最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第960話 ヌーの呆れと、気になる言葉

「まぁアイツが魔族だってんならよ、逆にやりやすいな」

 旅籠町の出口まで歩いて行く彼らを見ながらヌーがそう言うと、ソフィも同意するように頷く。

「奴の魔力はもう覚えた。後はこのまま気づかれぬように尾行を行って奴らのアジトとやらについて行くだけなのだがな」

「どうするんだよ? てめぇは『隠幕ハイド・カーテン』が使えねぇし、このまま出て行ってもう直接アイツを洗脳させて案内するしかねぇか?」

 ソフィが『隠幕ハイド・カーテン』を使えないというのを強調するかのように言葉に出しながら、ニヤニヤとソフィをからかうように笑うヌーを無視して、ソフィは悩む素振りを見せる。

「ひとまずは、コウゾウ殿と合流しよう。もうあやつらは、何処へ行っても分かる事だろうしな」

「お前、本気で言っているのか?」

 しかしそこで揶揄からかうように笑っていたヌーは真顔になりながらソフィに、こいつは正気かと疑うような視線を向けて来るのだった。

 今回は揶揄からかっているワケでは無く、心配するような口調に変わったヌーに、ソフィは首を傾げながら本当に分からないといった視線をヌーに向けると、ヌーは眉を寄せながら溜息を吐いた。

「今ハッキリと分かった事があるんだがな」

「む?」

 何やらソフィに向けるヌーの視線が少し侮るように変わった為に、あまり良くない事を言われそうだと身構えるソフィであった。

「お前はあれだ。先を見渡す能力は必要以上にありやがるようだが、一度見渡した視界に特質すべき事は無いと判断した後は、もうその同じ視界の風景をそういうものだとして、その後の事は気にしやがらねぇ。つまりそういう固定観念に囚われる傾向にありやがるんだな」

「それは、どう言う事だ?」

 ヌーは長年の疑問をソフィに抱いていたが、ここにきて一緒に行動をするようになって、何やら明確に理解を示した様であった。

「まだ分からねぇのか? どうでもいい事にはすぐに気づく癖に、本当に自分に関係の無い事については機転が利かない野郎だな」

「……」

 ヌーは先程までのように揶揄うでも無く、心底呆れるようにソフィを見た後、やがてソフィにも分かるように説明を始める。

「この世界に来た時に俺はお前に『次元防壁ディメンション・アンミナ』やその他『時魔法タイム・マジック』に比べたら『隠幕ハイド・カーテン』は会得するのに簡単な魔法だと告げたな?」

「うむ。確かにお主は『隠幕ハイド・カーテン』という新魔法は、覚えるのが容易いと言っておったな」

 それはここ『ノックス』の世界に来た後、ヌーがソフィに向けて言った言葉である。

「まだ俺の言いたい事が伝わらねぇのか。さっきの野郎は『金色の目ゴールド・アイ』を使っていたんだぞ?つまりあの野郎は最低でも『真なる魔王』から上の『大魔王』の領域ってわけだ」

「うむ。それはそうだろうが、それがどうしたのだ?」

 ヌーは大きく溜息を吐きながら、もう諦めたような表情を浮かべる。

「『金色の目ゴールド・アイ』を扱える者で、大魔王領域クラスであるならば、当然、奴は『隠幕ハイド・カーテン』も使えるかもしれないだろう? つまりこのまま奴の魔力を追えるからといって放置した場合、こちらの尾行に気づいた瞬間に『隠幕ハイド・カーテン』を使われて、後を追えなくされる可能性があるってわけだ。悠長にお前が護衛隊のなんちゃらって野郎と合流している間に、奴を見失ってしまえば、いつ『隠幕ハイド・カーテン』を使われて逃げられるか分からねぇだろうが」

 つまりヌーがソフィに言いたかった事は、先程の男が魔族である事で『魔力』を持っており、そのまま追えるからといって、この場から離れた所に居るコウゾウの元へ悠長に行っている間に、今も遠ざかって行っている男から目を離せば、いつ魔族が『隠幕ハイド・カーテン』を使って『煌鴟梟こうしきょう』の男もろとも姿を晦まされるか分からないだろうとヌーは、ソフィに説明したつもりだったのである。

「おお、なるほど! 先に奴の居場所を完全に突き止めろと、お主は言いたいわけだったか」

「そう言う事だ。俺が『隠幕ハイド・カーテン』の話をお前に振った時点で普通は客観的に、あの野郎が『隠幕ハイド・カーテン』を使って逃げるかもしれないってピンと来るもんだろうが、お前は自分が使えないから、完全にあの野郎が『隠幕ハイド・カーテン』を使うっていう意識に辿り着かなかったんだろうよ」

 ヌーがソフィに固定観念に囚われやすいと述べた理由がまさにこの事だったのだが、ようやくソフィは先程ヌーがその事を話していた理由に行き着いたようであった。

「成程、しかし回りくどすぎやしないか? もっと簡単に説明してくれたらいいだろう」

「ちっ、てめぇは本当に要領がいいのか、それとも悪いのか分からねぇ野郎だな」

 ソフィもヌーも互いの顔を見ながら溜息を吐くのだった。

「――」(なぁなぁ。ヌー)

「何だよテア。いま俺はコイツに一から十まで説明して疲れてんだよ」

 ヌーは舌打ちしながらもテアの言葉に耳を傾けるヌーであった。

「――」(悠長に話をしている間に、奴らの姿が見えなくなったぞ)

「どうしたのだ?」

「俺達が話している間に、奴らが行っちまったってよ」

「……」

「……」

 ソフィとヌーは顔を見合わせた後、直ぐに同時に魔力探知を使って先程の魔族の位置を確認するのであった。

 ……
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