている時の冷静なミスズに戻ったらしい。

 そのミスズの提案を受けたシゲンは、少しだけ考える素振りをも見せる。元々シゲンもミスズも『妖魔山』に関してゲンロク達『妖魔召士ようましょうし』のように、関係者以外は絶対に山へは入る事を禁ずるというつもりはなかった。自分の身を守れるだけの力があるのならば、自己責任という形ではあるが、同行をする事に否定的ではない。

 ただ、シゲンが考えている事は『妖魔退魔師ようまたいまし』側の問題の事ではなく『妖魔召士ようましょうし』側の問題の事であり、あの頑なに妖魔山の管理権を移す事に否定的であったエイジ達が、また新たに山へ入る時に組織とは関係がない同行者が増えると伝えたら、また彼らも納得しないだろうなとそう考えたのである。

「総長、俺もソフィ殿に協力をしたいと考えております。彼らは大事な仲間を助ける為にこうして、ここまで辛い旅をなされてきたのです。決して駄目だという明確な理由がないのでしたら、ここは彼らの力になってあげるというのはいかがでしょうか」

「スオウ殿……」

 ソフィはここに来てから何度も助力をしてくれているスオウに当然嬉しい気持ちはあったが、少し申し訳なさを感じ始めていた。そしてそれとは別に、こうまで自分達の為に動いてくれるスオウに対して、ソフィもまた仲間意識が芽生えつつあるのであった。

「おいおい……。あのチビ助が他人の為に動こうとしている姿を見るなんて信じられねぇよ、あたしは夢でも見てるのかねぇ?」

 ソフィがスオウに感謝の気持ちを抱いている横で、長い黒髪が印象的で背の高い女性『妖魔退魔師ようまたいまし』組織の『一組』組長の『ヒノエ』が、再びスオウを煽るように言葉を告げるのであった。

「んだよ、クソババァ! なんか文句あんのかよ!」

「いーやぁ? アンタみたいな自分勝手なクソチビがようやく、少しは成長を見せたのだと感激しているんだよ。大きくなったわねぇスオウちゃん、ヨシヨシ」

 そう言って身長差のあるヒノエは少しだけ屈むように腰を曲げた後に、スオウの頭に手を置いて撫でまわすのだった。

「く、くぅっ……! く、クソババァ!!」

 顔を真っ赤にしながらスオウは頭に乗せられたヒノエの手を払いのけると、その場で跳躍をしながらヒノエの顔を蹴り飛ばそうと足を振り上げた。

「おっ……? っとと!」

 全身がバネのように柔らかいスオウの足蹴りが自分に襲い掛かって来るのを見て、流石のヒノエも大きく身体をのけ反らせて必要以上な回避をしてみせる。

 普段であればここまで怒らないスオウだが、ソフィの前だという事もあって、いつも以上に本気でヒノエに対して怒って見せるのだった。

「貴方達! またそうやって……!!」

 そしてまたいつものように、副総長のミスズが二人を窘めるのだった。

「クックック、どこの世界も似たようなものなのだな」

 ソフィはどこか遠い目をしながらそう告げると、スオウとヒノエのやり取りを見て『アレルバレル』の世界や『リラリオ』の世界の者達の事を思い出して、懐かしそうにそしてどこか優しい目で見つめるのであった。

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