最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第867話 未来を予見する野心家

「一体どういうつもりだ?」

 エイジがシュウに向けてそう告げるとシュウは首を傾げる。

「エイちゃんが何を言っているか分からないな」

「とぼけるんじゃない、ソフィ殿達の事だ。何故ソフィ殿達をゲンロクの元へと向かわせる?」

 エイジが本音をぶつけると誤魔化すような態度をとっていたシュウは、一度だけエイジから顔を背ける。やがて背けた顔を戻すと静かに口を開き始めた。

「俺はねエイちゃん、エヴィという少年が現れた時から、転機が訪れたと思ったんだよ」

「何……? 転機だと?」

「『妖魔退魔師ようまたいまし』達がこの町を去り、サイヨウ様も居なくなってからアイツらは本性を現した。今の『退魔組』を認めたくない『妖魔召士ようましょうし』達や、エイちゃん達を爪はじきにし、自分の思い通りに動く者達のみを傍に置き、治安を守る為と言いながらその実はやりたい放題だ」

「『ゲンロク』や『サテツ』の事を言っているのか」

 エイジの出した名を聞いて、シュウはコクリと頷いた。

「サイヨウ様が居なくなった後、今の『妖魔召士ようましょうし』の中で『ゲンロク』殿に表立っては立ち向かえる者は居なくなってしまった。あの野心家が本当にやりたい事が何か、エイちゃんなら分かっているだろう?」

「まずを手中に収めて『妖魔召士ようましょうし』の地位を確立させる。そして最後にはかつてのように『妖魔退魔師ようまたいまし』すら従わせる事か?」

「長きに渡ってこの世界の妖魔討伐を引き受けてきた『妖魔退魔師ようまたいまし』も今では、なりを潜めて『妖魔召士ようましょうし』がその役割を担っている。前回の『妖魔団の乱』でも、サイヨウ様やゲンロクやサテツ。それにエイちゃん達『妖魔召士ようましょうし』が活躍し『妖魔退魔師ようまたいまし』達は大して動きを見せず、エイちゃん達の活躍を見ているだけに過ぎなかった。アイツラの時代はもう終わったと至るところで囁かれている始末だ」

「……」

 ……
 ……
 ……

 彼らの話を気配を消して聴いていたソフィは、現在の『妖魔召士ようましょうし』と『妖魔退魔師ようまたいまし』の関係性を少しだが知る事が出来たのだった。

 この世界に来てから『妖魔召士ようましょうし』や、タクシン達のような『退魔士』と呼ばれる者達とは出会ってきたソフィだが、まだ『妖魔退魔師ようまたいまし』と呼ばれている者達とは顔を合わしてはいない。単純にこの町で姿を見ないだけだと思っていたが、どうやら『退魔組』が出来た事も相まって『妖魔召士ようましょうし』の数が増えた事に比例して『妖魔退魔師《ようまたいまし』はその数を減らしているようだった。

 確かに同じ妖魔を相手に討伐する役職のようなものなのだとしたら『妖魔召士ようましょうし』と『妖魔退魔師ようまたいまし』という二つも似て非なる組織がある事も色々と軋轢あつれき等があったのかもしれない。

 確かにその世界に生きる者達の力関係は、時代が変わるにつれて移り変わっていくものである。盛者必衰じょうしゃひっすいという言葉があるが、この世界でも御多分に洩れず、その流れに沿っていったのかもしれない。

 いや、もしかすると自然にその流れになったのではなく、先程から話題に出ていた野心を持っているという『ゲンロク』と呼ばれる男が、時代のせいで妖魔退治出来るものが少なくなったのを見越して『退魔組』なるものを作り『退魔士』を増やして、今の自分の地位を作り上げようと画策していたのかもしれない。

 『ゲンロク』という男とはまだ会ったことが無いソフィだが、全て計算していたとするならば、油断ならない男なのかもしれないとソフィはそう考えるのだった。

 ……
 ……
 ……

「しかしソフィ殿達をゲンロクの所に向かわせる事と、その事に一体何の関係があると言いたいのだ?」

「ソフィ殿に『退魔士』達が使っている新たな術式、その事を伝えた時ソフィ殿は恐ろしい形相をしていただろう?」

「ああ、どうやら彼は『式』にされた妖魔が、あの新たな術式で強引に従わされている現状を知っているようだったからな。サイヨウ様の教えでもある『妖魔召士ようましょうし』の心得を知る者であれば『退魔組』達のやり方は気に喰わないだろう」

「そうだ。そんな彼が『ゲンロク』と出会えばどうなるか、火を見るよりも明らかだとは思わないか? エイちゃん……」

「お主、まさか……。それが狙いでソフィ殿とゲンロクを会わせようというのか!」

 どうやらシュウという男はソフィという存在が、長屋の中で見せた怒りを見た時に自分のような『退魔士』やエイジのような『妖魔召士ようましょうし』と同じ感性を持っていると悟り、ゲンロクという男に会わせる事で現状を打破する為の新たな機転になり得ると感じたようであった。

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