最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第859話 驚きの声

「気を悪くなされるなソフィ殿。こやつは小生と古くからの付き合いだが、昔から厄介事に首を突っ込みたがる男なのだが、決して悪い奴では無いのだ」

 挨拶も程々にいきなり『サイヨウ』の友人だという事を疑うような聞き方をした、彼の古くからの友人だという『シュウ』のフォローを入れるエイジだった。

「いやそれは構わぬ。エイジ殿にもサイヨウの知り合いだという事は伝えたが、どこで知り合ったかまでは話をしては居らぬかったか?」

「『退魔組』の邪魔が入って小生もそこまでは聞いてはおらなんだ。しかし『妖魔召士ようましょうし』の心得や、サイヨウ様の教えは間違いがなかった。ソフィ殿は間違いなく『サイヨウ』様を知っている」

 エイジが途中からシュウのほうを向いて言って聞かせると、シュウは首を縦に振って頷く。

「そうか、だがサイヨウ様は……」

 しかしそこでシュウが言い淀む素振りを見せるのだった。その姿を見たエイジが静かに口を開いた。

「さて、それでソフィ殿。今一度確認しておきたいのだが、お主たちが『退魔組』の連中が言っていた『加護の森』に現れた『』で相違ないか?」

 それまでの話の流れから少し切り替わり、突然の核心を突くようなエイジの言葉に、ぎょっとした表情を浮かべるシュウだった。

 この情報は先程現れた『イバキ』と『スー』から聞いた話ではなく、既に『ミカゲ』からの『式』によって知らされた『退魔組』から漏れ出た話と、この裏路地に来た時のソフィの魔力を照らし合わせた結果、エイジはソフィたちこそが『退魔組』が血眼になって探している『二人組』だろうと決定づけたようであった。

 今エイジがソフィに尋ねている形だが、もう疑惑ではなくすでに確信を持っている。その事を理解しているソフィは、一度だけエイジの顔を一瞥した後、包み隠さずに話し始めるのだった。

「そうだ。どうやらお主はある程度を理解しているようだから、こちらの事情を全て話すとしようか」

 畳の上に胡坐をかいて座っていたシュウは、腕を組んで真剣にソフィの話を聞く態勢になり、同じくエイジもまた拳を握った左手を右手で包み、顎に手を持って行った。

「先日、我達は別の世界からこの世界にやってきた。たどり着いた場所は、お主らの言っておった『加護の森』という所だ」

「「!!」」

 加護の森に現れた二人組が、ソフィたちの事だろうという事は察していたが、それがまさか別の世界から来たと言われるとは思わなかった為、エイジたちは驚きの表情を浮かべた。

「我達がその森に降り立った直ぐ後『退魔組』とやらの者たちが大勢森に姿を見せたのだが、奴らはこちらの話を聞く前に我達を襲ってきたのだ」

「成程……。ソフィ殿程の大きな魔力を持った者が、突然『加護の森』に現れたことで、退魔組の退魔士達は、ソフィたちを人型の取れる妖魔だと勘違いして討伐をしようとしたワケだな」

 エイジも『妖魔召士ようましょうし』としての観点から同じ妖魔と戦う『退魔組』の隊士が、勘違いして襲ったのだろうと見当がついたようだった。

「当然我らも襲われて命を狙われた以上は黙ってはおれぬ『退魔組』とやら達の扱う魔物、ではなく妖魔だったか。犬やら鳥やらといった奴らの扱う『式』とやらを倒して払いのけたのだが、そこで『ミカゲ』と『シクウ』とやらの二人組が現れたのだ」

(『シクウ』とやらは誰か分からぬが、確か『ミカゲ』とやらは退魔組の幹部だった男だ。どうやら『加護の森』の結界を察知した『退魔組』は、ミカゲを指揮官として出向かせたという事だな)

 エイジはソフィの話から『退魔組』の内部の動きの凡その見当をつけながら、分析をして結論付けていく。

「そしてそこでその二人組も倒したのだが、そこで終わらずにまたもや次の人間達が現れたのだ」

 事の成り行きを順繰りに説明するソフィだったが、少しだけ声のトーンが下がった事で、彼のうんざりした様子が伝わってきた。

「待ってくれ。あんたは今『ミカゲ』を倒したと言ったが、ミカゲは『擬鵺ぎぬえ』という『式』を持つ『退魔組』の中でも有名な退魔士の筈だが、妖魔の擬鵺を出す前にミカゲを倒したという事か?」

 続きを話そうとしていたソフィに待ったをかけたのは、一度ソフィと対峙したエイジでは無く、ソフィの力量をよく知らぬシュウの方だった。 

「……『』? ああ、何やら奇妙な声を出す奴だったか」

 ソフィはミカゲの出した『式』がどういうモノだったかを思い返し、そこでようやく最初に戦った『擬鵺ぎぬえ』を思い出すのだった。

「そうだ『擬鵺ぎぬえ』は力が大して強くは無いが『呪詛』を使う為にランク『3』に匹敵するとされる恐ろしい妖魔の筈だ『退魔組』の上位の退魔士であっても太刀打ち出来るものはほとんどいない。そんな『擬鵺ぎぬえ』を操るミカゲをどうやって倒したというのだ?」

「確かに何やら鳴き声をあげておったが、我はその声を聴いても特に何ともなかったぞ?」

「なっ!?」

 『擬鵺ぎぬえ』の呪詛を直接聴いて何ともないと告げたソフィに、シュウは驚きの声をあげる。

 そしてそれまで黙って聞いていたエイジが口を開いた。

「ふむ……。つまりソフィ殿の耐魔力は、、影響を及ぼさない程の強さだという事だろうな」

 シュウは驚いていたがエイジはそこまで驚く事は無かった。何故なら裏路地に入ってきた時に展開したエイジの『結界』は、妖魔の力に換算すればランク『4』から『4.5』に該当する魔力であった。

 そんなエイジの結界を回避して見せた存在が『擬鵺』程度のランク『3』未満の妖魔の攻撃にやられるとは到底思えなかったのである。

「ふん、ミカゲとかいう人間もその妖魔とかいう『式』も大したことは無い雑魚だったが、面倒なのはその後の奴だった」

「その後の奴? まだ森に向かった退魔士が居たのか」

 それまで静かだったヌーの言葉に、反応を見せたエイジだった。

「うむ『タクシン』とやらは我から見てもお主の戦力値と同じくらいだと判断した。しかしまぁ戦闘となれば、お主には何の心配もせんかったがな」

「当然だろう? 確かにアイツの戦い方は面倒だったが、判断速度は『魔界』の連中や『煌聖の教団こうせいきょうだん』の幹部共よりも遥かに鈍かった。一つ一つの行動にあれだけ時間を要するような奴に俺がやられる筈がなかろう」

 ヌーの言葉に嘘はない。あの戦闘において、ヌーはまだまだ余力を残していた。

 その気になれば膨大な魔力を費やして『死司降臨アドヴェント・デストート』を使って呼び出した死神貴族の『テア』を使っての連携や、他にも多くの戦術が脳内に描かれていた。

 『タクシン』という人間は、取るに足らない雑魚とまではいかないが、ヌーにとっては十回やれば十回とも間違いなく勝てると、絶対の自信を持ってそういえる相手であることに間違いはなかった。

「お主が『タクシン』を……!」

 ミカゲの時は驚きが無かったエイジだが、流石に『タクシン』を倒したという言葉には、興味を示したようだった。

「た、退魔組の『タクシン』といえば、最高幹部の一人だった筈だ! 先の『妖魔団の乱』の襲撃時で鬼人級の妖魔を『式』にした事で知られる『特別退魔士とくたいま』の一人だぞ!?」

 『擬鵺ぎぬえ』の時以上に驚きの声をあげるシュウだったが、その声が煩わしかったのか、小さく舌打ちをするヌーだった。

「俺が倒したのはタクシンって人間だけだ『式』の方はコイツが相手をしたんだよ」

 そっぽを向きながらヌーは、面倒臭そうに説明をする。そしてその言葉を聴いた『エイジ』と『シュウ』は再びソフィの方を見るのだった。

「うむ。動忍鬼は我が相手をしたが、あやつが『式』とやらの契約が途切れた後は、そのまま山に返したがな」

「「……!」」

 ソフィの言葉を聴いたエイジとシュウはそれぞれ顔を見合わせた。二人は同じ無言ではあったが、考えていることはそれぞれ異なっている。シュウの方は『鬼人』である動忍鬼と戦い、五体満足でいられた事に驚き、そしてエイジの方はソフィが戦った後に動忍鬼を山に返したという事に、思うところがある様であった。

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