最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第959話 魔瞳を使う男
セルバスがミヤジの酒場を出た頃、すでに釈放された『煌鴟梟』の男が旅籠町の裏通りに差し掛かる辺りで足を止めて立ち止まった後、そのまま周辺を見回し始める。
捕らえられていた男はこの辺に居れば『煌鴟梟』の仲間が、自分に声を掛けて来るだろうと判断したようであった。
当然コウゾウ達は、離れた場所からその様子を窺っていた。直接尾行をするような真似はしていないが、屯所の二階の窓やこの旅籠町全体の宿に護衛隊が潜んで見張っている。
『妖魔召士』や、ソフィ達のように相手の魔力を探る事が出来ない為、これまでもコウゾウ達はこのように『人海戦術』を用いているようであった。
確かに相手の魔力を測れなければ、ひとたび隠れられでもすれば探すのに苦労する事だろう。ソフィ達も屯所から出た後に、建物の陰に移動して男を見張っている。
『煌鴟梟』の者達が、男に接触をしてきたところを一目でも見て確認が出来れば、後はもう煌鴟梟の者達が逃げようとしても魔力を調べられるソフィ達であればどうにでもなる。
まだソフィ達を宿へと誘導してきたミヤジという男が『煌鴟梟』の者だと断定しているワケでは無いが、この場所に再び現れるようであれば、奴は間違いなく黒であろう。
そうなればもうミヤジを捕まえて『金色の目』でも使って操り、組織のアジトへと案内させて全員捕らえて護衛隊に突き出せばいい。
そう考えながら、男に接触する者達の出現を待つソフィ達であった。
…………
そして一人の長身の男が、捕らえられていた男の元に向かって来る。どうやら酔っぱらっているようで、覚束ない足取りでフラフラとしていた。
「あやつが『煌鴟梟』とかいう人攫い集団の男か?」
「まだそこまでは分からねぇが、あの男の顔をよく見てみろよ」
ヌーがソフィにそう言うと、ソフィも長身の酔っぱらいを注意して見てみる。視線の先のその男は捕らえられていた男を視界に入れるなり、ニヤニヤと男を見ながら笑っていた。嫌悪感を催すような笑みを浮かべたその男は、捕らえていた男の前で止まった。どうやら彼が『煌鴟梟』という組織の者達で間違いが無さそうであった。
ソフィが少し離れた場所で同じように、潜伏しているコウゾウの居る場所を一瞥すると、コウゾウもどうやら長身の男に気づいていたようで、ソフィの視線に対してコクリと頷いた。
まだ決定的な証拠が無いが、もう取り押さえても構わないかもしれないと、そういった思考がソフィの頭を過ったが、そこで驚く事が起きた。
――何と長身の酔っぱらいの目が、唐突に金色に輝いたのであった。
……
……
……
「ん? あいつ、かなり挙動不審な野郎だな……」
時は少し遡り、セルバスがミヤジの酒場から屯所へ向かう途中、裏通りから表通りに差し掛かる手前付近で、一人の男が何やら人を探しているような素振りを見せていた。
「あいつが捕らえられていた男か? 確か話では数人で行動していたと聞いていたが……」
ミヤジの話では確かに捕らえられた連中は、釈放をされたからといって、直ぐに潜伏先のミヤジの酒場や、サノスケの宿に直接来ることは禁じている為、この旅籠町ではちょうどあの男が居るあたりでウロウロしていろと伝えられていたようであったが、聞いていた人数が違っていたのである。
「時間差で一人ずつ釈放しているって事かもしれねぇな。まぁいいだろう。アイツを操って直接、聞き出せば言いだけの事だ」
セルバスはそう言って、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら男に近づいて行った。
「よう、てめぇが無様にも捕まったマヌケか?」
話し掛けられた男はどきりと驚きながらセルバスを見上げる。男も背が低くは無かったが、セルバスは男よりも数十センチ程高く、見上げなければいけない程の長身の男であった。
「お、お前は誰だ?」
「うるせぇよ、黙って俺の目を見やがれ」
――魔瞳、『金色の目』。
キィイインという甲高い音が辺りに響いたかと思うとセルバスは、目を金色に輝かせながら目の前の男と視線を合わせる。すると次の瞬間、男は虚ろな目を浮かべ始めるのであった。
「よし、じゃあさっさと俺について来い」
セルバスはそう言った後、一人でさっさと町の出口へ向かって歩いて行く。その後ろを何も考えられなくなった男は、セルバスの後をついて行く。
「何だ? 何であの男は何も合図を出さない!? アイツが例の組織の一味の男ではないのか?」
コウゾウは物陰から身を乗り出して慌ててそう口にする。他の護衛隊の男も何が何やら分からないと言った様子で、コウゾウが表通りに出ようとするのをなんとか押さえる。
このまま護衛隊であるコウゾウが表通りに姿を出せば、直ぐに尾行している事が、男たちにばれてしまうからである。
『金色の目』という『魔族』が使う『魔瞳』の存在を知らなければ、男は操られて連れ去られて行っているのだと分からないだろう。
傍から見れば長身の男に勝手について行っているだけにしか見えないのだから、あの長身の男を捕らえようとしても難しい。
……
……
……
「ふんっ! まさかこの世界で魔族に出会うとはな」
「うむ……。エイジ殿や退魔組の連中は我達のような魔族を見たことがないと言っていた筈だが、これまで身を隠して生きてきたのだろうか?」
今はまだあの『煌鴟梟』の男に魔瞳を掛けた男が、ソフィ達の世界で生きて来た煌聖の教団の大幹部。大魔王『セルバス』だという事を知らない為に、見当外れな事を言うソフィであった。
……
……
……
捕らえられていた男はこの辺に居れば『煌鴟梟』の仲間が、自分に声を掛けて来るだろうと判断したようであった。
当然コウゾウ達は、離れた場所からその様子を窺っていた。直接尾行をするような真似はしていないが、屯所の二階の窓やこの旅籠町全体の宿に護衛隊が潜んで見張っている。
『妖魔召士』や、ソフィ達のように相手の魔力を探る事が出来ない為、これまでもコウゾウ達はこのように『人海戦術』を用いているようであった。
確かに相手の魔力を測れなければ、ひとたび隠れられでもすれば探すのに苦労する事だろう。ソフィ達も屯所から出た後に、建物の陰に移動して男を見張っている。
『煌鴟梟』の者達が、男に接触をしてきたところを一目でも見て確認が出来れば、後はもう煌鴟梟の者達が逃げようとしても魔力を調べられるソフィ達であればどうにでもなる。
まだソフィ達を宿へと誘導してきたミヤジという男が『煌鴟梟』の者だと断定しているワケでは無いが、この場所に再び現れるようであれば、奴は間違いなく黒であろう。
そうなればもうミヤジを捕まえて『金色の目』でも使って操り、組織のアジトへと案内させて全員捕らえて護衛隊に突き出せばいい。
そう考えながら、男に接触する者達の出現を待つソフィ達であった。
…………
そして一人の長身の男が、捕らえられていた男の元に向かって来る。どうやら酔っぱらっているようで、覚束ない足取りでフラフラとしていた。
「あやつが『煌鴟梟』とかいう人攫い集団の男か?」
「まだそこまでは分からねぇが、あの男の顔をよく見てみろよ」
ヌーがソフィにそう言うと、ソフィも長身の酔っぱらいを注意して見てみる。視線の先のその男は捕らえられていた男を視界に入れるなり、ニヤニヤと男を見ながら笑っていた。嫌悪感を催すような笑みを浮かべたその男は、捕らえていた男の前で止まった。どうやら彼が『煌鴟梟』という組織の者達で間違いが無さそうであった。
ソフィが少し離れた場所で同じように、潜伏しているコウゾウの居る場所を一瞥すると、コウゾウもどうやら長身の男に気づいていたようで、ソフィの視線に対してコクリと頷いた。
まだ決定的な証拠が無いが、もう取り押さえても構わないかもしれないと、そういった思考がソフィの頭を過ったが、そこで驚く事が起きた。
――何と長身の酔っぱらいの目が、唐突に金色に輝いたのであった。
……
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「ん? あいつ、かなり挙動不審な野郎だな……」
時は少し遡り、セルバスがミヤジの酒場から屯所へ向かう途中、裏通りから表通りに差し掛かる手前付近で、一人の男が何やら人を探しているような素振りを見せていた。
「あいつが捕らえられていた男か? 確か話では数人で行動していたと聞いていたが……」
ミヤジの話では確かに捕らえられた連中は、釈放をされたからといって、直ぐに潜伏先のミヤジの酒場や、サノスケの宿に直接来ることは禁じている為、この旅籠町ではちょうどあの男が居るあたりでウロウロしていろと伝えられていたようであったが、聞いていた人数が違っていたのである。
「時間差で一人ずつ釈放しているって事かもしれねぇな。まぁいいだろう。アイツを操って直接、聞き出せば言いだけの事だ」
セルバスはそう言って、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら男に近づいて行った。
「よう、てめぇが無様にも捕まったマヌケか?」
話し掛けられた男はどきりと驚きながらセルバスを見上げる。男も背が低くは無かったが、セルバスは男よりも数十センチ程高く、見上げなければいけない程の長身の男であった。
「お、お前は誰だ?」
「うるせぇよ、黙って俺の目を見やがれ」
――魔瞳、『金色の目』。
キィイインという甲高い音が辺りに響いたかと思うとセルバスは、目を金色に輝かせながら目の前の男と視線を合わせる。すると次の瞬間、男は虚ろな目を浮かべ始めるのであった。
「よし、じゃあさっさと俺について来い」
セルバスはそう言った後、一人でさっさと町の出口へ向かって歩いて行く。その後ろを何も考えられなくなった男は、セルバスの後をついて行く。
「何だ? 何であの男は何も合図を出さない!? アイツが例の組織の一味の男ではないのか?」
コウゾウは物陰から身を乗り出して慌ててそう口にする。他の護衛隊の男も何が何やら分からないと言った様子で、コウゾウが表通りに出ようとするのをなんとか押さえる。
このまま護衛隊であるコウゾウが表通りに姿を出せば、直ぐに尾行している事が、男たちにばれてしまうからである。
『金色の目』という『魔族』が使う『魔瞳』の存在を知らなければ、男は操られて連れ去られて行っているのだと分からないだろう。
傍から見れば長身の男に勝手について行っているだけにしか見えないのだから、あの長身の男を捕らえようとしても難しい。
……
……
……
「ふんっ! まさかこの世界で魔族に出会うとはな」
「うむ……。エイジ殿や退魔組の連中は我達のような魔族を見たことがないと言っていた筈だが、これまで身を隠して生きてきたのだろうか?」
今はまだあの『煌鴟梟』の男に魔瞳を掛けた男が、ソフィ達の世界で生きて来た煌聖の教団の大幹部。大魔王『セルバス』だという事を知らない為に、見当外れな事を言うソフィであった。
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