最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第709話 戦争の後で
多くのイルベキア兵達を弔った後、エイネはヴァルーザ達に案内されてイルベキアへと戻ってきた。当然ながらこの世界の魔族達も一緒である。
スベイキアや多くの同盟国の軍に攻撃された拠点は見る影も無かったが、イルベキアや城まではそこまで攻撃を受けてはいなかった為に、損傷個所自体は問題が無かった。
しかし軍の兵士たちの多くが戦死しており、生き残った者達は誰もが暗い顔をしていた。
ヴァルーザ龍王が城に戻るとまず医務室へと足を運んだ。
ヴァルーザの側近であるベルモントの容態を見に行ったのである。
何とか一命をとり留めたベルモントは、意識こそまだ戻ってはいないが、呼吸も落ち着いており、このまま休めば回復する事だろう。
ひとまずは落ち着いた様子を見せたヴァルーザ龍王は、エイネ達に部屋を用意させた後、恐ろしく長い一日を終えるのだった。
次の日の朝早く『ヴァルーザ』はエイネに呼び出された。
どうやらエイネは『ガウル』龍王がどうなったか気になっていたようで、ヴァルーザ龍王にハイウルキアへの案内を頼んだのである。
シェアーザに国の事を任せた後、エイネとヴァルーザは二人で昨日の拠点へと向かった。
ガウルとヴァルーザが戦ったイルベキア国にある城の二つ先の拠点である。
「貴方は確かにここでガウル龍王と戦ったのよね?」
「ええ。私の『龍ノ息吹』で確かに倒しました」
昨日もヴァルーザ達はスベイキアから帰ってきた後、イルベキア国の兵士達を弔うためにこの拠点に訪れた。
その時にハイウルキアのメッサーガや、ピードといった側近達の死体は発見出来たのだが、肝心のガウル龍王の死体だけが見つからなかったのである。
「貴方のその『龍ノ息吹』とやらの炎で、死体ごと跡形も無く燃やし尽くしたって可能性は?」
「それはあり得ませんね。この世界の魔人族や人間族といった者達であれば、それも可能ではありますが、固い皮膚に覆われた龍族を燃やしきる事は私では不可能です」
「貴方では……。と言ったわね?」
完全に否定するような口ぶりで話始めていたが、ヴァルーザの後半の言い回しが気になるエイネだった。
「ブルードラゴンの皮膚を燃やす事が出来る龍族が居るとしたら、貴方が倒したイーサ龍王であるならば、可能だったでしょうね」
どうやらエイネの倒した『イーサ』龍王は相当の力量だったらしい。
『龍種』が違うとヴァルーザは言う。
どうやら『コープパルス・ドラゴン』という龍種は『ブルードラゴン』とは根本から違うものらしい。
「だけどもうイーサ龍王はこの世には居ない。つまりガウル龍王は、今もどこかで生きているという事ね?」
イーサ龍王以外の者達では、ガウル龍王の死体を燃やす事は出来ない。
そしてイーサ龍王はエイネの手で確実に葬られた為、生きている筈が無い。
つまりガウル龍王が、昨日の内に意識を取り戻してこの場から逃げ去ったと見るべきだろう。
「ガウル龍王が生きているとするならば、再び報復の為に動き出す事でしょう」
「……」
生きているというのであれば、ガウルとやらの魔力を感知すればいいだけの事。
エイネは『漏出』でこの大陸全土の大きな魔力を持った者を探知する。
ガウル龍王かどうかまでは分からないが、ヴァルーザ龍王を除いてこの世界で次に強いと思われる者の魔力を発見する。だがその魔力の持ち主はハイウルキアでもスベイキアでも無く、先程エイネ達が居た、イルベキア国の中だった。
「ヴァルーザ、直ぐにイルベキアに戻るわよ!」
「は……?」
他者の魔力を感知や探知する事が出来ないヴァルーザ龍王は、突然慌てた様子を見せたエイネの言葉に眉を寄せながらも従うのだった。
……
……
……
ガウル龍王は一日掛けて体力と魔力の回復を待った後に、拠点から離れてヴァルーザ龍王の動向を窺っていた。
そしてヴァルーザ龍王がイルベキアから離れたのを見計らい、ガウル龍王は復讐の為に、イルベキアへとその身を向かわせてるのだった。
「ヴァルーザめ、覚えていろよ……」
互角だと思っていたヴァルーザ龍王が自分の知り得ない強さを持ち、これまで隠してきていたという事を知って、形容のしがたい感情がいくつも彼の中で渦巻いていた。
ヴァルーザに対する嫉妬や苛立ち、更には計画が上手く行かずに、更には仲間達をやられた事による復讐心。
それこそが死にかけていたガウルを突き動かす行動源となっている。
もはやガウル龍王は、自分こそが龍族達を束ねる大陸の王になろうとは考えてはいない。
それどころか彼は、このまま生きてハイウルキアに戻ろうとさえ思ってはいなかった。
彼が今考えている事はそこまで複雑な事では無かった。
イルベキアの生き残った残党達や、民達を一体でも多く消し飛ばして、ヴァルーザ龍王の悔しがる姿を見て溜飲を下げようというだけである。そしてその為ならば、自分が死んでも構わないとさえ覚悟している。
今のガウル龍王は、本来の力はもう残されてはいない。
しかしヴァルーザ龍王との戦いの後、傷を癒す事に専念して一日休んだことで、ある程度の魔力は回復している。
短期間での龍化の状態、更にはその状態から緑のオーラを纏う事くらいの魔力である。
だがしかし、それだけできればガウルは十分であった。
もうイルベキアの軍も、多くの者は動ける状態では無い。
『個別の軍隊』が大勢残っていれば、今のガウル龍王も諦めるところだが、もうイルベキアの国力の大半は削げ落ちており『個別の軍隊』も大半が動ける状態では無い。
戦力値数億程度のイルベキア軍の龍兵はまだ残ってはいるだろうが、そんな兵士などは今のガウルであっても余裕で何とか出来る。
彼はヴァルーザと魔族の女が戻ってくるまでに少なくとも、ベルモントや、シェアーザといった国の重鎮達をこの手で葬り、一体でも多くイルベキアに生きる者達を道ずれに死ぬつもりであった。
「お前をこの手で葬る事が出来なかったのは残念だが、お前が大事な民達を守れずに、失う姿を見る事が出来ればそれでよい」
顔色の悪いガウルだが、その表情は邪悪な笑みを浮かべているのだった。
そしてイルベキア国に遂に辿り着いたガウルが街の中に入ろうとするが、そこで一体の魔族が、ガウル龍王に声を掛けてきた。
「アンタはこの国の龍族じゃないな? 折角来てもらったところ悪いが、エイネ様から誰もこの街の中に入れるなときつく言われているんだ。帰ってくれないか?」
ガウルの前に立ち塞がった魔族は、エイネの帰りを出迎える為に待っていた『ミデェール』であった。
……
……
……
スベイキアや多くの同盟国の軍に攻撃された拠点は見る影も無かったが、イルベキアや城まではそこまで攻撃を受けてはいなかった為に、損傷個所自体は問題が無かった。
しかし軍の兵士たちの多くが戦死しており、生き残った者達は誰もが暗い顔をしていた。
ヴァルーザ龍王が城に戻るとまず医務室へと足を運んだ。
ヴァルーザの側近であるベルモントの容態を見に行ったのである。
何とか一命をとり留めたベルモントは、意識こそまだ戻ってはいないが、呼吸も落ち着いており、このまま休めば回復する事だろう。
ひとまずは落ち着いた様子を見せたヴァルーザ龍王は、エイネ達に部屋を用意させた後、恐ろしく長い一日を終えるのだった。
次の日の朝早く『ヴァルーザ』はエイネに呼び出された。
どうやらエイネは『ガウル』龍王がどうなったか気になっていたようで、ヴァルーザ龍王にハイウルキアへの案内を頼んだのである。
シェアーザに国の事を任せた後、エイネとヴァルーザは二人で昨日の拠点へと向かった。
ガウルとヴァルーザが戦ったイルベキア国にある城の二つ先の拠点である。
「貴方は確かにここでガウル龍王と戦ったのよね?」
「ええ。私の『龍ノ息吹』で確かに倒しました」
昨日もヴァルーザ達はスベイキアから帰ってきた後、イルベキア国の兵士達を弔うためにこの拠点に訪れた。
その時にハイウルキアのメッサーガや、ピードといった側近達の死体は発見出来たのだが、肝心のガウル龍王の死体だけが見つからなかったのである。
「貴方のその『龍ノ息吹』とやらの炎で、死体ごと跡形も無く燃やし尽くしたって可能性は?」
「それはあり得ませんね。この世界の魔人族や人間族といった者達であれば、それも可能ではありますが、固い皮膚に覆われた龍族を燃やしきる事は私では不可能です」
「貴方では……。と言ったわね?」
完全に否定するような口ぶりで話始めていたが、ヴァルーザの後半の言い回しが気になるエイネだった。
「ブルードラゴンの皮膚を燃やす事が出来る龍族が居るとしたら、貴方が倒したイーサ龍王であるならば、可能だったでしょうね」
どうやらエイネの倒した『イーサ』龍王は相当の力量だったらしい。
『龍種』が違うとヴァルーザは言う。
どうやら『コープパルス・ドラゴン』という龍種は『ブルードラゴン』とは根本から違うものらしい。
「だけどもうイーサ龍王はこの世には居ない。つまりガウル龍王は、今もどこかで生きているという事ね?」
イーサ龍王以外の者達では、ガウル龍王の死体を燃やす事は出来ない。
そしてイーサ龍王はエイネの手で確実に葬られた為、生きている筈が無い。
つまりガウル龍王が、昨日の内に意識を取り戻してこの場から逃げ去ったと見るべきだろう。
「ガウル龍王が生きているとするならば、再び報復の為に動き出す事でしょう」
「……」
生きているというのであれば、ガウルとやらの魔力を感知すればいいだけの事。
エイネは『漏出』でこの大陸全土の大きな魔力を持った者を探知する。
ガウル龍王かどうかまでは分からないが、ヴァルーザ龍王を除いてこの世界で次に強いと思われる者の魔力を発見する。だがその魔力の持ち主はハイウルキアでもスベイキアでも無く、先程エイネ達が居た、イルベキア国の中だった。
「ヴァルーザ、直ぐにイルベキアに戻るわよ!」
「は……?」
他者の魔力を感知や探知する事が出来ないヴァルーザ龍王は、突然慌てた様子を見せたエイネの言葉に眉を寄せながらも従うのだった。
……
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……
ガウル龍王は一日掛けて体力と魔力の回復を待った後に、拠点から離れてヴァルーザ龍王の動向を窺っていた。
そしてヴァルーザ龍王がイルベキアから離れたのを見計らい、ガウル龍王は復讐の為に、イルベキアへとその身を向かわせてるのだった。
「ヴァルーザめ、覚えていろよ……」
互角だと思っていたヴァルーザ龍王が自分の知り得ない強さを持ち、これまで隠してきていたという事を知って、形容のしがたい感情がいくつも彼の中で渦巻いていた。
ヴァルーザに対する嫉妬や苛立ち、更には計画が上手く行かずに、更には仲間達をやられた事による復讐心。
それこそが死にかけていたガウルを突き動かす行動源となっている。
もはやガウル龍王は、自分こそが龍族達を束ねる大陸の王になろうとは考えてはいない。
それどころか彼は、このまま生きてハイウルキアに戻ろうとさえ思ってはいなかった。
彼が今考えている事はそこまで複雑な事では無かった。
イルベキアの生き残った残党達や、民達を一体でも多く消し飛ばして、ヴァルーザ龍王の悔しがる姿を見て溜飲を下げようというだけである。そしてその為ならば、自分が死んでも構わないとさえ覚悟している。
今のガウル龍王は、本来の力はもう残されてはいない。
しかしヴァルーザ龍王との戦いの後、傷を癒す事に専念して一日休んだことで、ある程度の魔力は回復している。
短期間での龍化の状態、更にはその状態から緑のオーラを纏う事くらいの魔力である。
だがしかし、それだけできればガウルは十分であった。
もうイルベキアの軍も、多くの者は動ける状態では無い。
『個別の軍隊』が大勢残っていれば、今のガウル龍王も諦めるところだが、もうイルベキアの国力の大半は削げ落ちており『個別の軍隊』も大半が動ける状態では無い。
戦力値数億程度のイルベキア軍の龍兵はまだ残ってはいるだろうが、そんな兵士などは今のガウルであっても余裕で何とか出来る。
彼はヴァルーザと魔族の女が戻ってくるまでに少なくとも、ベルモントや、シェアーザといった国の重鎮達をこの手で葬り、一体でも多くイルベキアに生きる者達を道ずれに死ぬつもりであった。
「お前をこの手で葬る事が出来なかったのは残念だが、お前が大事な民達を守れずに、失う姿を見る事が出来ればそれでよい」
顔色の悪いガウルだが、その表情は邪悪な笑みを浮かべているのだった。
そしてイルベキア国に遂に辿り着いたガウルが街の中に入ろうとするが、そこで一体の魔族が、ガウル龍王に声を掛けてきた。
「アンタはこの国の龍族じゃないな? 折角来てもらったところ悪いが、エイネ様から誰もこの街の中に入れるなときつく言われているんだ。帰ってくれないか?」
ガウルの前に立ち塞がった魔族は、エイネの帰りを出迎える為に待っていた『ミデェール』であった。
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