最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1130話 勘違いと、見当違いの末に

「はぁっ、もういいですスオウ組長。貴方の話は後で聞きますから、今はひとまずそこを退きなさい」

 もちろんミスズは部下を傷つけられたに対する色々な思いもあったが、彼女はこれまでの考えを捨てて直ぐに頭を切り替える事が出来る人間のようで、ナギリの事を除いた上で先程のソフィとの一戦で見逃せない何かがあり、それを確かめる為にソフィとの戦闘を継続しようとそう告げたのだが、説明も無しにそんなミスズの考えが分かる筈もなく、自分がソフィをナギリに引き合わせた事で、腕試しの一戦の筈が何やら勘違いをしている副総長にソフィが殺されてしまうかもしれないと考えてしまい、スオウは大事な客人にして、自分が気に入っているソフィを守ろうと決意をしてこの場は自分が何とかして収めようと、のであった。

「スオウ組長? 私はそこを退きなさいとそう言った筈なのですが……。何故そこで?」

「すまないが副総長『ミスズ』殿。先程も言ったが彼は俺の大事な客人だ。勘違いで手を出されて彼をここで死なせるような事があれば武士の名折れだ。たとえ貴方に退けと言われても……。そして『組織』を辞めさせられる事になったとしても、

 勘違いが勘違いを生んでしまい、話は見当違いの方向へ進んでいってしまうのだった。

「ですからその話はもういいですと私は伝えた筈でしょう? 少し試したい事があるだけです。だからそこを退きなさい!」

「……」

「いい加減にしなさいよ……? スオウ組長」

 無言を貫いたまま退く様子を見せないスオウを見て、ミスズは小さく溜息を吐いた後に眼光鋭く射貫くような視線を向けた。

 ――決意と覚悟を持って刀を構えるスオウ。
 その姿は先程まであたふたとしながら問答を行っていたスオウではなく『退』の『』である『。自分の組員を命掛けで守ろうとしている時のスオウ組長である。こうなったスオウ組長に何を言ったところで、決して退く事はしないだろう。

 そして一触即発となった空気の中――。
 ソフィはゆっくりとスオウの背後から、ぽんと肩に手を置いて口を開いた。

「よく分からぬ事になってしまったが。すまぬなスオウ殿、我を庇おうとしてくれた事には感謝する。だが、どうやらあやつは我と戦いを続けたい様子だし、我もあやつと戦ってみたいと考えておる。それに同じ組織の幹部であるお主がミスズ殿と戦う事になれば、今後何もかとお主は心証が悪くなるだろう。我の事はいいから、ここは下がってくれないか」

「しかしソフィ殿、副総長はああ言っているけれど、副総長はナギリを傷つけられた事で相当に頭にきている筈だよ。ここで戦いを続ける事を選べば、下手をすれば殺されるかもしれないよ?」

「クックック! それならば。だからここは我に任せてもらえないかな、殿

 殺されるかもしれないと伝えた上で、何も心配はいらないと告げたソフィにスオウは悩むような表情を浮かべたが、ソフィが力の差を理解出来ないまさに愚鈍な輩では無いと知っているスオウは、直ぐに理解を示して頷きを見せるのだった。

「分かったよ、ソフィ殿……」

 どうやら彼の中でようやく何か納得が行ったのだろう。構えていた刀を下ろしながらソフィの言葉に素直に従うのだった。

「だけどソフィ殿が危ないと感じたら直ぐに、俺は助けに入るからね?」

 そうソフィに言い残してスオウは、器用に刀をクルクルと回しながら腰鞘に納めて下がるのだった。

「ようやく分かってくれましたか。貴方には後で例の件で話をしたい事もありますから、今は大人しく下がっていてください」

 視線をソフィに向けたままで『ミスズ』が『スオウ』にそう告げると、口を尖らせながらも『スオウ』組長は、副総長『ミスズ』に素直に頷くのだった。

「さて、お主が副総長ミスズ殿で間違いはないな?」

「ええ、その通りだけど……。貴方は一体どちら様なのかしら?」

「クックック……。我は名をソフィという。そして人間ではなく『』だ。このままゆっくりと腰を据えて互いの事を話すのも悪くはないが、我はお主と本気で戦ってみたいと思っておる」

「ええ、それは構わないわよソフィさん? 私もさっきの一戦で貴方に試したい事がありますし、その代わり私が勝てば『ナギリ』の事も詳しく説明してくださいね?」

「うむ、それは勿論当然の事だ。では少し我と手合わせ願おうかミスズ殿」

 未だに頭の切り替えが行えていないスオウとは違い、すでにミスズはナギリを救えた事でどうやら彼女の中で割り切る事が出来たようで、今度は先程のソフィとの一戦で気に掛かった事を解消しようと、そちらの方に意識を強引に持っていったようだ。

 ――こうしてよく分からない形でソフィとミスズは、こうして初対面で話し合うに至ったが、まだお互いの事を良く分からないままで、手合わせを行う事になるのであった。

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