第953話　美味しい食事

　屯所内にある二部屋分の広さの部屋にソフィ達は移動する事になった。先程までソフィが居た小部屋はあくまで尋問をするときや、他者にはあまり聞かれたくない話をする時に利用するような小部屋であった。

　しかし喧嘩をしていたという報告は、虚偽であった事が分かり『煌鴟梟こうしきょう』という組織の存在を男が話した事で、ソフィ達は白だったと判断してもう今後は捜査に協力するという事もあって、コウゾウはソフィ達に、普通の寝泊り出来る部屋を通したのであった。

　元々護衛が居る旅籠屋を利用してヒュウガの配下達の襲撃から、身を守れる宿を探していたという事もあり、色々と複雑な事に巻き込まれながらも当初の予定通り、護・衛・が・居・る・所・に・泊・ま・る・事・が・出・来・た・ソ・フ・ィ・達・。

　護衛が近くに居るという点では同じだが、まさかその護衛が居る屯所の中で泊まる事とは思わなかった。

「事情は隊長から聞きました。皆さん捜査にご協力して頂けるという事で本当に感謝致します。数日間はこの屯所内で過ごして頂く事になりますので、ご不便をお掛け致しますが、何かあれば直ぐに私にお伝えください」

　そう言ってソフィ達の部屋に人数分の食事を届けてくれたのは、護衛隊『予備群』の『シ・グ・レ・』という女性隊員だった。

　このシグレという女性はこの屯所に来た時にも、ソフィ達にお茶を淹れてくれた隊員で、常に笑顔を絶やさず接してくれていた。

「うむ。数日間の間、よろしく頼む」

　ソフィ達が感謝の言葉を述べると、シグレは頭を下げて退室していった。

　そしてソフィ達の前には決して豪華とは言えないが、彩り鮮やかな食事が揃っている。温かい汁物までついており、十分に栄養は摂れそうな食事であった。

　何よりこの旅籠町に来てソフィやテアは騒動に巻き込まれていた為、何も食べていなかったのもあって、テアは目をキラキラさせていた。

「ではせっかくだ、頂くとしようか」

　ソフィがそう言うとヌーやエイジも頷いて、ソフィ達は遅めの食事を摂るのであった。テアが美味しそうにおかずを食べていると横からヌーの視線を感じた。

「――？」（どうかしたのか？）

「いや、何でもねぇ。良かったらこれいるか？」

「――！」（いいのか！　欲しい！！）

「ふんっ……、ほらよ」

「――！」（やったー！　ありがとう！）

　どうやらヌーはさっきのテアの言葉にあった『お前が一人で楽しく酒を呑んでる時に大変だった』という話を聞いて、罪の意識に駆られていたのかもしれない。

　テアが機嫌を直している様子を見て、どこかほっとした様子で汁物を喉に流し込むヌーであった。

　…………

　二人の仲睦まじい食事風景を見て、ソフィもエイジも顔を見合わせながら、ほっこりとするのであった。

　……
　……
　……

　ソフィ達が屯所で食事をとっている頃『煌鴟梟こうしきょう』に所属するミヤジという男は、サノスケという男の使いと共に旅籠町から東へ向かった先にある洞穴に向かっていた。

　こういった洞穴は森の中など、至る所に人工的に作られている。妖魔から身を隠せる場所として、最適なのが理由である。サカダイと加護の森の間にある洞穴で、イダラマ達やエヴィが使っていた洞穴も似た造りの場所である。

　しかし同じ人工的なものだが、サカダイの近くにある洞穴は更に妖魔対策用に使われているモノが多く『結界』の位置や範囲。更にはケイノトと干渉し合わないように、サカダイの者達が作った為に、そういった意味で計算されたものが多い。

　そしてあちらは護衛隊が見回りによく来る為、必然的にサカダイより遠い場所の洞穴が盗人たちに使われる場合が多く、最近では盗んだ物を取引に使う場所として最適であり、旅籠で攫った女、子供を売る時に使われたりする場所でもあった。

　当然『煌鴟梟こうしきょう』の者達もこういった洞穴はよく利用する。どうやらサノスケが指定した場所はその洞穴の中のようで、何やらミヤジに取引を行うつもりなのかもしれない。

　そう考えながら『煌鴟梟こうしきょう』のミヤジは、サノスケの遣いの後をついて行くのであった。