最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第1062話 恐ろしき捉術、返魔鏡面掌

 当代の『妖魔召士ようましょうし』組織のNo.2の座に居るヒュウガの膨大な魔力が注ぎ込まれた『魔瞳まどう』である『青い目ブルー・アイ』によって、恐るべき速度の持った魔力の波がゲンロクに襲い掛かって来る。

 これ程の魔力圧が一度に放たれてしまえば、被弾覚悟で軽減を目的とした『青い目ブルー・アイ』で相殺狙いをするのが『妖魔召士ようましょうし』達の戦術の基本である。

 それも十分に分かっている上で『ヒュウガ』は牽制のつもりで放ったのだが、ゲンロクはそのヒュウガの『魔瞳まどう』の一撃を相殺にもっていかず、魔力を『捉術そくじゅつ』を使う事に回してしまったのだ。

 この場面では如何なる戦術を考えている者でも『妖魔召士ようましょうし』であれば、それが誰であっても防御に転じなければいけない場面である。

 それが分からないゲンロクでは無いだろうにとばかりに、この場に居るヒュウガ派の『妖魔召士ようましょうし』達の誰もが取るべき選択肢を取り違えたゲンロクに、

 ――しかし、取るべき選択肢が間違っていると判断した『妖魔召士ようましょうし』達は、この後のゲンロクの行う行動を目撃した事で、先に何かあると気づいたヒュウガと同じく戦慄する事になるのであった。

 『魔瞳まどう』の『青い目ブルー・アイ』を経由して展開されたゲンロクの『魔力』は、彼の両手に集約するかの如く纏わる。

 ゲンロクは自分の『捉術そくじゅつ』が、上手く成功したのを確認した後に視線をヒュウガの魔力圧に向ける。

 ヒュウガが放った魔力圧が真っすぐに向かってきていたが、ゲンロクは

 そしてその魔力圧を受け止めるかの如く、抑え込もうと左右から挟みこむようにして捉えると同時、ヒュウガの魔力圧は、

 恐るべき速度で放たれた魔力圧は何事もなかったかのように消え失せたかと思うと、再びゲンロクの青く輝く目の光が強まり、再び『魔瞳まどう』を用いた魔力を展開する。

 ――、『返魔鏡面掌へんまきょうめんしょう』。

 まるで彼の目と共鳴するかの如く再び掌が青く輝き始めたかと思うと、その両手からヒュウガが放った魔力圧が朧気おぼろげにだが、再現されたかの如く再び姿を現し始めて、そしてそっくりそのまま向かってきた時と同じ速度を維持されたまま跳ね返されていく。

「なっ……!?」

 ゲンロクに向けて放った筈のヒュウガの魔力圧が、キクゾウとヒュウガに向けて猛スピードで跳ね返ってくる。

「ぐぉっ……! ひゅ、ヒュウガ様!」

 どんっという衝撃音と共にキクゾウの張った結界が吹き飛ばされて、キクゾウの身体がその後ろに居たヒュウガを巻き込んだ。どうやらキクゾウの張った結界では、ヒュウガの魔力圧を抑えきれなかったようで、結界は彼らの命を救う代わりに消失させられてしまったようだ。

 すでにヒュウガは自身が放った魔力圧がゲンロクを襲うと信じて疑わず、続けて隙の大きな一撃必殺といえる『捉術そくじゅつ』の『動殺是決どうさつぜけつ』を放とうと準備を行っていた為、まさか自分の魔力がそっくりそのまま跳ね返されるとは夢にも思わず、対処など何もする事が出来ぬまま巻き込まれて屋敷の背後の壁へと吹き飛ばされていく。

 ゲンロクの居た部屋の壁はヒュウガの魔力圧によってそのまま貫いていき、廊下に出た後も更に勢いは衰えないまま、二階の反対側の壁を突き破ってそのまま外へと追い出されていった。

「ひゅ、ヒュウガ様!?」

 集まってきていたヒュウガ派の『妖魔召士ようましょうし』達は、無力化させていたゲンロク側の『妖魔召士ようましょうし』達を無視して、ヒュウガ達の安否を確認する為に急いで廊下の穴から飛び降りて行った。

「い、一体何だったのだ……。はっ! ご無事ですかゲンロク様!?」

 ヒュウガ派の『妖魔召士ようましょうし』達の『捉術』によって、視界を作られた虚偽情報に支配されていた『妖魔召士ようましょうし』達が、現実をしっかりとその両目に映す事が出来た後、自分達の長であるゲンロクをその目で捉える事が出来て、慌ててゲンロクの元へと走って来るのであった。

「ワシの事はいい、お前達は早くヒュウガ達を追え!」

「えっ!? は、はいっ……!!」

 ゲンロクの安否を確かめようとしていた『妖魔召士ようましょうし』達は、恐ろしい剣幕のゲンロクに怒号を発せられて慌てて先程の者達が飛び降りた穴から、同じように飛び降りていくのであった。

「あそこまで奴が吹き飛んだという事はヒュウガの放った魔力は、想像以上の魔力だったという事だ……」

 それはつまり冗談でも何でも無く、ヒュウガは自分を殺そうとしていたという事の証左であった。
 やがてその場に残されたゲンロクは、自分の掌を確かめた後に自分以外誰も居ない部屋の中で、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるのだった。

 ……
 ……
 ……

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