最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第963話 煌鴟梟の幹部

 ミヤジが一人部屋の中でボスの変貌振りについて考えていると、ミヤジの部屋をノックする音が聞こえてくるのであった。

「誰だ?」

 セルバスが旅籠町の警備に捕らえられていた男を連れてきたのかもしれないと判断して、ミヤジは椅子から立ち上がり、扉を開けに向かいながら声を掛けた。扉を開けると外に居たのは、セルバスでは無くサノスケであった。

「ようミヤジ。ボスと一悶着あったと聞いたが大丈夫か?」

 ミヤジはサノスケの顔を見て溜息を吐き、そのまま扉を大きく開いた。サノスケに部屋の中に入れという合図であった。

「邪魔するぜ」

 そう言ってミヤジの部屋に入ったサノスケは再び口を開いた。

「それで一体何があったんだ? 突然部下の一人が俺のところに来て『ミヤジさんがボスと口論の末に殴り掛かろうとした』って話を聞いた時は、お前がトチ狂ったかと思ったぜ?」

 ミヤジとサノスケは今回の旅籠町で初めて手を組んだ者同士であり、そこまで『煌鴟梟こうしきょう』の中で、仲が良かったわけでは無かったが、ミヤジの酒場で作戦の相談や、これまでの成功を祝って共に呑む機会を経て、今では仕事仲間以上のコンビと呼べる仲であった。

「ああ……。お前が旅籠町で連れてきたあの新入りの野郎居るだろう?」

「護衛隊の屯所に捕らえられている男を拾いに行かせた新入りの事か」

 サノスケの言葉にミヤジは眉を寄せながら首を縦に振る。

「そいつがアジトへ戻ってきたら次の仕事だと、ボスに言われたんだが……」

 テーブルに置かれていた『ノックス』の世界の中でも相当にきつい酒を開けて、グラスに注ぎ始めながらミヤジは話を続ける。

 どうやら相当に苛立っているようで、先程から椅子に座りながらもミヤジは足を何度も組んでは、激しく揺らしている。

 酒の勢いもあるだろうが、こういう時のミヤジに反論をすればなかなかに面倒臭い事になると、サノスケは直ぐに理解する。

「もう次の仕事の話なのか。早いな」

「ああ……。今度の仕事は相当な荒事らしい」

「荒事? お前が今更現場の統括に入るのか?」

 ミヤジは既に『煌鴟梟こうしきょう』内では大幹部であり、普段の仕事は裏方で更には部下に指示を出して、自分はその報告をボスにしたりするような仕事が多かった。

 基本的にこの組織内ではサノスケのように元々宿を経営している者や、生粋の商人であった者と強盗や人攫い等を中心に犯罪を行っていた者と、色々と前職が違う者達が同じ組織に所属している。

 サノスケは元々商売人であったが故に、常に『煌鴟梟こうしきょう』内の仕事は『煌鴟梟こうしきょう』が手をまわした宿の主人をしたりして、荒事を行う者達の後方支援が主となっている為、今回のように『煌鴟梟こうしきょう』の資金を使って買い取った旅籠町の宿の主人を行い、人攫いを緻密に行う場所を提供したりしている。

 そしてミヤジは今でこそ『煌鴟梟こうしきょう』の大幹部となっているが、元々は単なる強盗であったところを前のボスに拾われて、あらゆる仕事をこなしながら、ようやく今の組織での地位に就いた。

「監督者をするわけじゃなく、そのセルバスって野郎について、この俺にセルバスのやる事に助力しろって言いやがったんだっ!!」

 苛立ちが伝わってくるように声を荒げながらミヤジは、酒の入ったグラスを一気に呑み干した。

(なるほどな、そりゃあここまで荒れるわけだ。荒事の現場に立つのは、新入りの仕事や外部を雇ってやらせる仕事だ。それを新しく入って来た新入りに指導するわけじゃなく、そのまま助力しろってことは、セルバスがやる事に従えと言われたようなもんだ)

 若い頃から下積みを行いながら、ようやく今の地位に就いたというのに、再びボスが代わった今になってまた若い頃のように、荒事をさせられそうになっている。

 ――それも新人の手伝いをやれと言われているようなものである。ミヤジがここまで荒れるのも理解が出来るというものであった。

 ボスも何故そんな事をと思いながらもサノスケは、次のミヤジの言葉を待った。

 今のミヤジには自分から話をさせて、自分は話を聞く側に徹した方がいいと判断をしたようであった。

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