最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第716話 問いかけと答え

 エイネの部屋を訪ねて来たのは、ミデェールだけではなかった。

「あら……? 貴方は確か……」

 ミデェールの横に居る女性の魔族は、カストロL・K地域でミデェールと共に最初に行動を起こした魔族だった。

 龍族の大陸へ向かう時も行動を共にしていたので、エイネも顔はよく覚えていた。

「『フィリー』です。エイネ様」

 エイネにそう告げたフィリーはにこやかに笑った。

「そうだったわね、それで何の用かしら?」

「突然すみません。どうしてもエイネさんに、聞いて頂きたい話があるんです」

 ミデェールが神妙な面持ちでエイネにそう告げた。

「聞きましょう」

 そう言って部屋の中に二人を迎え入れた後、エイネはミデェール達から詳しく話を聞かされるのだった。

 ……
 ……
 ……

煌聖の教団こうせいきょうだん』との戦争を終えたソフィ達が、レイズ魔国へと戻ってくると直ぐにユファ達が出迎えてくれた。

 そしてユファにレイズ魔国城の最上階にある会議室へと通されるのだった。

 ソフィが会議室に入ると同時に奥で椅子に座っていたシスが立ち上がり、こちらに声を掛けてきた。

「ソフィ!」

 ソフィがシスの方を見ると、嬉しそうな表情を浮かべるが見えた。どうやら今のシスはこの国の女王では無く、友人のエルシスのようだった。

 ソフィはゆっくりとエルシスの元へと歩いていった。

「どうやら全部片付いたみたいだね」

「ああ……。あのミラという人間は我が倒した。お主が組織の多くの者達を倒してくれたようだな。感謝するぞ」

「気にしなくていいよ。今回はキミの為というよりは、この子の為でもあったしね」

 エルシスとシスは同じ体を共有する、運命共同体のようなモノである。
 そしてその体は『シス』のモノだと考えているエルシスは、今後は余程の事が無い限り、表舞台に出てくるつもりはないのだろう。

 エルシスとソフィが話をしていると、フルーフがゆっくりとこちらに歩いてくる。

「話の途中すまぬが、少し良いだろうか?」

 そしてフルーフはソフィではなく、エルシスに声を掛けるのだった。

「もちろん構わないけど、キミは一体……?」

 ソフィとフルーフが出会い友人になったのは、エルシスが亡くなって数千年も経った後である為、エルシスとフルーフはこれが初対面であった。

「こやつは別世界の大魔王でな。アレルバレルの世界に来た事がきっかけで、

 ソフィがフルーフを友人と紹介すると、エルシスは少しだけ目が鋭くなった気がした。

「そうなんだ。ボクはエルシス。普段はこの身体の本来の持ち主である『シス』女王の中で眠る存在なんだけど、この子に危険が及んだり相談された時は、ボクが表に出てくるんだ。宜しくね大魔王フルーフ?」

「ふむ。確かに少し変わっているな。それもお主の魔法が関係しているのか?」

「いや、違うよ。ボクがこの子の体に転生して、魂が宿ったのは全くの偶然なんだ」

 エルシスがそう言うと、フルーフは興味深そうにシスの体を眺める。

 否、厳密にはシスの周囲に僅かに漂う魔力だろうか。

 そしてフルーフがの存在に、気づいたエルシスは口角を吊り上げた。

「ふふ。どうやらキミもこの子の凄さに気づいているようだね? 流石はソフィの友人という事はある」

「クックック、そうだろう? 『魔』に関していえば、フルーフはお主と肩を並べるかもしれぬな」

 エルシスは少し驚きながらソフィの顔を見ていたが、やがて両目を閉じて、何かを考える素振りを見せた。

 何かをしようとしているエルシスを察したソフィとフルーフは、直ぐにを纏う。

 エルシスが両目を開けた後、視線を二人から外した。

 次の瞬間――。

 レイズ城に結界が張られていくのを感じた。

 ソフィとフルーフを除いてその結界を感じられた者は、この場では『ユファ』『ブラスト』『ディアトロス』。そしてこの国のNo.3である『リーゼ』だけだった。

 その結界は敵から身を防ぐような結界では無く、どちらかと言えば他者の意識に干渉や影響を与えないように働きかけるようなモノだった。

 そしてさらにそこからが本番だった。

 エルシスの張った意識出来る者にのみにだけ影響を与える『結界』の効力が届く内側にだけ、特殊な『発動羅列』が浮かび上がっていく。

 膨大な量の『発動羅列』がエルシスの周囲に具現化されていく。

 しかしシスやエルシス、組織のボスであったミラでもなければ、その羅列を読み解く事は出来ない。

 何が書かれているのか、どういう効力がある『魔』なのかすら理解出来ない。

 何やらエルシスは自分の『魔』の知識の一端を『発動羅列』に浮かび上がらせて、それで何かをフルーフに問いかけているようであった。

 どうやらソフィに言われた言葉に何か思う事があったのだろう。何かを試すようにエルシスはフルーフに『魔』の知識で挨拶をしたようである。

 結界は保険のようなモノで、この『魔』の知識が及ぼす影響の万が一を考えて、張られたようだった。

『――』

 浮かび上がってる『発動羅列』は、何やら『魔』に関する文書体のようなモノではあるようだが、ソフィやディアトロス、それにブラストやユファ。リーゼであっても何も読み解く事が出来なかった。

「解はじゃな? 四元素は精霊のモノ。闇の『ことわり』は死神、つまりは神域の流言。では問いを返そうかエルシス?」

『――』

 エルシスの出した問いかけに対するフルーフの解は、どうやら当たっていたようである。

 流石に『解』どころか『問いかけ』の意味すら伝わらないだろうと半ばそう思っていたエルシスは、見事に正しい答えを示したフルーフに、驚いた顔を浮かべるのだった。

 さらに驚くことに見事な解答を示したフルーフは、に対するアンサーの『問いかけ』を返す。

 今度はソフィ達には何が描かれているか分からない『魔』の『発動羅列』が、再び空中に照らし出される。

 更にはエルシスの張った結界の内側に対して、その羅列は表記されたのだった。

 これの意味するところは別にあり、フルーフは『透過』を使って、強引にエルシス側に書き出していく。

 そしてその羅列の組み合わせは、エルシスが知らない筈のない『魔』の『発動羅列』。

 ――つまり、エルシスの編み出した神聖魔法の『発動羅列』であった。

「……」

 目を輝かせながらエルシスはフルーフの『発動羅列』を読み解いていく。そしてある事に気づいた。

「これは? 『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』? い、いや……まさか」

「どうじゃ? これはお主の編み出した魔法をじゃ。こちらの方がより最適化される。無詠唱で詠唱級の効力を持たす事が出来ると思うが?」

「最適化というより、これはボクの魔法に類似した新たな新魔法ではないかな? 効果と範囲がようだし……」

「ベースはお主の神聖魔法を使っている。ワシではこの『発動羅列』を組み替えるのが精一杯。この羅列の組み合わせを編み出す事は、ワシには出来んからな」

「成程。キミは天才だね」

「研究に費やした年数の違いじゃよ。短期間、短時間で結果を出せというのなら、お主に軍配が上がるじゃろう」

 フルーフの言葉を聞いたエルシスは、結界を解いた後にソフィの顔を見る。

「ソフィ。キミの友人は『魔』のお化けのようだね?」

「クックック、そうじゃろう? お主にも何か感じるものがあったか?」

 ソフィの言葉に、エルシスは静かに笑った。

「そうだね。今のボクにはひらめきが溢れ出るような感覚が芽生えてる。そしてボクを通してこの子は今、。ボク以上にシスは『魔』に興味を示しているからね。フルーフ? 

 ――フルーフとエルシス、そしてソフィは、三者三様に笑い始めるのだった。

 …………

 その背後では全くエルシスとフルーフのを読み解けなかったユファが、悔しそうにしていた。

(エルシスの四元素に対しての『魔』の文書体の形は読み解けそうだったけど、フルーフ様の問いかけは、完全に理解が出来なかった。悔しい……、悔しい!!)

『魔』に対して全てを捧げてきたといっても過言ではないユファは、自分がまだその領域に立てていないという事に対して悔しさを滲ませるのだった。

 そしてその横でブラストは、ユファの悔しそうな顔を見て温かな視線を送る。

(俺たちは戦闘以外で魔法に関して分からなくても気にはならないが、お前は違うんだな。お前はそれでいい、もっと努力をしていつかできるようになればいい)

『魔』に対する飽くなき探求を続けるユファを見て、ソフィという尊敬する主から『金色のメダル』を授与されるに至った努力家のユファの姿を思い出し、ブラストは嬉しそうに笑う。

 しかしそのブラストの視線と笑みを見たユファは、不満気に眉を寄せてブラストに口を開くのだった。

「アンタムカつくわね! 何が可笑しいのよブラスト!?」

 ユファはブラストに近づいたかと思うと、そのブラストの足の脛を思いきり蹴り飛ばすのだった。

「い、痛っ!! 何しやがる貴様ぁ!!」

「ニヤニヤとうざったいわねぇ!! アンタがムカつくから蹴ってやったのよ!」

「な、何て女だ、全く!!」

「何よ!」

 ユファとブラストが突然言い争い始めたのを見て、ソフィとフルーフは顔を見合わせて笑い始める。

 そしてリーゼは普段の冷静なユファからは想像出来ない今の姿を見て、目を丸くして驚くのだった。

 ……
 ……
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