最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第975話 出戻り

 当初の任務の目的は『加護の森』での二人組の調査と討伐であり、管轄から外れたサカダイの土地へは任務とはいっても勝手に入る事は出来ない。

 『』以前であれば、問題無く入る事の出来た場所だが、現在は『サカダイ』の管理下にある場所の為、勝手な侵入は越権行為えっけんこういと成り兼ねない。

 彼らがこの場合に行う事は『ケイノト』に戻って事実を伝えて、サテツ達の指示に従う事で間違いは無いのだが、この場に居る誰もがその発想に行き着いた今、渋い顔を浮かべ合っていた。

「任務の事だから仕方無いんだけど、またサテツの頭領に八つ当たりをされるだろうな」

 三白眼の若者『ヒイラギ』がそう言うと、隣に並び立つ『ミナ』が同意するように首を激しく縦に振って頷く。

「頭領の気分がいい時なら、すんなり指示を仰ぎに戻れるんだけど、今の頭領に全員で戻って伝えたら『てめぇらは自分達でそんな判断も出来ねぇのか!』とか理不尽に怒って、再び向こう側の森へ行かされそうっすよねぇ」

 クキの護衛である『サキ』が、サテツの怒った時の顔真似をしながら戻りたくないという空気を出し始めた。

「しかし報告も無しに行く訳には行かぬだろう。だが、確かに今から全員で戻るとなると、また『雁首揃えてお前らは』って怒るのは目に見えておるだろうからな。一応お前達はこの森に二人組の妖魔を探し続けておるといい。この俺がサテツ殿の所へ報告に行こう」

「「マジっすか!!」」

 ヒイラギとサキはユウゲの提案に目を輝かせながら声をハモらせた。まるで照らし合わせたかのように、声を重ね合わせた二人を見て、ミナがサキを睨むように見た後、頬を膨らませるのだった。

「だが、実際にタクシン程の奴が殺されたのだ。気を抜くような真似だけはせぬようにな。それと鳥型の『式』を数体出しておけ。何があるか分からぬ以上、すぐに連絡をとれるようにしておくのだ」

 ユウゲがそう言うと他の『特別退魔士達とくたいま』は頷いた。

「では、一旦ここで別れるとしよう」

 そう言ってユウゲは護衛のヤエと共に、ケイノトの退魔組の屯所へと戻るのであった。

 …………

 ユウゲは護衛のヤエと共にケイノトの町に戻り、そして彼ら退魔組の屯所に居る『サテツ』達の元に辿り着く。

 屯所の中はいつものように見回りの交代を待っている退魔士や、既に本日の勤務を終えて仲間同士で雑談している者達が多く居た。彼らは下位や中位の退魔組に属する退魔士ではあるが、普段の仕事は町の見回りや、ケイノトの門番を交代で行うくらいであり、妖魔と戦う事はほとんど無い。あくまで人数合わせのようなそんな者達であった。

 そしてユウゲとヤエが屯所の中へと入って来ると、ユウゲ達に気づいたその者達は、慌てて頭を下げて挨拶をしてくる。

「「お、お、お疲れ様です!!」」

 彼らにとって『特別退魔士とくたいま』は雲の上のような存在であり、少し自分達よりも身分の高い、上位退魔士であれば、敬語は使うがそこまで畏まった態度をとるという程でも無いのだが、ユウゲのような『特別退魔士とくたいま』やその護衛ともなると、懇切丁寧に頭を下げて彼らを迎え入れる様子であった。

「ああ、挨拶はもういいから楽にしてくれ」

 溜息を吐きながらユウゲは屯所内に居る多くの後輩たちにそう告げると、部屋の奥から細目をした一人の退魔士が、ユウゲ達の前に姿を見せるのであった。

「お帰りなさい。ユウゲ様と、ヤエ様。お早いお戻りのようです……が、お二方だけですか?」

 イツキはユウゲ達が現在就いている任務を知っている為、ここを出る時には六人で行動していたのを当然知っている。

 しかし今ここに戻ってきたのはユウゲとヤエだけだった為に、少々細目の彼にしては驚きで目を普段より開けている貴重な瞬間をユウゲ達は見る事が出来たのであった。

「ああ。少しサテツ殿にお伝えせして指示を仰がねばならない事があってな。俺達だけが一足先に戻ってきたというワケだ」

 ユウゲがそう言うと、納得がいった様子でイツキは首を縦に振った。

「そうでしたか、ではサテツ様をお連れしますので少々その場でお待ちください」

「ああ、すまないが頼むよ」

 イツキはニコリと笑ってそのままここに来る前に居た部屋、部屋の奥にあるサテツの居る事務室へとサテツを呼びに戻って行った。

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