最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1063話 組織の衰退と、新たな発足

「駄目です。里の中を隈なく探しましたが、ヒュウガ殿達の姿が見当たりません」

 ゲンロクに吹き飛ばされたヒュウガの身柄を取り押さえるようにと、指示された里の『妖魔召士ようましょうし』達は、忽然こつぜんと姿を消したヒュウガの姿を見つける事が出来ず、数人の『妖魔召士ようましょうし』達が現在も捜索にあたっているが、最初にこの屋敷に詰めかけたゲンロク側の『妖魔召士ようましょうし』達数人は、屋敷に戻ってゲンロクにそう報告を告げるのであった。

「そうか……。もう他の者達にも里の捜索を切り上げさせろ。聡いヒュウガの事だ。真っ向から戦った事で、直接は敵わないと理解して、もうこの場を去ったのであろうよ」

「し、しかしゲンロク様! ヒュウガ殿だけではなく、の連中の姿もありませんよ?」

「な、何?」

 その報告を受けて屋敷の外を出たゲンロクは、里に居る筈の『改革派』の『妖魔召士ようましょうし』の同胞達の姿を自ら足を動かして探してまわるが、確かに常にヒュウガと行動を重ねていた者達の姿が見えない。

 現体制になり『改革派』が集まった『妖魔召士ようましょうし』組織に属する者達の凡そ半数に届くかという程の者達の姿が、ゲンロクの元から去っているのであった。

 前時代の事ではあるが『妖魔退魔師ようまたいまし』の総勢の数倍近い人数が集まり、一大組織として最大勢力を誇った『妖魔召士ようましょうし』組織だが、前時代の長『シギン』や『サイヨウ』そして『エイジ』も去ってしまい、現体制である『ゲンロク』の代になった事で『守旧派』と『改革派』で割れてしまい、

 更に本日になってその『改革派』から『ゲンロク』派と『ヒュウガ』派に分かれてしまった。
 『妖魔退魔師ようまたいまし』の下部組織である『予備群よびぐん』を襲い、これからもしかしたら『妖魔退魔師ようまたいまし』側と戦争もあるかもしれないと里の『妖魔召士ようましょうし』の間でも囁かれていたが、こんな時に限って更に『妖魔召士ようましょうし』側の組織が分散されてしまったのである。

「な、何という事だ……」

 ゲンロクは里の中を見渡すが、確かに同胞であった者達の顔ぶれが居なくなっており、今回の事で里を去って行ったのだと実感し始める。

 ……
 ……
 ……

「ゲンロクの奴め! まさかまだあのような『捉術そくじゅつ』の存在を隠し持っていたとは……」

 『魔瞳まどう』の魔力圧は確かに殺傷能力は低いものではあるが、それでも対応をせずに『捉術そくじゅつ』をごり押すような真似をすれば、抵抗出来ずにそのまま相手になすがままにやられるものなのである。

 完全な有利をとった状態でまさか負けるとは思っていなかったヒュウガ。しかしあの時彼が放った魔力圧を吸収した後に跳ね返して来たのを見て、新たな『捉術そくじゅつ』の存在を知った事で、このままでは準備不足だと考えたヒュウガは、外へと投げ出された後、今は正面きってゲンロクと戦って勝つ事は無理だと即座に見切りをつけたのであった。

 そして事前に連絡しておいた仲間達と外で合流を果たして、自分について来る事を選んだ『妖魔召士ようましょうし』達を引き連れて、ゲンロクの元から去る決意を固めた後、里を出て結界のある森を抜けて南下するヒュウガ達であった。

 ひとまずの目的は『キクゾウ』の『式』の報告にあった件の旅籠町へ向かい、そこで『予備群よびぐん』に捕らえられた『キネツグ』と『チアキ』の回収をした後ヒュウガは、そのまま旅籠町の近くのケイノトに居る『サテツ』と『イツキ』を本格的に『ヒュウガ派』へと迎え入れて『退魔組』ごと支配下におこうと考えている。

 元々サテツ達を通じて『退魔組』とは裏で繋がっていたヒュウガだが『妖魔召士ようましょうし』組織の長であるゲンロクと、明確に敵対関係になってしまった以上、もう当初の目的であった『妖魔召士ようましょうし』の組織の長を目指すのではなく、最初から自分が代表となる『新組織』の設立を考え始めるのであった。

 それはつまり前時代までの『妖魔召士ようましょうし』から変革を遂げつつあった、ゲンロクの『妖魔召士ようましょうし』組織から更に、ヒュウガが長とする『妖魔召士ようましょうし』の派生組織である。

 ゲンロクの里を出てヒュウガについてきた者達の中には、本当にこれで良かったのかと悩み考える者も少なからず居たが、あのままゲンロクを長とする組織に居たとしても、すでにその長のゲンロクが隠居のような生活を続けている以上、改革を目指し続けている彼ら『改革派』の『妖魔召士ようましょうし』達にとっては望むべき未来が現実になる可能性は低いと考え直して、本当にこれでよかったのだと無理矢理に自分を納得させて、後ろ髪を引かれる思いを抱えながらも『ヒュウガ』達と里を出る事を選ぶのであった。

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