最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第842話 文無しの一行

「この町で姿を消したというのは、ならず者たちが現れて人を攫ったとか、そういう類の話なのか?」

「いや、そうじゃない。実はこの近辺の妖魔達はこの町に住む人間達を目の敵にしているみたいでね。最近は僕たち『退魔組』や『妖魔召士ようましょうし』の方々が町に結界を張ったりして、近づけないようにはしているのだけど、町を出る用事がある者達が相次いで奴ら……。妖魔達に拉致されたり、殺されたりしているみたいなんだ」

「なるほど、そう言う事か」

 この話はイバキにとっては相当に重要な事のように思っているらしく、先程までのニコニコとしていた雰囲気とはうってかわり、とても辛そうな表情を浮かべながらそう口にするのだった。

 どうやらソフィの探し人というヌーの話をイバキがすぐに信じたのには、町人たちからよく相談を受けていたという理由からなのだろう。

(おいソフィ。もういいだろう? こいつは森で襲ってきた連中の仲間だぞ? 下手に関わりを持てば必ず面倒な事になる。もう放っておけや)

 ようやくイバキが信用したというのに、わざわざ話を蒸し返すような質問を行ったソフィにヌーは、内心で舌打ちをしていた。

(すまぬ……。こやつの表情の変化に興味がわいてしまったのだ。我とて『退魔組』とやらと再び争うつもりは無い。食事を終えたら直ぐに店を出るとしよう)

 ヌーの苛立ちのこもった視線と、波長の合った『念話テレパシー』を送られたソフィは、すまぬとヌーに謝罪をするのだった。

 元々この世界へは『エヴィ』というソフィの配下を探しに来ている。約束はしたとはいっても『ヌー』達を付き合わせている事には変わりはない。ソフィはそう考えて、イバキとの話を早急に終えてエヴィを探す為に別の場所へ向かおうと考えるのだった。

「いや、長々とすまなかったな。これを食べたら我達は、再び仲間を探しに行こうと思っている」

 ソフィが目の前のを指さしながらそう言うと、イバキは先程と同じ笑顔を作り頷いた。

「こちらこそ、すまなかった。麺が冷めた上に伸びてしまったのは俺のせいだね。君たちの支払いも俺がしておくよ」

 そう言われたソフィは、という表情を浮かべた後、対面に居るヌーの方を見る。

 そしてヌーもまたソフィが何を言いたいのかに気づいたのだろう。ヌーも失念していたのか『その事実』に気づいて溜息を吐いていた。

 二人が気づいたその事実とは――。

 ―― 

 という事であった――。

 本来であれば遠慮をするソフィだったが、文無しだという事に気づいたソフィ達は、イバキの言葉に甘える他に選択肢が取れなかった。ここで遠慮をしたところで、今度は店に迷惑をかけてしまう事になる。魔瞳である『金色の目ゴールド・アイ』を使ってソフィ達の存在を忘れさせたりでもすれば、追われる事も無いのだろうが、ソフィはそんな事をするつもりは毛頭無かった。


 美味しい食事を頂いたというのに、そんな非人道的な真似をする事はソフィには耐えられないのであった。そして少しだけ予想外だったのは、代金を踏み倒しても問題無さそうなイメージのヌーが『金色の目ゴールド・アイ』を使えだのなんだのと言わずにテアの方を見ている事であった。

 テアはそんなヌーの視線を感じて嬉しそうに食べていた手を止めて、そっと皿を置いていた。それを見たヌーはギロリと視線をソフィに送った後『念話テレパシー』を送ってきた。

(ソフィよ、ここはソイツの言葉に甘えておけ。お前は納得出来ないかもしれないが、俺達はこの世界の金がねぇ)

 ヌーの言葉を聞いたソフィは、仕方あるまいと頷く他無かった。

「イバキとやら。すまないがその言葉に、甘えさせてもらってもよいだろうか? 実はこの食事処に入ったのはいいが、余りに珍しい食べ物が多くて、頼み過ぎてしまったようで持ち合わせに不安が生じていた所だったのだ……」

「がっはっはっはっは!」

 突然のソフィのその言葉に、イバキの向かいに座っていた男が豪快に笑い始めた。

「突然どうしたんだい? 

 イバキにスーと呼ばれた、オールバックの男は口を開いた。

「いやなに、持ち合わせが無いというのに堂々と食事をしている上に『退魔組衆』の俺達に話しかけて来るとは、何たる豪胆を持ち合わせておるかと思ってな」

 そう言ってスーと呼ばれた男は豪快に笑うのだった。

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