最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第839話 ヌーの新たな一面
ソフィは奥の座席で頼んだ食事を待っていた。
蕎麦という食べ物を頼んでいたソフィは、ヌーに茹でた麺を丼にぶちこんだあったかい食べ物と聞き、実際にどのような食感なのかと期待に満ち満ちているのだった。
蕎麦を教えてくれたヌーは先程から、契約で呼び出した『死神貴族』だという人間の少女にしか見えない『テア』と掛け合いを楽しんでいるようだった。
どうやらヌーはテアを相当に気に入っているようで、昔からは信じられない程に柔和な笑みを自然に作りだしている。ソフィがその様子を微笑ましく思っていると、隣の座席から気になる声が聞こえてくるのだった。
「そういえば、加護の森の話は聞いたか?」
「ああ、俺は『ミカゲ』様の『式』で知ったから森へは向かわなかったが、先に同志達の通達で森へ向かった者達は手痛くやられたらしいな」
「例の二人組の事だろう? タクシン様と護衛のタシギ様が動いたと聞いたが」
「近頃の妖魔共は手強くなってきているからな『特別退魔士』の方々があちらこちらに出向いている現状は、ケイノトの町にとっても良くない傾向だ」
「そうだな……。同志達に聞いた話なんだが、俺達退魔組衆の事を『サカダイ』の奴等が馬鹿にしていたらしいぞ」
「くそっ! あの町の連中は本当に陰険な連中が集まっていやがるな。バックに『妖魔退魔師』が居るからって『予備群』の奴らも調子にのっていやがる!」
ソフィ達の隣の座席に居た四人組は、会話の中で少しずつ声が大きくなっていく。 『加護の森』に居た二人組とやらはソフィ達の事だろう。
先程この座席に来る時に見えたテーブルの上のお面はやはりソフィ達を森で襲ってきた連中が、つけていた面と同じだったようで、どうやらこの者達はミカゲが言っていた『退魔組衆』とやらで間違いがなさそうである。
ソフィが隣の座席に耳を傾けているのを察したのだろう。前に居たヌー達はいつの間にか、掛け合いをやめてソフィの顔を見ていた。どうやらヌーもテアもソフィの様子に気づき、その背後に居る四人組の存在を知って話を聞いていたようである。ソフィはヌーに向けて、声を出さずに唇だけを動かす。
(『念話』を聞き取れるように波長を合わせろ)
ヌーはソフィの唇の動きを読唇術で読み取って、煩わしそうにしながらも軽く首を縦に振った。
(ここで情報を集めるのはやめる事にしよう。食事を済ませたら場所を変えるぞ)
(ここは奴等の本拠地がある町だ。今更だろう? 俺達が場所を変える必要はないと思うが?)
(お主は奴等に『エヴィ』の居場所を聞けというのか?)
ソフィは流石にそれは無いだろうと言いたげに、ヌーを驚いた様子で視線を送る。
ヌーはその視線に気づいて、鼻を鳴らしながら笑みを浮かべた。
(流石にそこまで馬鹿じゃねぇよ。アイツらは組織ぐるみで動いているんだろう? どうせ上から指示が下れば直ぐにこの場から出ていくだろうよ。奴等が居なくなった後に、この飯屋に居る連中に聞けばいい)
(なるほど。何も我達が出て行かなくても奴等が勝手に出ていくとそう言いたいのか)
(どうせここを出ても町中に面をつけた連中が蔓延っていやがるんだ。だったら怪しまれていない今のうちに、聞ける内に聞いておく方がいい。それに最終的にはバレて揉める事になるだろうからな。最悪『金色の目』を使って話をさせてもいい)
最初は頷ける内容だったが、最後の方のヌーの言葉に何とも強引で暴力的な解決法を提案するものだと、ソフィは苦々しく思うのだった。
ソフィとヌーが『念話』で会話をしている横でテアは品書きを手に取って、口笛を吹きながら眺めていた。どうやら二人が『念話』で話をしているという事は気づいているようだが、桃髪が目立つ彼女はそちら会話に興味が無いようで、我関せずを地でいっているようである。
そこにソフィ達が頼んだ物を御盆にのせて、先程の女性店員と数人の別の従業員が声を掛けてきた。
「いやー大変お待たせしましたぁ『かけ蕎麦』と『はも』。それに『ケイノト』の名物の『懐石料理』ですぅ」
ソフィは『蕎麦』ヌーは『はも』を頼んではいたが、別にテアは何も頼んでいなかった筈である。テアも自分の前に次々と置かれていく料理を前に首を傾げながら、料理と自分を交互に指さしをする。
――間違ってるよ? という意味のジェスチャーだった。
「ああ、俺が頼んだんだよ。てめぇだけ食わせねぇわけにはいかねぇだろ?」
その言葉にテアだけでは無く、ソフィもこれまでの比では無い程に今日一番といった様子で驚く。
「……? ほな、よろしおあがりやす」
『ごゆっくりどうぞ』という意味だろうか。ここまで配膳をしてくれた女性たちはそう言って、座席から去っていくのだった。
しかしソフィは店員達に礼を言う事が出来ず、先程に起きた事象に驚いた表情を浮かべ続けていたのだった。
「お、お主にそんな気配りが出来るとは。ほ、本当にお主はヌーなのか?」
「ちっ! 俺を何だと思っていやがる! 自分のツレくらいには、飯を食わせるのが当たり前だろうが。てめぇらだけ堂々と飯を食って、横で見ていられる方が落ち着かねぇよ」
ソフィの視線に慌ててヌーはそう言って、さっさと食えとばかりにテアの置かれている料理の場所のテーブルを軽くたたくのだった。
「――」 (……ありがとう)
テアも自分が食べられるとは思っていなかったようで、そこで自分の前に並べられている料理の数々を見て目を輝かせる。
「ふん、しかしちょっと品数が多いんじゃねぇか?」
「――」(大丈夫、全部いただくよ)
「そうかよ、まぁ無理はするな」
ヌーはテアが取りやすいように、丁寧にお皿の位置を変えていく。食べやすく手前においてあげた後、ヌーは満足そうに頷きを一つ。それを最後にヌーは、ようやく自分の料理に手を伸ばすのだった。
ソフィはその始終を見ながら、時が止まったかのように動きを止めていた。
(し、信じられぬ、コイツ本当はとてもいい奴なのではないか?)
ソフィの頭の中から背後の四人組の事や、大事な配下である『エヴィ』の事がこの時ばかりは消え去るのだった。
それ程までに信じられない光景をソフィは見たという事であった。
蕎麦という食べ物を頼んでいたソフィは、ヌーに茹でた麺を丼にぶちこんだあったかい食べ物と聞き、実際にどのような食感なのかと期待に満ち満ちているのだった。
蕎麦を教えてくれたヌーは先程から、契約で呼び出した『死神貴族』だという人間の少女にしか見えない『テア』と掛け合いを楽しんでいるようだった。
どうやらヌーはテアを相当に気に入っているようで、昔からは信じられない程に柔和な笑みを自然に作りだしている。ソフィがその様子を微笑ましく思っていると、隣の座席から気になる声が聞こえてくるのだった。
「そういえば、加護の森の話は聞いたか?」
「ああ、俺は『ミカゲ』様の『式』で知ったから森へは向かわなかったが、先に同志達の通達で森へ向かった者達は手痛くやられたらしいな」
「例の二人組の事だろう? タクシン様と護衛のタシギ様が動いたと聞いたが」
「近頃の妖魔共は手強くなってきているからな『特別退魔士』の方々があちらこちらに出向いている現状は、ケイノトの町にとっても良くない傾向だ」
「そうだな……。同志達に聞いた話なんだが、俺達退魔組衆の事を『サカダイ』の奴等が馬鹿にしていたらしいぞ」
「くそっ! あの町の連中は本当に陰険な連中が集まっていやがるな。バックに『妖魔退魔師』が居るからって『予備群』の奴らも調子にのっていやがる!」
ソフィ達の隣の座席に居た四人組は、会話の中で少しずつ声が大きくなっていく。 『加護の森』に居た二人組とやらはソフィ達の事だろう。
先程この座席に来る時に見えたテーブルの上のお面はやはりソフィ達を森で襲ってきた連中が、つけていた面と同じだったようで、どうやらこの者達はミカゲが言っていた『退魔組衆』とやらで間違いがなさそうである。
ソフィが隣の座席に耳を傾けているのを察したのだろう。前に居たヌー達はいつの間にか、掛け合いをやめてソフィの顔を見ていた。どうやらヌーもテアもソフィの様子に気づき、その背後に居る四人組の存在を知って話を聞いていたようである。ソフィはヌーに向けて、声を出さずに唇だけを動かす。
(『念話』を聞き取れるように波長を合わせろ)
ヌーはソフィの唇の動きを読唇術で読み取って、煩わしそうにしながらも軽く首を縦に振った。
(ここで情報を集めるのはやめる事にしよう。食事を済ませたら場所を変えるぞ)
(ここは奴等の本拠地がある町だ。今更だろう? 俺達が場所を変える必要はないと思うが?)
(お主は奴等に『エヴィ』の居場所を聞けというのか?)
ソフィは流石にそれは無いだろうと言いたげに、ヌーを驚いた様子で視線を送る。
ヌーはその視線に気づいて、鼻を鳴らしながら笑みを浮かべた。
(流石にそこまで馬鹿じゃねぇよ。アイツらは組織ぐるみで動いているんだろう? どうせ上から指示が下れば直ぐにこの場から出ていくだろうよ。奴等が居なくなった後に、この飯屋に居る連中に聞けばいい)
(なるほど。何も我達が出て行かなくても奴等が勝手に出ていくとそう言いたいのか)
(どうせここを出ても町中に面をつけた連中が蔓延っていやがるんだ。だったら怪しまれていない今のうちに、聞ける内に聞いておく方がいい。それに最終的にはバレて揉める事になるだろうからな。最悪『金色の目』を使って話をさせてもいい)
最初は頷ける内容だったが、最後の方のヌーの言葉に何とも強引で暴力的な解決法を提案するものだと、ソフィは苦々しく思うのだった。
ソフィとヌーが『念話』で会話をしている横でテアは品書きを手に取って、口笛を吹きながら眺めていた。どうやら二人が『念話』で話をしているという事は気づいているようだが、桃髪が目立つ彼女はそちら会話に興味が無いようで、我関せずを地でいっているようである。
そこにソフィ達が頼んだ物を御盆にのせて、先程の女性店員と数人の別の従業員が声を掛けてきた。
「いやー大変お待たせしましたぁ『かけ蕎麦』と『はも』。それに『ケイノト』の名物の『懐石料理』ですぅ」
ソフィは『蕎麦』ヌーは『はも』を頼んではいたが、別にテアは何も頼んでいなかった筈である。テアも自分の前に次々と置かれていく料理を前に首を傾げながら、料理と自分を交互に指さしをする。
――間違ってるよ? という意味のジェスチャーだった。
「ああ、俺が頼んだんだよ。てめぇだけ食わせねぇわけにはいかねぇだろ?」
その言葉にテアだけでは無く、ソフィもこれまでの比では無い程に今日一番といった様子で驚く。
「……? ほな、よろしおあがりやす」
『ごゆっくりどうぞ』という意味だろうか。ここまで配膳をしてくれた女性たちはそう言って、座席から去っていくのだった。
しかしソフィは店員達に礼を言う事が出来ず、先程に起きた事象に驚いた表情を浮かべ続けていたのだった。
「お、お主にそんな気配りが出来るとは。ほ、本当にお主はヌーなのか?」
「ちっ! 俺を何だと思っていやがる! 自分のツレくらいには、飯を食わせるのが当たり前だろうが。てめぇらだけ堂々と飯を食って、横で見ていられる方が落ち着かねぇよ」
ソフィの視線に慌ててヌーはそう言って、さっさと食えとばかりにテアの置かれている料理の場所のテーブルを軽くたたくのだった。
「――」 (……ありがとう)
テアも自分が食べられるとは思っていなかったようで、そこで自分の前に並べられている料理の数々を見て目を輝かせる。
「ふん、しかしちょっと品数が多いんじゃねぇか?」
「――」(大丈夫、全部いただくよ)
「そうかよ、まぁ無理はするな」
ヌーはテアが取りやすいように、丁寧にお皿の位置を変えていく。食べやすく手前においてあげた後、ヌーは満足そうに頷きを一つ。それを最後にヌーは、ようやく自分の料理に手を伸ばすのだった。
ソフィはその始終を見ながら、時が止まったかのように動きを止めていた。
(し、信じられぬ、コイツ本当はとてもいい奴なのではないか?)
ソフィの頭の中から背後の四人組の事や、大事な配下である『エヴィ』の事がこの時ばかりは消え去るのだった。
それ程までに信じられない光景をソフィは見たという事であった。
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