最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第1044話 過敏になる神経
「いや『英鬼』の攻撃を受けて、ピンピンしているってだけでも十分に信じられねぇよ……」
「それは……、まぁそうだけどね」
そんな事は『キネツグ』に言われるまでもなく『チアキ』自身が分かっている事ではある。
しかしそれでもその後に起きた事に比べると『チアキ』の中での信じられない事の優先順位では『英鬼』の事が些細な事のように思えてしまうのであった。
「いや、お前の言いたい事は分かってるよ。話の腰を折って悪かった。続けてくれ」
「アンタにしてはえらく物分かりが良いわね」
どうやらキネツグもソフィという奴が、何をしたのかが気になったのだろう。続きを言ってくれとばかりにキネツグは、チアキに先を促すのであった。
「あたしの持っている『式』で、最も強い鬼人の『英鬼』がやられた後、あのソフィって男は次に私を狙ってきたんだけどね。このままだとまずいと判断した私は、アイツに『青い目』を使ったのよ」
キネツグは地面に横たわりながらも『チアキ』の言葉を聞いて頷く。
「最初はあたしの思惑通りに『ソフィ』って野郎は動けなくなった。でも驚いてはいる様子だったけれど全く怯えた様子もなく、むしろ誰か分からない名前を出して、どうやらそいつの『魔瞳』と比べながら何やら嬉しそうに笑っていたわ」
「そいつは本当に頭がおかしいんじゃないのか?」
『妖魔召士』を相手にして自分が動けなくさせられたと言うのに、慌てずに笑っているって、事の重大さを理解出来ていないんじゃないのだろうか。この世界では『妖魔召士』が『魔瞳』を使って見せれば、力の強い妖魔でさえも、恐れる様子を見せる程なのである。
「あたし達があの施設内に入る前、ヒュウガ様に消すように言われたもう一人の大柄の奴が『三種類』の眩い色を放ったように、ソフィって奴も同じ力を使ったんだけどね。どうやらあれは、自身の力を増幅させる系統の技法のようなのよ。それを使ってあたしの『魔瞳』を解除しようとしたんだけど、出来なかった様子だった」
「そりゃあそうだろうよ。俺やお前の『魔瞳』を解除出来るならそいつの魔力は『妖魔召士』並という事だぞ」
この世界で生きてきたならば誰もが『妖魔召士』や『妖魔退魔師』に一度は憧れるだろう。
『妖魔召士』になりさえすれば日々の生活に困る事もなく、英雄のような扱いを受けられる上に大半の人間に威張り散らかせる。
『妖魔召士』になれる魔力がなくても、必死こいて退魔士として『退魔組』に入ろうとする奴が大勢居る世の中だ。
『妖魔召士』に選ばれる程の『魔力』を有しておきながら、それを隠して生きていくような馬鹿な奴はいないだろう。
「あたしも解除される筈がないと思って、ソフィって奴を馬鹿にするように煽って笑っていたんだけどね」
(やっぱりチアキは、チアキだったな)
相手を馬鹿にする事はきっちりとやり遂げたと告げるチアキに、キネツグは心の中で苦笑いを浮かべた。
「最初は本当に私の『魔瞳』を解除できなかったようなのよ。あれはハッタリでも演技でも何でもなかった」
決して思い出したくない事であったが、チアキはキネツグには聞いておいて欲しいという気持ちが芽生えてた事で、嫌々ながらもアジトでの事を一つ一つ思い出していく。
「そう。確か唐突にアイツは、何か詩のようなものを口ずさみ始めたのよ」
それはソフィの『魔神』を使役する詠唱の事であったのだが、どうやらこの世界には『理』を生み出す精霊のような存在が居ないようで、当然『魔』という概念は無く、魔力は『妖魔召士』と認められる為に、存在しているような物となっている。
だからこそ『チアキ』がソフィの魔法の詠唱を行っている事など皆目見当が付いておらず、何が起きたのか理解出来ていなかった。
「そしたらその後、何もない所からいきなり『神様』みたいなのが現れたの!」
「は、はぁ?」
それまでチアキの話を真剣に聞いていたキネツグだったが『神様』が現れたという言葉が飛び出した瞬間、頭の中で考えていた事が、綺麗さっぱり飛んでしまうのであった。
「そ、そしたらね! その真っ白い神様がいきなり、声のない。その声というか、何を言っているか分からない言語であたしに何かを伝えようとしてきたんだけど、あたし何も分からなくて、黙ってそれを見ていたら、急にあのソフィって男の背中から羽がばーって生え始めて、そ、そしたら……! そしたら私の『魔瞳』はあっさりと解除されて……」
段々と当時の事が思い出されていき、恐怖もまた思い出されたのだろう。まるでキネツグに早口で捲し立てるようにその口を動かし始める。
『妖魔召士』のチアキは『力の魔神』と『ソフィ』によって、今後長く付き合っていかなければならない程、根の深い恐怖を植え付けられてしまった様子だった。
聞いている方が心配になる程、チアキは取り乱しながら必死に、キネツグに聞いてもらおうとするのであった。互いに目隠しをされているからこそ遠慮なしにチアキは喋り、そしてキネツグも相手の顔が見えないからこそ聞いていられている。
互いの顔が見えないところに少人数で固まっていると、妙な緊張感が生まれてしまい、互いに遠慮するように会話を全くしないか、逆に今のチアキのように延々と喋り続けたりして、両極端のような事象が起きる事があるのだが、どうやら『キネツグ』には話をしてもいいと判断した瞬間に、チアキはもう自分の怖い経験や、信じられない事を経験してしまった『煌鴟梟』のアジトでの事を全て話をしてスッキリしたいと考えてしまい、無意識に緊張が緩和されてタガが外れてしまったのだろう。
「ちょ、ちょっと待て! お、落ち着けよ『チアキ』!」
神様という言葉が出てきてから急に現実味がなくなってしまい、キネツグはこれまでのように、チアキの言葉が頭に入ってこなくなってしまった。
そして更にそれに拍車をかけるように、突拍子の無い事を早口で捲し立てられてしまい、キネツグは一度落ち着くようにとチアキに制止の言葉を投げかけるのであった。
(何が何だか分からねぇが、とりあえず今は落ち着かせないといけねぇ。俺自身『チアキ』の言葉を整理しきれていねぇ)
他人に流されやすいところがあるキネツグだが、こうして冷静にならなければいけないという重要な局面の時ほど、キネツグという男は冷静に自分を制御できる人間であった。
普段の彼とは違うこうした一面を持ち合わせているからこそ、キネツグもまた『妖魔召士』として認められているのだろう。
「えっ、ええ……! そ、そうね! 確かにその通りだわ……」
神経が過敏になっていたチアキは、キネツグの言葉でようやく我に返り、大きく深呼吸をして息を整え始めるのであった。
……
……
……
「それは……、まぁそうだけどね」
そんな事は『キネツグ』に言われるまでもなく『チアキ』自身が分かっている事ではある。
しかしそれでもその後に起きた事に比べると『チアキ』の中での信じられない事の優先順位では『英鬼』の事が些細な事のように思えてしまうのであった。
「いや、お前の言いたい事は分かってるよ。話の腰を折って悪かった。続けてくれ」
「アンタにしてはえらく物分かりが良いわね」
どうやらキネツグもソフィという奴が、何をしたのかが気になったのだろう。続きを言ってくれとばかりにキネツグは、チアキに先を促すのであった。
「あたしの持っている『式』で、最も強い鬼人の『英鬼』がやられた後、あのソフィって男は次に私を狙ってきたんだけどね。このままだとまずいと判断した私は、アイツに『青い目』を使ったのよ」
キネツグは地面に横たわりながらも『チアキ』の言葉を聞いて頷く。
「最初はあたしの思惑通りに『ソフィ』って野郎は動けなくなった。でも驚いてはいる様子だったけれど全く怯えた様子もなく、むしろ誰か分からない名前を出して、どうやらそいつの『魔瞳』と比べながら何やら嬉しそうに笑っていたわ」
「そいつは本当に頭がおかしいんじゃないのか?」
『妖魔召士』を相手にして自分が動けなくさせられたと言うのに、慌てずに笑っているって、事の重大さを理解出来ていないんじゃないのだろうか。この世界では『妖魔召士』が『魔瞳』を使って見せれば、力の強い妖魔でさえも、恐れる様子を見せる程なのである。
「あたし達があの施設内に入る前、ヒュウガ様に消すように言われたもう一人の大柄の奴が『三種類』の眩い色を放ったように、ソフィって奴も同じ力を使ったんだけどね。どうやらあれは、自身の力を増幅させる系統の技法のようなのよ。それを使ってあたしの『魔瞳』を解除しようとしたんだけど、出来なかった様子だった」
「そりゃあそうだろうよ。俺やお前の『魔瞳』を解除出来るならそいつの魔力は『妖魔召士』並という事だぞ」
この世界で生きてきたならば誰もが『妖魔召士』や『妖魔退魔師』に一度は憧れるだろう。
『妖魔召士』になりさえすれば日々の生活に困る事もなく、英雄のような扱いを受けられる上に大半の人間に威張り散らかせる。
『妖魔召士』になれる魔力がなくても、必死こいて退魔士として『退魔組』に入ろうとする奴が大勢居る世の中だ。
『妖魔召士』に選ばれる程の『魔力』を有しておきながら、それを隠して生きていくような馬鹿な奴はいないだろう。
「あたしも解除される筈がないと思って、ソフィって奴を馬鹿にするように煽って笑っていたんだけどね」
(やっぱりチアキは、チアキだったな)
相手を馬鹿にする事はきっちりとやり遂げたと告げるチアキに、キネツグは心の中で苦笑いを浮かべた。
「最初は本当に私の『魔瞳』を解除できなかったようなのよ。あれはハッタリでも演技でも何でもなかった」
決して思い出したくない事であったが、チアキはキネツグには聞いておいて欲しいという気持ちが芽生えてた事で、嫌々ながらもアジトでの事を一つ一つ思い出していく。
「そう。確か唐突にアイツは、何か詩のようなものを口ずさみ始めたのよ」
それはソフィの『魔神』を使役する詠唱の事であったのだが、どうやらこの世界には『理』を生み出す精霊のような存在が居ないようで、当然『魔』という概念は無く、魔力は『妖魔召士』と認められる為に、存在しているような物となっている。
だからこそ『チアキ』がソフィの魔法の詠唱を行っている事など皆目見当が付いておらず、何が起きたのか理解出来ていなかった。
「そしたらその後、何もない所からいきなり『神様』みたいなのが現れたの!」
「は、はぁ?」
それまでチアキの話を真剣に聞いていたキネツグだったが『神様』が現れたという言葉が飛び出した瞬間、頭の中で考えていた事が、綺麗さっぱり飛んでしまうのであった。
「そ、そしたらね! その真っ白い神様がいきなり、声のない。その声というか、何を言っているか分からない言語であたしに何かを伝えようとしてきたんだけど、あたし何も分からなくて、黙ってそれを見ていたら、急にあのソフィって男の背中から羽がばーって生え始めて、そ、そしたら……! そしたら私の『魔瞳』はあっさりと解除されて……」
段々と当時の事が思い出されていき、恐怖もまた思い出されたのだろう。まるでキネツグに早口で捲し立てるようにその口を動かし始める。
『妖魔召士』のチアキは『力の魔神』と『ソフィ』によって、今後長く付き合っていかなければならない程、根の深い恐怖を植え付けられてしまった様子だった。
聞いている方が心配になる程、チアキは取り乱しながら必死に、キネツグに聞いてもらおうとするのであった。互いに目隠しをされているからこそ遠慮なしにチアキは喋り、そしてキネツグも相手の顔が見えないからこそ聞いていられている。
互いの顔が見えないところに少人数で固まっていると、妙な緊張感が生まれてしまい、互いに遠慮するように会話を全くしないか、逆に今のチアキのように延々と喋り続けたりして、両極端のような事象が起きる事があるのだが、どうやら『キネツグ』には話をしてもいいと判断した瞬間に、チアキはもう自分の怖い経験や、信じられない事を経験してしまった『煌鴟梟』のアジトでの事を全て話をしてスッキリしたいと考えてしまい、無意識に緊張が緩和されてタガが外れてしまったのだろう。
「ちょ、ちょっと待て! お、落ち着けよ『チアキ』!」
神様という言葉が出てきてから急に現実味がなくなってしまい、キネツグはこれまでのように、チアキの言葉が頭に入ってこなくなってしまった。
そして更にそれに拍車をかけるように、突拍子の無い事を早口で捲し立てられてしまい、キネツグは一度落ち着くようにとチアキに制止の言葉を投げかけるのであった。
(何が何だか分からねぇが、とりあえず今は落ち着かせないといけねぇ。俺自身『チアキ』の言葉を整理しきれていねぇ)
他人に流されやすいところがあるキネツグだが、こうして冷静にならなければいけないという重要な局面の時ほど、キネツグという男は冷静に自分を制御できる人間であった。
普段の彼とは違うこうした一面を持ち合わせているからこそ、キネツグもまた『妖魔召士』として認められているのだろう。
「えっ、ええ……! そ、そうね! 確かにその通りだわ……」
神経が過敏になっていたチアキは、キネツグの言葉でようやく我に返り、大きく深呼吸をして息を整え始めるのであった。
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