最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第854話 激昂するエイジ

「同志達と揉めている事と俺達がこの場に現れた事は、本当に関係が無く偶然だったのですよ」

 エイジがいつでも戦える態勢を整えていると、察しているイバキは事の詳細をゆっくりと話始める。現在長屋の戸の前から少し前に出た路地。その通路の真ん中にエイジが立っており、そこから少し離れた先に刀鞘に手を当てて、イバキを守るように立っているのが『スー』である。

 更にはそのスーから気持ち間合いを取れる程の距離の先にイバキが立っており、そこからエイジに向けて弁明をしている形である。

「……」

 エイジはその言葉を聞いても今度は無言だった。聞きたいのはそんな事では無く、聞きたいのはその先の、何故この場に『特別退魔士とくたいま』が現れたかである。

「『加護の森』に恐ろしく強い『人型の妖魔』が二体現れたそうです。そして『妖魔召士ようましょうし』の方々の会合を終えた直後、この伝令が俺達『退魔組』の『上位退魔士じょうたいま』の者達から伝わりました」

 真剣な表情に変えたイバキが自分の知り得る情報を淡々と話始めた。そしてそれを聞いて、ようやくエイジは口を開いた。

「『人型の妖魔』が二体だと申したな。その種族は何だ? 鬼か狐かそれとも犬神か?」

「そ、そこまではまだ分かりませんが、こちらで今把握しているのは、その二人組が俺と同じ階級の『特別退魔士とくたいま』と交戦中のようなのです」

「ふん! その『特別退魔士とくたいま』の有する『式』は何を使っていた?」

 退魔組の屯内であれば『特別退魔士とくたいま』が、出向く事態と聞かされたならば、ざわつきどころか大騒ぎになるところだが、イバキにその話を聞かされても対してエイジは驚かずに冷静にその『特別退魔士とくたいま』が使役していた『式』を聞くのだった。

「退魔組の『特別退魔士とくたいま』である『タクシン』殿が使役する『式』は『鬼人』でランクは3で名は『動忍鬼どうにんき』。上の見解は森に現れた二人組の妖魔は、仲間の妖魔を解放する為に動いたとみられており、現在『サテツ』……様が、組織した『下位』と『中退魔士』多数の捜索班が加護の森周辺一帯を調べていますが、現在は消息不明との事です」

 イバキは淡々と起こった出来事を告げていく。どうやら直接自分で見たわけでは無く、屯所に戻った後にサテツに聞かされた内容をそのままエイジに話しているようであった。

「ランク3の『鬼人』が野に放たれたか」

 動忍鬼と呼ばれた妖魔の事は『ソフィ』達が解放したのだが、その事を知らないエイジは少し警戒するようにそう呟く。

 それまでまだ冷静だったエイジだったが、次に告げるイバキの言葉に目の色を変えるのだった。

「どうやらタクシン殿は二人組に対して有する『動忍鬼』をぶつけたようだけど、それでもやられたところを見ると、その二人組はランク4以上だと推測されますね」

「待て『特別退魔士とくたいま』本人が戦ったのではなく、二人組の妖魔を相手に鬼人の妖魔をぶつけたのか?」

 エイジは返ってくるであろうイバキの言葉を想像出来たが、それでも何かを期待してイバキにそう聞くのであった。

「そりゃあ当然そう言う事でしょう。俺達『特別退魔士とくたいま』程ともなれば『』も、『』も扱える。それに冷静さを失わせて暴走させる事で使役する妖魔の力を増幅させる事も出来る。相手が同胞の妖魔であろうとタクシン殿の思うが侭に操れたこと……で、しょう……!」

 すらすらと当然の事だと思って話をしていたイバキだったが、そこで聞いていた相手であるエイジが苛立ちを剥き出しにしているのを察し、言葉の語尾が弱まっていくのだった。

「『縛呪の行』は『式』にした妖魔の自我を強制的に失わせる術! そのような類の『行』は昔から使わないようにと教えられた禁術の筈だぞ!」

 エイジも当然今のイバキが告げた術の数々は会得している。しかし先代や先々代といった『妖魔召士ようましょうし』の先輩から『縛呪の行』は使ってはならぬと教えられており、伝統や先代の教えを強く重んじる『エイジ』という『妖魔召士ようましょうし』は使おうとは毛ほどにも思っておらずにまた、それは『退魔士全体のルール』だとしていた。

 『退魔組』は『妖魔召士ようましょうし』とは違うとはいっても同じ妖魔から人間を守る者同士、退魔士全体のルールだと思い込んでいた。しかし目の前に居るイバキという『特別退魔士とくたいま』の発言は、そんな禁術を使う事が当然だと言っているように感じられた。

 『鬼人級』の妖魔が逃げ出したという事よりもずっと、その退をエイジは許せなかったようである。

「そんな退魔士は殺されて当然! お主もそれを良しとするような退魔士であるか!?」

 生粋の『妖魔召士ようましょうし』の『エイジ』が怒号を発すると、彼から恐ろしい程の殺気がイバキとその前に居るスーに放たれた。

「ぐっ……!」

「ううっ……!」

 イバキとその前に居るスーの二人は、エイジの殺気をその身に浴びて脂汗を流しながら苦しみ始める。

 もしこの場に先程の『退魔組』の若衆が残っていれば、エイジのこの殺気に耐えきれずに、気を失わされていただろう。正気をまだ保っていられるだけ『イバキ』と『スー』は、相当の実力者であるといえたのだった。

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