最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第1054話 妖魔山の管理問題
ゲンロクの里から帰還したヒノエ達は、直ぐに『妖魔召士』との会合が上手く行った事を総長のシゲンに報告し終えた。これでイダラマが『妖魔退魔師』側に持ち込んだ話が現実的な物になるのに、一歩近づいた事だろう。
そしてそのイダラマ達は『妖魔退魔師』側の客分として扱われており『妖魔退魔師』が懇意にしているサカダイの宿場に居を据えてもらっている。
今後の事を話す為に『ヒノエ』からの報告を受けた総長シゲンは、副総長ミスズを本部の会議室に呼び出したのであった。
「総長、今回の一件の事なのですが、本当にイダラマ殿の話を優先して良かったのでしょうか」
「ヒノエが言っていた奴らが提示した条件の事か」
「うちの管理している土地に入り込んだ一件だけで『コウヒョウ』の利益と護衛料の上乗せは、相当に大きい益の話です。余計な問題を増やし兼ねない『妖魔山』の管理権をうちで預かるよりもそちらの条件を選んだ方が良かったのではないでしょうか?」
確かに今後『妖魔山』でトラブルや問題が起きた際に、いちいち『妖魔召士』側に報告する必要はなく『妖魔退魔師』側で事の鎮圧にあたれるようになる事は動きやすくなるという意味合いでは間違いない。
しかしこの数年はランク『8』以上の妖魔が山から降りて来て、災いを引き起こすような真似はしていない。つまりはこちらから何もしなければ『妖魔山』はそこまで危険はない筈だと双方の組織も考えているのである。
コウヒョウの条件を蹴ってまで『妖魔山』の管理権を得る事にミスズは、魅力を感じる事が出来なかった。それにあのイダラマという男をミスズは、信用ならない人間だと考えているのであった。
(突然やってきてこれまで何年、何十年と山の管理を『妖魔召士』側でやって来ていたのに、何故今になってうちで預かって欲しいと告げて来たのか、その理由が分からない)
先日の話し合いの場でイダラマが言っていた『妖魔召士』同士の対立が起きそうな事により、山の管理が十分では無くなるだろうという話は、決して彼の本音では無いだろうとミスズは考えていたのであった。
(私達『妖魔退魔師』達を何かに利用しようとしているのは間違いはない。しかし何を企んでいるのかが分からない以上は対策の取りようがないのよね……)
副総長ミスズはイダラマが何を目的に動いているのか、それを探り当てたいとこの時から考え始めるのであった。
(ひとまずは今回のヒノエ組長の一件で『妖魔召士』側は『妖魔山』の管理をうちに任せようと考え始めている事だろう。今後の詰め方次第ではあるが、実際に山の管理権を得た後にイダラマ殿がどういった反応を示して来るのか。そこが鍵となるでしょうね)
心の中でそう結論を出しているミスズは、自分に総長から視線が向けられているのに気づいた。
「あ、す、すいません……。少し考え事をしてしまっていて……!」
シゲンが何も喋っていなかったという事には気づいているが、総長の前だというのに心ここに在らずという態度を取ってしまった事をミスズはシゲンに詫びるのであった。
「気にするな。お前が組織の事を想ってくれている事はよく知っている。あのイダラマ殿の事を考えていたのだろう?」
「は、はい……。おっしゃる通りです」
考えていた事を言い当てられてしまったミスズは素直に白状するように頷いた。
「いいかミスズ。これは『コウヒョウ』の条件などより『妖魔山』の管理権を得る事は、俺達にとっては最大の好機でもあるのだ」
「え?」
どういう意図か分からずミスズは、口を挟まずにシゲンに視線を送る。
「お前も知っての通り、各地に蔓延っている妖魔達は、元々は全て妖魔山に居た妖魔達が原因だ」
このノックスの世界に妖魔が出現し始めのは『妖魔退魔師』や『妖魔召士』などがまだ存在しなかったこの世界の古き時代に、妖魔山から妖魔が生まれ落ちた事が原因だとされている。
「そして俺達の所属する『妖魔退魔師』の組織や『妖魔召士』の組織が出来てからこれまでの歴史上で、妖魔達の総本山である妖魔山を完璧に攻略して制圧した事はない」
――それはかつてこの世界の平和を守る為に、妖魔山に蔓延る妖魔達を完全に滅ぼそうとした両組織が結託して攻め込んだ『妖魔山制圧作戦』の事であった。
その『妖魔山制圧作戦』が失敗に終わった後、更にその後の数十年の間は何度か『妖魔山』を制圧しようと企んだ組織の人間が居たようだが、その全てが失敗に終わってしまった。
『妖魔退魔師』や『妖魔召士』達も寿命というものがあり、個々の力や魔力が強い者達が居る時代もあれば反対に弱い時代も存在した。
そしてその時代の者達によって、ランク『9』以上の妖魔が居る区域は『妖魔退魔師』と『妖魔召士』の両組織の間で禁止区域とされて入る事は許されなくなった。
その禁止と決めた両組織の時代が長かった為『妖魔山』のランク『9』以上の区域に入る事は、禁忌の行いと認識されていった。
その所為で今日まで妖魔山の高ランクの居る場所へは立ち入らず、また入るという事を考える事すら、許されなくなってしまい、現在でもランク『9』の妖魔ですら『妖狐』と見た目が『鬼人』の妖魔が居る事しか分かってはおらず、ランク『10』の妖魔に至ってはどんな生物が居るのかすら分かってはいないと表向きはされているのである。
しかし当代の『妖魔退魔師』組織の長『シゲン』は、前時代に活躍した『妖魔退魔師』や『妖魔召士』の一握りの人間が、裏で妖魔山の禁止区域に入り込んだのを知っている。
その詳細や結果は当然知らされてはいないが、ランク『9』の妖魔すら討伐されたという話が表に出てこない以上、結局は失敗に終わったのだろう。
だがシゲンがその事を知った時、いつかは自分もその場所に入りたいと、そしてランク『9』以上の妖魔と戦ってみたいと考えていたのであった。
(過去に『妖魔退魔師』と『妖魔召士』の誰もがランク『10』の妖魔を倒せなかったというのであれば、俺達の力でどこまで通じるか、是非試してみたいものだ……)
前時代では『妖魔召士』が、歴代最高の戦力達と言われていたが、現代では逆に『シゲン』や『ミスズ』に最高幹部達が居る『妖魔退魔師』が、自他共に歴代最強の時代と思っている。
そしてそんな彼らの時代が来たと同時に『妖魔山』の管理を得る好機が舞い込んできたのである。
『妖魔退魔師』側が『妖魔山』の管理権を得てしまえば、禁式区域の問題など如何様にも捻じ曲げる事も容易くなる。
シゲンはミスズにこの事を話しながら、静かに心の中で闘志を燃やしているのであった。
そしてそのイダラマ達は『妖魔退魔師』側の客分として扱われており『妖魔退魔師』が懇意にしているサカダイの宿場に居を据えてもらっている。
今後の事を話す為に『ヒノエ』からの報告を受けた総長シゲンは、副総長ミスズを本部の会議室に呼び出したのであった。
「総長、今回の一件の事なのですが、本当にイダラマ殿の話を優先して良かったのでしょうか」
「ヒノエが言っていた奴らが提示した条件の事か」
「うちの管理している土地に入り込んだ一件だけで『コウヒョウ』の利益と護衛料の上乗せは、相当に大きい益の話です。余計な問題を増やし兼ねない『妖魔山』の管理権をうちで預かるよりもそちらの条件を選んだ方が良かったのではないでしょうか?」
確かに今後『妖魔山』でトラブルや問題が起きた際に、いちいち『妖魔召士』側に報告する必要はなく『妖魔退魔師』側で事の鎮圧にあたれるようになる事は動きやすくなるという意味合いでは間違いない。
しかしこの数年はランク『8』以上の妖魔が山から降りて来て、災いを引き起こすような真似はしていない。つまりはこちらから何もしなければ『妖魔山』はそこまで危険はない筈だと双方の組織も考えているのである。
コウヒョウの条件を蹴ってまで『妖魔山』の管理権を得る事にミスズは、魅力を感じる事が出来なかった。それにあのイダラマという男をミスズは、信用ならない人間だと考えているのであった。
(突然やってきてこれまで何年、何十年と山の管理を『妖魔召士』側でやって来ていたのに、何故今になってうちで預かって欲しいと告げて来たのか、その理由が分からない)
先日の話し合いの場でイダラマが言っていた『妖魔召士』同士の対立が起きそうな事により、山の管理が十分では無くなるだろうという話は、決して彼の本音では無いだろうとミスズは考えていたのであった。
(私達『妖魔退魔師』達を何かに利用しようとしているのは間違いはない。しかし何を企んでいるのかが分からない以上は対策の取りようがないのよね……)
副総長ミスズはイダラマが何を目的に動いているのか、それを探り当てたいとこの時から考え始めるのであった。
(ひとまずは今回のヒノエ組長の一件で『妖魔召士』側は『妖魔山』の管理をうちに任せようと考え始めている事だろう。今後の詰め方次第ではあるが、実際に山の管理権を得た後にイダラマ殿がどういった反応を示して来るのか。そこが鍵となるでしょうね)
心の中でそう結論を出しているミスズは、自分に総長から視線が向けられているのに気づいた。
「あ、す、すいません……。少し考え事をしてしまっていて……!」
シゲンが何も喋っていなかったという事には気づいているが、総長の前だというのに心ここに在らずという態度を取ってしまった事をミスズはシゲンに詫びるのであった。
「気にするな。お前が組織の事を想ってくれている事はよく知っている。あのイダラマ殿の事を考えていたのだろう?」
「は、はい……。おっしゃる通りです」
考えていた事を言い当てられてしまったミスズは素直に白状するように頷いた。
「いいかミスズ。これは『コウヒョウ』の条件などより『妖魔山』の管理権を得る事は、俺達にとっては最大の好機でもあるのだ」
「え?」
どういう意図か分からずミスズは、口を挟まずにシゲンに視線を送る。
「お前も知っての通り、各地に蔓延っている妖魔達は、元々は全て妖魔山に居た妖魔達が原因だ」
このノックスの世界に妖魔が出現し始めのは『妖魔退魔師』や『妖魔召士』などがまだ存在しなかったこの世界の古き時代に、妖魔山から妖魔が生まれ落ちた事が原因だとされている。
「そして俺達の所属する『妖魔退魔師』の組織や『妖魔召士』の組織が出来てからこれまでの歴史上で、妖魔達の総本山である妖魔山を完璧に攻略して制圧した事はない」
――それはかつてこの世界の平和を守る為に、妖魔山に蔓延る妖魔達を完全に滅ぼそうとした両組織が結託して攻め込んだ『妖魔山制圧作戦』の事であった。
その『妖魔山制圧作戦』が失敗に終わった後、更にその後の数十年の間は何度か『妖魔山』を制圧しようと企んだ組織の人間が居たようだが、その全てが失敗に終わってしまった。
『妖魔退魔師』や『妖魔召士』達も寿命というものがあり、個々の力や魔力が強い者達が居る時代もあれば反対に弱い時代も存在した。
そしてその時代の者達によって、ランク『9』以上の妖魔が居る区域は『妖魔退魔師』と『妖魔召士』の両組織の間で禁止区域とされて入る事は許されなくなった。
その禁止と決めた両組織の時代が長かった為『妖魔山』のランク『9』以上の区域に入る事は、禁忌の行いと認識されていった。
その所為で今日まで妖魔山の高ランクの居る場所へは立ち入らず、また入るという事を考える事すら、許されなくなってしまい、現在でもランク『9』の妖魔ですら『妖狐』と見た目が『鬼人』の妖魔が居る事しか分かってはおらず、ランク『10』の妖魔に至ってはどんな生物が居るのかすら分かってはいないと表向きはされているのである。
しかし当代の『妖魔退魔師』組織の長『シゲン』は、前時代に活躍した『妖魔退魔師』や『妖魔召士』の一握りの人間が、裏で妖魔山の禁止区域に入り込んだのを知っている。
その詳細や結果は当然知らされてはいないが、ランク『9』の妖魔すら討伐されたという話が表に出てこない以上、結局は失敗に終わったのだろう。
だがシゲンがその事を知った時、いつかは自分もその場所に入りたいと、そしてランク『9』以上の妖魔と戦ってみたいと考えていたのであった。
(過去に『妖魔退魔師』と『妖魔召士』の誰もがランク『10』の妖魔を倒せなかったというのであれば、俺達の力でどこまで通じるか、是非試してみたいものだ……)
前時代では『妖魔召士』が、歴代最高の戦力達と言われていたが、現代では逆に『シゲン』や『ミスズ』に最高幹部達が居る『妖魔退魔師』が、自他共に歴代最強の時代と思っている。
そしてそんな彼らの時代が来たと同時に『妖魔山』の管理を得る好機が舞い込んできたのである。
『妖魔退魔師』側が『妖魔山』の管理権を得てしまえば、禁式区域の問題など如何様にも捻じ曲げる事も容易くなる。
シゲンはミスズにこの事を話しながら、静かに心の中で闘志を燃やしているのであった。
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