最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第835話 王者としての振る舞い

 門人の一人が門を開けに歩き始めたかと思うと、先程ソフィと話をしていた方の門人が口を開いた。

「お引き止めして申し訳ありません。どうぞ、中へお入りください」

 そう門人が言い終わると同時に、ケイノトの入り口の門が開いた。どうやら門人達の間でソフィ達を通しても問題は無いだろうと、判断したようだった。

「うむ、どうやら混乱をさせたようですまなかったな。無理を承知で通してもらえる事を感謝するぞ」

「いえ、お手数をおかけしました。先程も少しお伝えしましたが『加護の森』に現れた『という事で、ケイノトの町の中の退魔士たちの間で混乱が生じておりまして、
 少々慌ただしくなっていますがご容赦下さい」

 その森に現れた二人組の妖魔とやらは自分達の事なのだろうなと、内心では理解をするソフィだった。そして門の両脇に門人達が移動し、ソフィ達を中へ入れる為の道を開け始める。

「それでは通させてもらう」

「はい、どうぞお通り下さい」

 門人達が会釈をする中ソフィ達は、遂に『ケイノト』の町へと一歩踏み出すのだった。

 ソフィ、ヌー、テアの三体が全員町の中へ入ると同時、後ろでガラガラと門が再び閉まる音が響き始める。完全に門が閉じ終わった後、横に居たヌーが厭な笑みを浮かべながらそっとソフィに言葉を掛けてくるのだった。

「ククククッ、てめぇも役者じゃねーか。よくもそんなにホイホイと、適当な嘘が出て来るもんだな?」

 ソフィの咄嗟の機転を利かせた口上を隣で聞いていたヌーは、見事に門人たちを騙しきったソフィを褒めるようにそう言うと、ソフィもまた静かに笑みを見せた。

「クックック、ミカゲとタクシンという者達の言葉が耳に入っていたのが大きかったな。それにここに来るまでにあった、崖の向こうの森の事をシクウ殿に聞いていたのも大きかった」

 『加護の森』からここまで歩いてきた道中。崖の向こうの森は結界があったが、ケイノトの者達は向こう側に干渉しないという話を聞いていた為、ソフィは門人の言っていた町の名『サカダイ』と『ケイノト』の関係性を考えて確率の高い発言を行って上手く真実味を持たせたのであった。

 しかし辻褄や言い訳も見事ではあったが、門人達がソフィの言葉を聞いて中へ通してもいいだろうと、
 納得した事には別の観点が存在していた。

 まず一つ目に彼らとっていたメモ用紙にあるように、本当にケイノトとサカダイの間で会議があった事。そして二つ目に数刻前に『ミカゲ』から森に現れたという情報を知らされていたという事。

 ――そして三つ目。説明を行っていたソフィの態度が、あまりに堂々としていた事であった。

 少しでも嘘が混じっていたり、作られた言い訳であったならば、目がどこか泳いだり自信無さげに話したりするものである。だが、門人達に対して説明をするソフィの態度は、堂々としておりそれどころか反論をすればお前達は『上に後からどんなお叱りが下るかわかったものでは無いぞ。それでもいいのか』とばかりに、確固たる自信をこれでもかとばかりにソフィは表に出して喋っていた。

 あんな態度をとるものが嘘をついていると、聞いている者の誰が思うだろうか?

 本当はそんな真実は無いというのに、まさに本当の事のように話すソフィの態度に門人たちは、ころりと騙されてしまったのであった。

 これまで気が遠くなるほどの年月。魔界の王として生きてその振る舞いに心底慣れているソフィにとっては、たかが百にも満たぬ年月を生きていない人間程度では、到底推し量れるものでは無かったようである。

 ――しかし万が一の過程の話だが、ケイノトの門を守っていた門人が『エルシス』や『ミラ』といった人間であったならば、少しでも違和感を感じた時点で中に入れる事を拒否していただろう。

 そうなればソフィ達も対応を変えざるを得なかっただろうが、流石にそこまでの気概を一般の門人達に求めるのは酷というものである。

 何はともあれ当初の予定通り、ソフィ達はへと、足を踏み入れる事に成功するのだった。

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