最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第788話 呪いと死を司る大魔王
ヌーは特別牢への扉を開けると一階層分の階段を見つけるのだった。
この階段を下りた先に、ヌーが捕らえられている牢屋がある。当然、この場でも先程と同じ結界が張られているが、それとは別にこの魔王城の持ち主である、ソフィの結界も張られている。
――この特別牢に張られている結界。
その通称は『死の結界』。
この中では大魔王フルーフであろうとも、正攻法では魔法は使えない。使った瞬間にフルーフの魔力は枯渇し、当然使おうとした魔法も発動はしない。
この世界に今はソフィが居ない為、ソフィにフルーフの魔力は感知はされないだろうが、代わりにブラストやディアトロスに伝わり、めざとくこの場所へやってこられてしまうだろう。別にフルーフであれば見つかったとしても牢屋に入れられるようなことは無いだろうが、信用を失ってしまい今後はあまり宜しくない対応をされてしまうのは間違いがないだろう。
だが、フルーフは別にこの場に戦う為に来たわけでは無い。
あくまで彼は、ヌーと対談と交渉を目的に来たのである。
階段を下りて少しだけ歩いていくと、向かい合わせになっていた地下牢より、一際大きな牢が姿を見せた。そこまで歩いていき、牢の中を覗くと大魔王ヌーが牢の中の中央に座り、侵入者である大魔王フルーフを睨むように見上げていた。
「よう、お前か。一体何しに来やがった?」
「お前との決着をつけに来たのだ」
その言葉を聞いた時、牢の中に居たヌーは笑みを浮かべて立ち上がった。
この場では魔法は使えない為『魔瞳』や『呪文』を使っての戦いとなるだろう。
「勘違いをするなよ? この場でお前と戦いに来たわけでは無い」
「ほう? そんな冷酷な目をして殺気を俺に放っている奴が告げる台詞では無いと思うがな」
一歩また一歩と牢屋の中に近づいていき、やがて鉄で出来た牢の格子の前まで辿り着いたフルーフ。
その鉄格子には神聖魔法である『聖動捕縛』が掛かっている。しかし構わずにその格子を右手で掴みながら『フルーフ』は苛立ち交じりの声を出した。
「大魔王ヌーよ。ワシはお前が憎くて憎くて仕方が無い。今すぐに貴様に死んだ方がマシだと思う程の苦しみを与え、生まれてきた事を後悔させた後、呪いをかけて魂を縛り、永遠に地獄のような日々を過ごさせてやりたい」
フルーフの怨嗟の言葉は聞く者によっては、震えあがる程の恐ろしさがあったが、ヌーはその言葉を発するフルーフに笑みを向けて口を開いた。
「それで?」
「この件が片付いたらお前はワシと正々堂々と一対一で戦え。そしてワシがお前に勝てたら、ワシの言う事を一つ聞いてもらう」
そのフルーフの言葉にそれまで笑みを浮かべていたヌーは、眉を寄せながら初めて怪訝そうな顔を浮かべた。
「それは、俺を自由にするという事か?」
「ああ。ソフィが配下を取り戻して全てが終わった後に、自由に動けるお前と戦うと言っている」
「解せんな。何故わざわざ自由になるまで待つというのだ? 俺を殺すつもりなら、座標を教えた後にやればいい」
どうせ殺すつもりなら回りくどい事をせず、やればいいと告げるヌーにフルーフは再び口を開く。
「貴様は昔、セコイ真似をしてワシを捕えた事で、ワシより強いと勘違いしておるようだったからな。もう一度しっかりと正面から戦い、力の差というものを理解させてやろうと思ったのだ」
その言葉は交渉の座につかせるために用意したフルーフにしては、稚拙な舌端だったがヌーを苛立たせるには十分だったようだ。
「てめぇは実力で俺に負けたんだよ」
「それは違うな。ワシの油断もあったのは間違いは無いが、お前に負けたわけでは無い。負けたとすれば、巧妙で念入りに結界に誘導してみせたあのミラという人間に負けたと言える。たかがお前如き魔族に負けるワシでは無いわ」
「あんだと? いいだろう……。てめぇの安い挑発に乗ってやる! 約束通りあの化け物が、配下を取り戻しやがった後、てめぇはこの俺が八つ裂きにしてやる!」
「その前に約束をしろ。ワシがお前に勝てばワシの言う事を一つ聞くと」
「上等だ! 俺が負けたらてめぇの言う事どころか、てめぇの部下にでも、何でもなってやる!」
そう言い放ったヌーは次の瞬間、全身から血の気が引く感覚を覚えた。その理由としてこれまでとはまた、別の殺意のこもった『フルーフ』の目を見てしまったからである。
「言質は取らせてもらったぞ、ではソフィの件が片付いたらお前に改めて会いに行くとしよう。それまでに覚悟をしておけ」
そう言うとフルーフは、掴んでいた鉄格子から手を離す。
神聖魔法が掛かっている鉄格子は、無残にもドロドロと溶けていたが、次の瞬間には元通りになっていく。そして冷酷なその視線をヌーから外してフルーフは来た道を帰っていき、やがて特別牢からその姿を消すのだった。
フルーフが特別牢から出て行ったあとも、ヌーは鉄格子の前で立ち上がったまま動かなかった。
――いや、正しくは動けなかったのである。
「上等だ、殺してやるよ!」
フルーフが居なくなって数分が経ち、ようやく震えが収まったヌーは、鋭利な牙を剥き出しにしながら明確な殺意を込めた声を吐き出すのだった。
……
……
……
この階段を下りた先に、ヌーが捕らえられている牢屋がある。当然、この場でも先程と同じ結界が張られているが、それとは別にこの魔王城の持ち主である、ソフィの結界も張られている。
――この特別牢に張られている結界。
その通称は『死の結界』。
この中では大魔王フルーフであろうとも、正攻法では魔法は使えない。使った瞬間にフルーフの魔力は枯渇し、当然使おうとした魔法も発動はしない。
この世界に今はソフィが居ない為、ソフィにフルーフの魔力は感知はされないだろうが、代わりにブラストやディアトロスに伝わり、めざとくこの場所へやってこられてしまうだろう。別にフルーフであれば見つかったとしても牢屋に入れられるようなことは無いだろうが、信用を失ってしまい今後はあまり宜しくない対応をされてしまうのは間違いがないだろう。
だが、フルーフは別にこの場に戦う為に来たわけでは無い。
あくまで彼は、ヌーと対談と交渉を目的に来たのである。
階段を下りて少しだけ歩いていくと、向かい合わせになっていた地下牢より、一際大きな牢が姿を見せた。そこまで歩いていき、牢の中を覗くと大魔王ヌーが牢の中の中央に座り、侵入者である大魔王フルーフを睨むように見上げていた。
「よう、お前か。一体何しに来やがった?」
「お前との決着をつけに来たのだ」
その言葉を聞いた時、牢の中に居たヌーは笑みを浮かべて立ち上がった。
この場では魔法は使えない為『魔瞳』や『呪文』を使っての戦いとなるだろう。
「勘違いをするなよ? この場でお前と戦いに来たわけでは無い」
「ほう? そんな冷酷な目をして殺気を俺に放っている奴が告げる台詞では無いと思うがな」
一歩また一歩と牢屋の中に近づいていき、やがて鉄で出来た牢の格子の前まで辿り着いたフルーフ。
その鉄格子には神聖魔法である『聖動捕縛』が掛かっている。しかし構わずにその格子を右手で掴みながら『フルーフ』は苛立ち交じりの声を出した。
「大魔王ヌーよ。ワシはお前が憎くて憎くて仕方が無い。今すぐに貴様に死んだ方がマシだと思う程の苦しみを与え、生まれてきた事を後悔させた後、呪いをかけて魂を縛り、永遠に地獄のような日々を過ごさせてやりたい」
フルーフの怨嗟の言葉は聞く者によっては、震えあがる程の恐ろしさがあったが、ヌーはその言葉を発するフルーフに笑みを向けて口を開いた。
「それで?」
「この件が片付いたらお前はワシと正々堂々と一対一で戦え。そしてワシがお前に勝てたら、ワシの言う事を一つ聞いてもらう」
そのフルーフの言葉にそれまで笑みを浮かべていたヌーは、眉を寄せながら初めて怪訝そうな顔を浮かべた。
「それは、俺を自由にするという事か?」
「ああ。ソフィが配下を取り戻して全てが終わった後に、自由に動けるお前と戦うと言っている」
「解せんな。何故わざわざ自由になるまで待つというのだ? 俺を殺すつもりなら、座標を教えた後にやればいい」
どうせ殺すつもりなら回りくどい事をせず、やればいいと告げるヌーにフルーフは再び口を開く。
「貴様は昔、セコイ真似をしてワシを捕えた事で、ワシより強いと勘違いしておるようだったからな。もう一度しっかりと正面から戦い、力の差というものを理解させてやろうと思ったのだ」
その言葉は交渉の座につかせるために用意したフルーフにしては、稚拙な舌端だったがヌーを苛立たせるには十分だったようだ。
「てめぇは実力で俺に負けたんだよ」
「それは違うな。ワシの油断もあったのは間違いは無いが、お前に負けたわけでは無い。負けたとすれば、巧妙で念入りに結界に誘導してみせたあのミラという人間に負けたと言える。たかがお前如き魔族に負けるワシでは無いわ」
「あんだと? いいだろう……。てめぇの安い挑発に乗ってやる! 約束通りあの化け物が、配下を取り戻しやがった後、てめぇはこの俺が八つ裂きにしてやる!」
「その前に約束をしろ。ワシがお前に勝てばワシの言う事を一つ聞くと」
「上等だ! 俺が負けたらてめぇの言う事どころか、てめぇの部下にでも、何でもなってやる!」
そう言い放ったヌーは次の瞬間、全身から血の気が引く感覚を覚えた。その理由としてこれまでとはまた、別の殺意のこもった『フルーフ』の目を見てしまったからである。
「言質は取らせてもらったぞ、ではソフィの件が片付いたらお前に改めて会いに行くとしよう。それまでに覚悟をしておけ」
そう言うとフルーフは、掴んでいた鉄格子から手を離す。
神聖魔法が掛かっている鉄格子は、無残にもドロドロと溶けていたが、次の瞬間には元通りになっていく。そして冷酷なその視線をヌーから外してフルーフは来た道を帰っていき、やがて特別牢からその姿を消すのだった。
フルーフが特別牢から出て行ったあとも、ヌーは鉄格子の前で立ち上がったまま動かなかった。
――いや、正しくは動けなかったのである。
「上等だ、殺してやるよ!」
フルーフが居なくなって数分が経ち、ようやく震えが収まったヌーは、鋭利な牙を剥き出しにしながら明確な殺意を込めた声を吐き出すのだった。
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