最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第868話 彼らの事情

「彼らは形は違えども俺達と同じ感情を抱いている筈だ」

 どうやらシュウという男やエイジは、今の『退魔組』の退魔士たちのやり方は間違っていると思っている。そしてそのシュウはソフィが気持ちの整理をつけると告げた時に見せた、あの表情から妖魔を強引に従わせて『式』にする術式に思うところがあると確信した。

 つまりその術式を編み出した『ゲンロク』と会わせる事で、一悶着起こさせようとシュウは考えたのだろう。

「だが、ゲンロクに会わせたところでお主は彼に何をさせようというのだ? 『ゲンロク』は性格に難があるかもしれないが、それでも実力を省みれば俺よりも魔力が強い生粋の『妖魔召士ようましょうし』だぞ? もし、戦闘になればこちらが不利になるのは避けられぬ」

「エイちゃんは感じなかったのか?」

「何? おい、どうした!?」

 シュウの疑問に疑問で返したエイジだったが、そこでシュウが唐突に震え始めたのを見て目を丸くするのだった。

「ソフィ殿が一瞬だけ見せた目は、今でも思い返せばこの通りだ。あの男は強い、それもとんでもなくな……。ただ者ではない筈だ」

「シュウ……」

 エイジは目の前で目震えているシュウを見て、確かにソフィという存在はただ者では無いと思い返す。

 何より裏路地に入ってきたときに、自分の結界を躱して見せたのである。あの『結界』はランク『4』相当の妖魔でも瞬時に動けなくさせる事を容易とする程の力であった。

 そして目の前のシュウという男もまた『妖魔召士ようましょうし』程では無いにしても『退魔組』で言うところの退魔士のランクで表せば『特別退魔士とくたいま』程の力を有する退魔士なのである。

 そんな彼がここまで怯えを見せる以上、ソフィ殿は最低でもランク『4』いやランク『5』以上の実力者であることは間違いないだろう。

 もちろんシュウだけではなく自分も『ゲンロク』のやり方には目に余るものがある。奴の野心がこれ以上エスカレートする前に止められるとするならば、自分とソフィ殿が共闘して力をゲンロクに示す事で彼を一時的にでも止める事が出来て、更には『退魔組』に灸をすえて、酷い行いを正す事が出来るかもしれない。

 だが、ソフィ殿はあくまで知人を探す手掛かりの為に、ゲンロクの元へ向かうつもりなのだ。自分達の都合でゲンロク達と争わせるワケにはいかない。

「お前の言い分も分からないでもないが、あくまで小生が彼らをゲンロクの元へ案内する理由は、彼の知人の手掛かりの為だ。無理をさせるつもりはないぞ」

「エイちゃん……」

 ぴしゃりと言い放ったエイジの言葉にシュウも震えを止めて、下唇を軽く噛みながら頷くのだった。

「……そう、だな。ああ、忘れてくれ、エイちゃん。俺は少しおかしくなっていた」

「ああ。聴かなかった事にしよう。それでは小生は家に戻る。お主も自分の家に戻れ」

 シュウはコクリと頷くとゆっくりと自分の長屋に向かって歩いていった。そして長屋の戸に手を置いたときに後ろを振り返った。

「だけどエイちゃん。このままだと必ず後悔する日が来る。既にエイちゃんは今回の会議で呼び出されはしても完全に蚊帳の外にされていた。もう用済みどころか、奴等にとって目の上のタンコブなんだぜ?」

 エイジの返事を聞かず、そのまま戸を閉めて長屋に戻るシュウであった。

 一人取り残されたエイジは『退魔組』の若造達に、の『妖魔召士ようましょうし』と呼ばれた事を思い出すのだった。

「確かにこのままでは何も解決はしないまま、更に火種を生むことになるだろうな……」

 ぽつりとそう言い残した後、エイジもまた自分の長屋へと歩を進めるのだった。

 ……
 ……
 ……

「ふーむ。どうやら相当に根が深そうな問題のようだな」

 空の上で彼らの事情と事の成り行きを見守って会話を聴いていたソフィは、腕を組んだまま歩いていくエイジの後姿を見ながら、静かにそう言葉にするのだった。

 ……
 ……
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