最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第988話 複雑な組織の人間関係
ボスの部屋を出たユウゲだったが、その場に待ち受けていたのはスキンヘッドの男『ヒロキ』だけだった。
「どうやらボスとの話は終えられたみたいですね」
トウジの部屋から出て来たユウゲに気づいたヒロキは、慌ててドアの前まで歩いてきてそう告げた。
「少し長話をしてしまったようだ。外で待たせて申し訳なかった」
ユウゲがそう言うとヒロキは首を横に振った。
『気になさらないで下さい』と告げるヒロキに頷きを返しながらもユウゲは例の『新人』が座っていた場所に今は誰も座っていないのを確認する。
「セルバスをお探しですか?」
ユウゲの視線を追ったであろうヒロキは、先程までこの場に居た新人の名を出しながら、ユウゲを一瞥する。
「彼の名はセルバスというのか」
ここでようやく『新人』の名前が『セルバス』という事を知ったユウゲは、しっかりとイツキに報告出来るようにその名を頭に記憶させる。
「このアジトに居座れる程の新人という事は、相当に期待されている人物なのだろうからしっかりと挨拶をして帰ろうと思ったのだがな」
「先程。彼は先程『サノスケ』殿の遣いの者に連れ出されて旅籠町に向かいましたから、当分は旅籠町で『例の仕事』に就くかと思われます」
どうやらユウゲがトウジと話をしている間に、新人のセルバスという男に仕事が入り、このアジトから出て行ったらしい。
サノスケ殿は『煌鴟梟』の幹部だが、旅籠の宿を任されている生粋の商売人でもある。
『例の仕事』とヒロキ殿が告げたという事は、セルバスという新人は『人攫いの仕事』の一端を担わされるという事だろう。
トウジの様子がおかしいという事に気づいたユウゲは、その原因がセルバスと疑っている為、出来れば帰りに顔を合わせたくないとそう考えただけに、居ないというのであればそれはそれで助かった。
ユウゲがそんな事を考えていると、スキンヘッドの男ヒロキは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていた。
「ヒロキ殿? どうかなされたか」
「あ、いや。これは失礼しました」
無意識に自分が不機嫌な表情を浮かべている事に気づいたのだろう。ヒロキはユウゲに指摘されて、慌てて表情を元に戻した。じっとユウゲが見つめたままだった為、ヒロキは小さく溜息を吐いた。
「いえね。あの新人はボスに気に入られているからある程度好きにさせていますが『退魔組』の大幹部である『ユウゲ』殿が気にかけられるような者ではないのですよ」
どうやらユウゲが先程あの『新人』に挨拶をしておこうと言った事にヒロキは、相当に不満を抱いている様子だった。
曲がりなりにも同じ組織で働く仲間にする発言にしては、酷く冷たい言葉と態度にユウゲは感じられた。
(どうやらセルバスとやらは、ヒロキ殿に相当嫌われているようだな。まぁ先程の態度を組織内でいつも取っているというのであれば、誰からも好かれる筈はないだろう)
「ふむ。居ない以上は挨拶しようにも出来ぬからな。では俺は退魔組に戻るとしよう。唐突に邪魔をして申し訳なかったヒロキ殿」
そう言ってユウゲが軽く頭を下げるとヒロキは、そのスキンヘッドの頭部がユウゲの目に映る程に、頭を下げながら言葉を返してくれるのであった。
「いえいえ。いつでも気兼ねなく来てください。私のような新人にも丁寧に接してくださり、感謝しますユウゲ殿」
そうしてユウゲがアジトの屋敷から中庭に出ると、出て来たユウゲに気づいた外の警備を行っていた煌鴟梟の若い衆達は、一斉にユウゲに頭を下げてくるのであった。
「先程は失礼を致しました! 申し訳ございませんでした!!」
「は? い、いや、気にしないでくれ。知らなかったのだから当然の事だ」
ユウゲがそう言うと一番前に居た男が再び深々と頭を下げた。
「ケイノトまでの道中、お気をつけてお帰り下さい!!」
「「お気をつけて!!」」
「あ、ああ……。ありがとう」
ユウゲが礼を言いながら『煌鴟梟』の敷地の外まで歩いて行こうとすると、ずらりとユウゲの両脇に並んだ『煌鴟梟』の組員達は、ユウゲが前を通る毎に波打つようにユウゲを挟んだ両脇で頭を下げていくのだった。
――それはまるで『煌鴟梟』の大幹部である『ミヤジ』や『サノスケ』に対する扱いのようであった。
どうやら彼らはここに来た時にユウゲを取り囲んだ連中だったようで、ユウゲがどういう人物かという事を教えられたのだろう。来た時とは全く違う態度で見送られるユウゲであった。
…………
『煌鴟梟』の敷地外を出た後、ユウゲは胸元を押さえながら溜息を吐いた。
「ああ、心臓に悪い。一体どういう風に俺の事を説明したんだろうか」
退魔組の中でも下位や中位の退魔士からは、同じような態度を取られる事が多いが、面識の無い連中からあれだけ大勢に一気に頭を下げられる事に慣れていないユウゲは、どうやら相当に衝撃が大きかったらしい。
「と、とりあえずイツキ殿に報告だな」
そう言い残してユウゲは『ケイノト』へと帰路に就くのであった。
このイツキからの発端で行われた『煌鴟梟』の内情を調べるという任務を無事に遂行したユウゲだったが、彼がトウジと会話をした事によってトウジの洗脳に綻びが生じてしまったのであった。
『煌鴟梟』のボスであるトウジと普段通りに行う会話であれば、目が虚ろになったりといったような事も無く、特に問題は無いのだが、ひとたび術者である『セルバス』を連想させるような言葉をこのトウジに向ける事によって、ユウゲとの会話の時に強く意識させられた事による綻びが広がってしまい『魔瞳』である『金色の目』の術の効果が示されて洗脳を解けないように力が働いてしまい、彼は再び意識が遮断されてしまうのである。
意識が遮断された後は、数秒から数十秒は無言となるが、そのまま続け様に『セルバス』を連想させるような言葉で追い打ちをかける事がなければ、ユウゲの時のように意識自体が戻る様になるが、執拗にセルバスを連想させるような言葉を発し続けた場合『魔瞳』による洗脳の力が強さを増してしまい、その内に精神が耐えきれずに絶命をしてしまうだろう。
但しセルバスはそれを避けるために一つの保険を用意しており、意識が遮断された状態になって尚、続けざまにセルバスを連想させるような話題が続いた場合は、そのセルバスが『煌鴟梟』の内部で、自由に発言出来る幹部クラスの権力を持つ事が出来るように、そしてセルバスが望む形になるように深層意識を操って書き換えを済ませてある。
余りに複雑な命令を下してしまえば、本当にそのまま脳死する恐れがある為、あくまで『セルバス』が望むような形をトウジが自分で考えさせるようにしている。
それがどんな内容になるかは『魔瞳』を使ったセルバスにも分からないが、セルバスの組織内での立ち位置が良くなることは間違いは無いだろう。
あくまで過程自体はトウジが自分で考えた内容ではあるが、結論となる事自体は『セルバス』が望むような形になる事には変わりが無いからである。
しかしこの時の影響で『トウジ』に『セルバス』を連想させてしまった『ミヤジ』が、今後のセルバスの任務のサポート役にさせられてしまい、トウジに掴みかかろうとする事態を招いてしまう事になるのであった。
(※第962話 『虚ろな目をした煌鴟梟のボス』)
……
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トウジの部屋から出て来たユウゲに気づいたヒロキは、慌ててドアの前まで歩いてきてそう告げた。
「少し長話をしてしまったようだ。外で待たせて申し訳なかった」
ユウゲがそう言うとヒロキは首を横に振った。
『気になさらないで下さい』と告げるヒロキに頷きを返しながらもユウゲは例の『新人』が座っていた場所に今は誰も座っていないのを確認する。
「セルバスをお探しですか?」
ユウゲの視線を追ったであろうヒロキは、先程までこの場に居た新人の名を出しながら、ユウゲを一瞥する。
「彼の名はセルバスというのか」
ここでようやく『新人』の名前が『セルバス』という事を知ったユウゲは、しっかりとイツキに報告出来るようにその名を頭に記憶させる。
「このアジトに居座れる程の新人という事は、相当に期待されている人物なのだろうからしっかりと挨拶をして帰ろうと思ったのだがな」
「先程。彼は先程『サノスケ』殿の遣いの者に連れ出されて旅籠町に向かいましたから、当分は旅籠町で『例の仕事』に就くかと思われます」
どうやらユウゲがトウジと話をしている間に、新人のセルバスという男に仕事が入り、このアジトから出て行ったらしい。
サノスケ殿は『煌鴟梟』の幹部だが、旅籠の宿を任されている生粋の商売人でもある。
『例の仕事』とヒロキ殿が告げたという事は、セルバスという新人は『人攫いの仕事』の一端を担わされるという事だろう。
トウジの様子がおかしいという事に気づいたユウゲは、その原因がセルバスと疑っている為、出来れば帰りに顔を合わせたくないとそう考えただけに、居ないというのであればそれはそれで助かった。
ユウゲがそんな事を考えていると、スキンヘッドの男ヒロキは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべていた。
「ヒロキ殿? どうかなされたか」
「あ、いや。これは失礼しました」
無意識に自分が不機嫌な表情を浮かべている事に気づいたのだろう。ヒロキはユウゲに指摘されて、慌てて表情を元に戻した。じっとユウゲが見つめたままだった為、ヒロキは小さく溜息を吐いた。
「いえね。あの新人はボスに気に入られているからある程度好きにさせていますが『退魔組』の大幹部である『ユウゲ』殿が気にかけられるような者ではないのですよ」
どうやらユウゲが先程あの『新人』に挨拶をしておこうと言った事にヒロキは、相当に不満を抱いている様子だった。
曲がりなりにも同じ組織で働く仲間にする発言にしては、酷く冷たい言葉と態度にユウゲは感じられた。
(どうやらセルバスとやらは、ヒロキ殿に相当嫌われているようだな。まぁ先程の態度を組織内でいつも取っているというのであれば、誰からも好かれる筈はないだろう)
「ふむ。居ない以上は挨拶しようにも出来ぬからな。では俺は退魔組に戻るとしよう。唐突に邪魔をして申し訳なかったヒロキ殿」
そう言ってユウゲが軽く頭を下げるとヒロキは、そのスキンヘッドの頭部がユウゲの目に映る程に、頭を下げながら言葉を返してくれるのであった。
「いえいえ。いつでも気兼ねなく来てください。私のような新人にも丁寧に接してくださり、感謝しますユウゲ殿」
そうしてユウゲがアジトの屋敷から中庭に出ると、出て来たユウゲに気づいた外の警備を行っていた煌鴟梟の若い衆達は、一斉にユウゲに頭を下げてくるのであった。
「先程は失礼を致しました! 申し訳ございませんでした!!」
「は? い、いや、気にしないでくれ。知らなかったのだから当然の事だ」
ユウゲがそう言うと一番前に居た男が再び深々と頭を下げた。
「ケイノトまでの道中、お気をつけてお帰り下さい!!」
「「お気をつけて!!」」
「あ、ああ……。ありがとう」
ユウゲが礼を言いながら『煌鴟梟』の敷地の外まで歩いて行こうとすると、ずらりとユウゲの両脇に並んだ『煌鴟梟』の組員達は、ユウゲが前を通る毎に波打つようにユウゲを挟んだ両脇で頭を下げていくのだった。
――それはまるで『煌鴟梟』の大幹部である『ミヤジ』や『サノスケ』に対する扱いのようであった。
どうやら彼らはここに来た時にユウゲを取り囲んだ連中だったようで、ユウゲがどういう人物かという事を教えられたのだろう。来た時とは全く違う態度で見送られるユウゲであった。
…………
『煌鴟梟』の敷地外を出た後、ユウゲは胸元を押さえながら溜息を吐いた。
「ああ、心臓に悪い。一体どういう風に俺の事を説明したんだろうか」
退魔組の中でも下位や中位の退魔士からは、同じような態度を取られる事が多いが、面識の無い連中からあれだけ大勢に一気に頭を下げられる事に慣れていないユウゲは、どうやら相当に衝撃が大きかったらしい。
「と、とりあえずイツキ殿に報告だな」
そう言い残してユウゲは『ケイノト』へと帰路に就くのであった。
このイツキからの発端で行われた『煌鴟梟』の内情を調べるという任務を無事に遂行したユウゲだったが、彼がトウジと会話をした事によってトウジの洗脳に綻びが生じてしまったのであった。
『煌鴟梟』のボスであるトウジと普段通りに行う会話であれば、目が虚ろになったりといったような事も無く、特に問題は無いのだが、ひとたび術者である『セルバス』を連想させるような言葉をこのトウジに向ける事によって、ユウゲとの会話の時に強く意識させられた事による綻びが広がってしまい『魔瞳』である『金色の目』の術の効果が示されて洗脳を解けないように力が働いてしまい、彼は再び意識が遮断されてしまうのである。
意識が遮断された後は、数秒から数十秒は無言となるが、そのまま続け様に『セルバス』を連想させるような言葉で追い打ちをかける事がなければ、ユウゲの時のように意識自体が戻る様になるが、執拗にセルバスを連想させるような言葉を発し続けた場合『魔瞳』による洗脳の力が強さを増してしまい、その内に精神が耐えきれずに絶命をしてしまうだろう。
但しセルバスはそれを避けるために一つの保険を用意しており、意識が遮断された状態になって尚、続けざまにセルバスを連想させるような話題が続いた場合は、そのセルバスが『煌鴟梟』の内部で、自由に発言出来る幹部クラスの権力を持つ事が出来るように、そしてセルバスが望む形になるように深層意識を操って書き換えを済ませてある。
余りに複雑な命令を下してしまえば、本当にそのまま脳死する恐れがある為、あくまで『セルバス』が望むような形をトウジが自分で考えさせるようにしている。
それがどんな内容になるかは『魔瞳』を使ったセルバスにも分からないが、セルバスの組織内での立ち位置が良くなることは間違いは無いだろう。
あくまで過程自体はトウジが自分で考えた内容ではあるが、結論となる事自体は『セルバス』が望むような形になる事には変わりが無いからである。
しかしこの時の影響で『トウジ』に『セルバス』を連想させてしまった『ミヤジ』が、今後のセルバスの任務のサポート役にさせられてしまい、トウジに掴みかかろうとする事態を招いてしまう事になるのであった。
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