第1093話　死の結界と、魔力を操る者達

　旅籠町にある屯所に仲間を回収する為に現れた『妖魔召士ようましょうし』達だったが、あっさりと片がつくだろうと考えていた『予備群よびぐん』達を相手に苦戦を強いられてしまっている状況である。これが妖魔ランクで表すところのランク『３』程度の『予備群よびぐん』が相手であれば、如何に『魔瞳まどう』以外の術が封じられた現状であっても、そこまで苦戦はする事はなかったはずである。

　しかし『魔力』に秀でた『妖魔召士ようましょうし』達は、自分達の武器であるその魔力を使えずに居る状態で『妖魔退魔師ようまたいまし』組織の『予備群』と『妖魔退魔師ようまたいまし』の間の力量を持つ『退魔師衆たいまししゅう』に匹敵する程の剣士シグレに襲い掛かられているのである。余りにも『妖魔召士ようましょうし』達には分が悪すぎるのであった。

（他の連中も数人掛かりで予備群に襲われていて、こちらを加勢する余裕はないか。余りにも多勢に無勢すぎる。一度外に出てヒュウガ様に伝えに行きたいところだが、この女剣士に背後を見せて走りきる自信も余裕もない……っ！）

　今もこうして何とか少量の魔力を使いつつ『魔瞳まどう』のみを使ってシグレの動きを誘導させて躱す事には成功しているが、誘導をしているにも拘わらずに予測で何とか避けているだけに他ならない。シグレの剣速度が凄すぎて、誘導しようとも目測では躱しきれないのである。

　シグレと前回戦ったチアキに至っては早々に避けることを諦めて、自身の片腕を犠牲にして『英鬼えいき』を使役したくらいなのだ。彼がこうして避けていられるだけでも相当に凄い事なのであった。

（しかし何故『魔力』が上手く操れぬのか分からぬ。詳しくこの場を調べなければ、対策の取りようが無いが、こやつら『予備群よびぐん』程度の存在が『妖魔召士ようましょうし』に匹敵する程の『結界』を張れるとは到底思えぬ）

　シグレの攻撃を躱しながらもヒュウガの取り巻きの『妖魔召士ようましょうし』は、何故『行ぎょう』も『捉術そくじゅつ』も使えない程に『魔力』の消耗が激しいのかと不審を抱きながら戦い続けるのであった。

　彼らが疑問に思うのも無理はない。この建物に入るまでは自身の魔力を操る事に何も違和感を感じなかった。それはつまり彼ら『妖魔召士ようましょうし』達が居たゲンロクの里に張ってあるような、外からやってくる妖魔を町の中に入れないようにするといったそんな目的の『結界』ではないと言う事である。

　――だが種類は違うにしてもこの建物内には間違いなく、大規模な影響を及ぼす結界が張られている筈である。

　シグレと相対している『妖魔召士ようましょうし』の彼は、回避に力を注ぎながらもシグレの動きを見ながら、どう考えてもこの建物の中の結界は、自分達にしか影響が出ていない事を『妖魔召士ようましょうし』の彼は悟り、魔力に関する結界なのだろうと、そうアタリをつけ始めるのであった。

　彼の考えていた通り、この屯所の建物内にはある結界が張られている。その結界とは何を隠そうソフィが、地下に捕らえられている二人の『妖魔召士ようましょうし』達の『魔力』を使った術式などを封じる為に張った物であった。

　『妖魔召士ようましょうし』の彼は直ぐにこの『結界』の効力が魔力に関するモノだと気づけたが、当然その全貌が理解出来たわけではない。

　あくまで『予備群よびぐん』の剣士達が建物内で平常通りに動けていて、自分達『妖魔召士ようましょうし』が魔力を使えない事からそうアタリをつけただけである為、この結界の真の恐ろしさには気づけてはいないのであった。

　――そしてそれはこの場に居る『妖魔召士ようましょうし』にとっては、非常に救われている事だともいえるだろう。

　もし彼ら『妖魔召士ようましょうし』が『捉術そくじゅつ』という相・手・に・直・接・影・響・を・与・え・る・類・の・術・で・は・な・く・『アレルバレル』の世界や『リラリオ』の世界のように『魔法』を使う者達であったならば、ソフィが張ったこの結界の真・の・恐・ろ・し・さ・が直ぐに理解出来たであろうからだ。

　この結界内では『理ことわり』を用いた『魔法』が展開された場合、それら全ての『理ことわり』に分け隔てなく無力化されて、更にはその術者の魔力ごと全てを吸収されてしまう。

　『妖魔召士ようましょうし』達が別世界に居る種族である魔族や、別世界の魔法使いと呼ばれる人間達と同じ『魔力』を使う者達であっても、この世界には精霊は居らずまた『理ことわり』を生み出すフルーフやエルシスのような、類・ま・れ・な・る・存・在・が居たわけでもない。

　そしてそのおかげでこの世界では『魔法』という概念はなく、扱える者が居なかったおかげで、この場に居る『妖魔召士ようましょうし』達は『魔力』を扱う者にとっての『死の結界』内に居るという事に気づく事もなく、こうして平常心を保てたままで戦う事が出来ているのであった。

　――だが、彼らが魔法を使えない事で救われた事はそんな事ではない。

　もし彼らが『魔法』を扱える者達であって、この場で発動させていたならば、その『魔法』の規模や、術者の存在と魔力の種類など、この『死の結界』と呼ばれる『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』を通じて詠唱者である最強の大魔王ソフィが彼らの存在を察知し、吸収した『魔力』から全ての情報を得られた状態でこの場に姿を現す事になっていたであろう。

　彼ら『妖魔召士ようましょうし』が『魔力』を使う人間であっても、一定の範囲効力のある『魔法』が使えなかったおかげで彼らにとっては最・悪・の・事・態・だ・け・は・、こうして避けられる結果となったのであった。