最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第997話 空からの偵察

「ヒロキか。ビビらせるなよ! まぁそんな事はどうでもいい。それよりもヒロキ、外を見てみろよ」

「分かっています。護衛隊達にこの場所がバレて、乗り込んでこられた事でしょう? 旅籠町の捕らえられた男の回収に向かっていた筈のセルバスが、護衛隊を連れてここに来ているところを見るに、どうやら奴はヘマをやらかして俺達『煌鴟梟こうしきょう』の事が、明るみに出てしまったようです」

「やっぱりそうか……。さっきの爆発は護衛隊の仕業だな。俺らは今からこの事をボスに報告に行く。奴らはお前に任せる。何とか時間を稼いでくれ」

「分かっています。その為に俺達はトウジ様に雇われたのですから。仕事を全うしますので、その間にボスと共に逃げて下さい!」

「頼んだぞ、ヒロキ。よし、俺達もボスの元へ急ぐぞサノスケ」

「ああ!」

 ミヤジとサノスケが慌ててボスの元へ向かうのを確認した後、スキンヘッドの男『ヒロキ』は、皮製のグローブを装着し始める。

 ――彼があっさりと『煌鴟梟こうしきょう』の幹部になれた理由。
 それは『煌鴟梟こうしきょう』のボス『トウジ』にその強さを買われて戦闘員として有能だと認められたからであった。

 『煌鴟梟こうしきょう』はイツキの代までは『強盗』『強請』『窃盗』『人攫い』といった事を生業にしながら『商売』を行ってきた組織だったが、二代目のトウジの代になってからは、あらゆる道に精通していた者達が集まり、多くの表の商売にも影響力を及ぼす集団を目指している。

 この取り組みが行われたのは二代目の『煌鴟梟こうしきょう』のボスとなった『トウジ』からではなく、元々は初代の煌鴟梟のボス『イツキ』が行っていたが、彼はそれを『組織』として活かすのではなく、あくまで自身の周囲のみに利用しようと考えていた為に『煌鴟梟こうしきょう』内の『仕事』として利用されるようになったのは、あくまで『トウジ』の代からとされているのであった。

 『煌鴟梟こうしきょう』の幹部であるサノスケやミヤジは、商売人としても遺憾なく発揮しているが、この同じく幹部となったヒロキもまた戦闘と言う分野で十分に秀でているのであった。

 『煌鴟梟こうしきょう』のボスであるトウジに誘われる前、別に『妖魔召士ようましょうし』や『妖魔退魔師ようまたいまし』の組織に居たわけではないが、拳一つで町の付近に出る『妖魔』を見事に退治出来る程の力を持っていた。そんな彼はトウジの目に留まり、今では『煌鴟梟こうしきょう』の大幹部の一人となった。

 特に戦って得になる事も無かった為、これまで『予備群よびぐん』の連中とは、直接は戦った事は無いヒロキだったが、タイマンであればヒロキは『予備群よびぐん』の護衛に負けるとは、思ってはいない。

「相手はあの『サカダイ』の町の『予備群よびぐん』か。久々の大物たちだ。血が騒ぐじゃないか」

 そう言ってヒロキはにやりと笑うと首を鳴らしながら『ソフィ』達の居る中庭へと歩いて行くのであった。

 ……
 ……
 ……

 そしてヌーがアジトの中庭で『煌鴟梟こうしきょう』の組員を池に落とした頃、ヒュウガの命令でこの場に訪れていた『妖魔召士ようましょうし』の『キネツグ』と『チアキ』は、鳥類の『式』の身体に乗って、旅籠町から尾行を行いながらも未だにソフィ達に発見されずに、上手い具合に隠れられている『妖魔召士ようましょうし』の二人は、遠くの空の上から『煌鴟梟こうしきょう』のアジトの観察を続けていた。

 狙う対象の連中が何か結界を施している可能性を考慮して、あまり近づかないようにしながらも、しっかりと様子を見れる手立てを使っているようであった。

「まさかこんな人気の無いような場所に、あんなに怪しい連中が隠れ潜んでいたとはな?」

「それにしても解せないわね。私はてっきり、ヒュウガ様に殺すように命じられたあの連中は『妖魔退魔師ようまたいまし』側と裏で繋がっていて、この辺で何か密会でもするのかと思っていたのだけど、どうやらそんな雰囲気では無さそうよね」

 チアキという女性は、右手で口元を押さえて考える素振りをしながらそう言った。

「ああ。どう見ても仲間って感じではないな。あの大きい男は相手を池に蹴り落していたし」

「本当に連中は何者なのかしら? さっきの施設の結界に放った『捉術そくじゅつ』は、見た事が無かったし。ここに来る途中にも見せた爆発を起こす技法も私は知らないわよ?」

「確かにな……。あの程度の『結界』すら破壊出来ない奴だ。奴らは『妖魔召士ようましょうし』でもないし、あの奇妙な鎌を振り回していた奴も『結界』を壊したところまでは見事だったが『妖魔退魔師ようまたいまし』にはまるっきり届いていない。俺の見立てでは、奴らは『予備群よびぐんっていう立ち位置がぴったりなんだがな?」

「私もそうかもしれないと思ってはいたけれど、そもそも『エイジ』様が、一緒に行動しているのも理解出来ないのよね。妖魔召士ようましょうしの組織から離れてはぐれの身にはなっていても、これまで妖魔退魔師ようまたいまし側との関係性の報告なんて、一度も聞いたこともないし」

「どうするよ? とりあえずあの連中の揉め事が一段落するまでは、手を出さずにこのまま見ておくか?」

「あんまり遅いとヒュウガ様がうるさいでしょうけどね」

「ははは、別にそれは構わんだろう。そもそもゲンロク様に内緒で俺達を派遣してんだぜ? ヒュウガ様も大きい声では文句は言えねぇだろうよ」

 チアキもキネツグも『ヒュウガ派』と呼ばれる者達だが、その大元は『妖魔召士ようましょうし』なのである。

 『妖魔召士ようましょうし』の組織に属している以上、ヒュウガ派ではあっても長はゲンロクなのである。

 その事はヒュウガも十分に分かっている事である為、少しくらい報告が遅れたとしても、咎めて来るような真似はしないだろう。

「それもそうね。私もちょっと気になってきたし、もう少しだけ様子を見てみましょうか?」

「よし、決まりだな。ただまぁ逃げられないようだけ気を付けていようぜ」

「ええ、勿論分かっているわ」

 二人はその言葉を最後に静かになった後、互いに空を飛べる『式』を使い、アジト周辺に簡易的な結界を施していく。

(※簡易的な結界の為、他者に影響を及ぼすような『影響付与』や、他者の攻撃を防ぐような物ではなく、あくまで程度である)

「ん?」

 キネツグは鳥類の『式』に乗りながら上空を飛び回り、周囲一帯に結界を施している最中だったが、その結界で『侵入の痕跡』を感知した。しかし直ぐに感知出来なくなった事で、違和感だけが残るのであった。

「あの辺りか?」

 キネツグはそう告げると自分の『式』に命令を出して、結界が感知した存在が居た場所へと移動を開始する。

 キネツグの使役する鳥類の『式』は、非常に移動に優秀なようで、猛スピードで移動を開始して、一瞬で感知した存在が居た場所へ到着する。

 しかしその速度であっても『キネツグ』が辿り着いた時には、もう感知した存在は影も形も存在していなかった。

「あれ? 野生の妖魔が入り込んだか? 参ったな……。これなら最初から『結界』に力を入れておくべきだったか」

 数秒程に渡って周囲一帯を見渡したキネツグだったが、もうここに居ても仕方がないとばかりに、再び『式』に乗ってチアキが居る方へと戻って行くのであった。

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