最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第952話 提案と本音

「ソフィ殿。何やら俺に話があると聞いたのだが」

 ソフィ達の居る部屋に入ってきたコウゾウは『ふすま』を開けながらソフィに話しかける。部屋の中でソフィ達は、シグレの淹れてくれていたお茶を飲んでいた。コウゾウの声に中に居た全員が振り向いた。

「おお、公務中にすまぬなコウゾウ殿」

 お茶を横に置いた後にソフィは居を正しながらコウゾウに告げる。

「それは構わないぞ。今は『煌鴟梟こうしきょう』の対策を話し合う事こそが、この旅籠の治安を守る事に繋がる最優先の道だからな」

 そう言うとコウゾウも腰に差していた刀を横に置きながら座る。

「そうか。まぁ今から話す事は直接は『煌鴟梟こうしきょう』とは関係が無いのだが」

 含みのある言い方をするソフィにコウゾウは首を傾げる。

「今回の作戦だが、上手くいって『煌鴟梟こうしきょう』という組織を突き止めた後、奴らの組織を壊滅させる事が出来た暁には、ここに居るヌーが起こした数々の所業に目を瞑ってもらえぬか?」

「それは……、屯所で起こした『煌鴟梟こうしきょう』の奴らを葬った時の事を言っているのか?」

 どうやらある程度予想がついていたのかコウゾウは、直ぐにソフィに聞き返してくるのであった。

「うむ、そうだ。元々『煌鴟梟こうしきょう』の男たちは、テアを襲い攫おうとした。それに奴らはその場に居合わせた我に対しても一緒に攫って殺してしまえばいいと告げていたのでな。我も思うところがあって、あやつらがテアに手を出した時、窓から突き落としてやったのは我だったのだ」

「……」

 コウゾウは今ソフィが告げた言葉は嘘だとすぐに気づいた。あの部屋の中を調べた時、そんな痕跡こんせきは見当たらなかった。しかしなぜそんなウソをつく理由があるのかと、コウゾウはソフィを見て考察を始める。

 …………

 当然、今ソフィが告げた言葉は、ヌーを助けるための嘘の言葉である。

 しかし説得力を持たせる為に、ソフィは目を金色にしたかと思えば、三色のオーラを同時に体現させて、戦力値を高める。

 ソフィはサカダイの『妖魔退魔師ようまたいまし』の『予備群よびぐん』と呼ばれる者達がどれ程の力量なのかは詳しくは知らない。

 しかしこの屯所に来た時に、この屯所に居る護衛隊達の戦力値を普段の形態では、測定出来なかったことを踏まえて、ある程度の力を示さなければ、本気にしてもらえないと考えたのだ。

 そこまで考えたソフィは目の前に居るコウゾウが見過ごせないと感じられるように、戦力値を3000億程度まで上昇させた。これは先程奴らの宿の中で呼び出した『魔神』から、ある程度の『魔力』を引き出していた為、この形態であっても出せる限度の数値であった。

 これ以上の戦力値が必要と感じるならば、再び魔神を呼び出して魔力を返還してもらわなくてはならなくなるが、今のソフィの力を前に『コウゾウ』は脂汗を流している。

 どうやら『予備群よびぐん』のコウゾウ程の者であっても、現時点での『ソフィ』の戦力値の方が上であったようである。

「もちろん『煌鴟梟こうしきょう』の奴らがやっている事は許せぬが、それ以上に我は我の仲間が襲われたという事が気に喰わぬ。ヌーがやらなかったとしても、我は『煌鴟梟こうしきょう』の者達を同じように手を出していたかもしれぬし『煌鴟梟こうしきょう』の組織の連中の居場所が分かれば今度は我が手を出すかもしれぬな」

 これは先程のウソの言葉では無く、間違いなくソフィの本音でもあった。本音と嘘が入り混じったソフィの言葉。その上に説得力を持たせる威圧感。更には『予備群よびぐん』であるコウゾウよりも上の戦力値。

 ソフィという大魔王の重圧をその身に浴びながらコウゾウはしかし、完全に呑まれる事は無く、冷静にとまではいわないが、先程の条件を考慮するように考え始める。

 目を金色にさせながらソフィは、その完全な魔力のコントロールで、全ての威圧をコウゾウにのみ向けている。

 今のソフィに無理やり『漏出サーチ』で魔力を感知でもしない限りは、余波が他の者に向く事も無いだろう。やがて十分に考える時間が与えられた中、コウゾウは口を開いた。

「分かった……。奴らが犯罪者だという事を考慮して、先程のヌー殿の行いに関しては、前向きに検討しよう。しかし『煌鴟梟こうしきょう』の件が片付くまでは捜査に協力してもらうぞ」

「うむ、いいだろう。ヌーの件を考えてくれるというのなら、いくらでも我はお主に協力しよう」

「それとソフィ殿『煌鴟梟こうしきょう』の連中はあくまでも生かして捕らえたい。捜査に協力してもらう以上、出来るだけその点を重視してくれ」

「分かった。お主の言う通りにしよう」

 ソフィはコウゾウが頷いたのを確認した後、纏っていたオーラを消して通常の状態へと『魔力』を戻すのであった。

 その様子を見ていたヌーは色々と思うところはあったが、何よりもヌーは改めてソフィという壁の高さを思い知るのであった。

 直接ソフィの魔力を感知するような危険な真似はしなかったヌーだが、それでも先程の魔力は明らかに自分やミラを越えていた。

 あれだけの力を放出しておいて、周りに魔力の余波を一切向けさせず、何事も無かったかのように、その力を消していた。

 自分の魔力を完全にコントロールする事は、最上位の大魔王であっても難しい。
 如何に自分の魔力が高かろうとも戦闘で使う魔力は、よくて自身の最大魔力の九割程であり、それ以上の魔力を使うとなれば、どうしても負けられない戦いに挑む時であり、そんな時であっても極力は自爆を避けるために、極大魔法はギリギリまで使えないだろう。

 だが、先程のソフィの行った魔力コントロールは、完全に自分の魔力を管理下においていた。つまりヌーにしてみれば、恐ろしい程の先程の魔力でさえ、奴にとってはすんなり制御が出来る程度の魔力だったという事である。

(まるで底が見えねぇ、こいつに全力を出させる事の出来る奴なんざ、過去・未来・あらゆる世界を含めて、存在なんかしやがるのか? 色んな世界を見てきた俺だが、出て来る気がしねぇ……)

 そう言いながらもヌーは、手を強く握りしめながら笑みを浮かべて、意欲を滾らせるのであった。

 ――だったらいずれ、この俺が越えてやるよ。

 ……
 ……
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